第一話
翌朝、僕は大学に向かった。久しぶりの登校だ。カバンのなかには、以前登校したときに出た課題が入っている。結構な束だ。僕は文系の学部だけれども、理系の学部は実験で研究室に寝泊まりしている奴もいる。恋人作る暇もないと、よく嘆いている。大変そうだ。
朝の光がまぶしい。家の前の街路樹の葉っぱが、やけにテラテラとしていた。駅まで歩いて電車に乗る。僕は満員電車に辟易としながら、吊り革につかまった。窓の向こうに見える大きな看板広告の上に、サナが腰掛けている。リボンやレースのついたパラソルを差していた。看板広告が見えなくなると、今度は向こう側の駅のホームで並んでいた。いつもとあまり変わらない。
視界の端にサナがいることにすっかり慣れた僕は、そういえば彼女の記憶を見たのは電車の中だったなと思い出した。
サナは僕の視界によく現れる。けれども、ゴスロリ服を着ていないサナ……つまり早苗は、今どこで、何をしているのだろう。連絡先を知っているわけでもないし、ただ彼女の記憶を少し見ただけだ。
そういえば、彼女は火事に遭っていた。新聞記事やネットで火事を調べたら、早苗のことがわかるだろうか。
課題を出したあと、大学図書館で調べてみることにした。
キャンパス内にはたくさんの木が植っている。樹齢何年と書いてある木の横を通るサナが見えた。ヘッドドレスのリボンが木の枝に引っかかって、ちょいちょいと指で直している。
僕は教務課で課題を出すと、大学図書館へと向かった。どっしりとした建物には窓が少ない。おそらく、日焼けで本が傷むのを避けているのだろう。
図書館内で検索していると、いくつか同じ授業を受けている学生がやってきた。綺麗な黒髪の、きりりとした印象の女性だ。
三好さん……だったっけ?
彼女は僕を見つけると会釈して、するりと横を通り過ぎていく。すれ違いざまに僕のカバンが引っかかって、タロットカードが何枚か床に散らばった。
この前、焼き芋屋の前でもこんなことがあった。まるで誰かの記憶を吸う意思を持っているようだった。
「ごめんなさい。拾います」
「大丈夫だから、そのまま」
僕はカードを拾おうとする三好さんを止めたけれど、彼女はするりとしゃがみこんで、まだ真っ白な絵柄の描かれていないカードを手に取った。
氷の割れるようなピシッとした音が聞こえて、僕はこめかみを指で抑えた。
三好さん、ごめん。




