79何がいけない?ネイトの常識は非常識だった
俺は何がいけなかったんだ?いくら考えてもわからない。
いや、今回の女がリンローズの義理妹のアシュリーだったからだ。
クッソ!地震さえなければいつもの侍女に欲を吐き出せていたものを‥
でも、まさか女がアシュリーだったなんて‥俺にすればどんな女も同じだから気づかなかった。
俺はラセッタ辺境伯の嫡男として生まれた。次の辺境伯家を継ぐのは俺と決まっていた。
だから俺は嫡男としての在り方を早くから教え込まれた。
精通があると父から話を聞かされた。
男の精液には女を妊娠させる子種があると、だからむやみやたらに女と関係を持つことはいけない事だと教わった。
だが、男には欲というものがあってそれが溜まると女に言い寄られると抑えがきかなくなることがあるんだと。
そんなとき謝って女と関係でも持ったら大変なことになると。
だから俺には欲の解消係と言う女が付けられた。
最初はナターシャという侍女だった。彼女に初めて口でやってもらった時はそれはこの世にこんな気持ちのいいことがあるのかと思った。
二度目はシャーリーだったと思う。三度目は‥もう忘れた。
ただ、俺が気に入ったと思う女を指名してもそれが叶うことはなかった。逆に気に入った女は外された。
解消係は定期的に入れ替わりになったので俺は女に固執することはなくなった。
欲さえ解消できれば誰だろうと関係ないと思うようになった。
特に魔力を大量に消費すると欲が激しくなり都合が良かった。
最初の結婚で俺は初めて女を知った。それからは妻のエリサを抱きつぶした。
今までの反動からか令嬢なのに激しく求めた。まるで猿だった。獣のような体位をさせてやりまっくった。
でも、そのうち俺を拒否するようになった。仕方なくいつものように欲の処理に使用人の女を使って吐き出した。
そしてエリサは王都に逃げ帰った。でも、男と浮気は想定外だったが。俺は浮気はしていない。欲の解消は浮気とは言わないだろう。
だからリンローズと知り合い彼女に欲を抱くようになると苦しかった。
またエリサのようにして嫌われたらと思うと結婚まではと堪えるしかなかった。
もちろん結婚してからもだろうが。
まあ、それにまだシュナウト殿下との婚約が解消にならなければ話にもならない事ではあったのだが。
それで欲が溜まると辺境領に帰って欲を吐き出した。女はその日いる解消の出来るものを使った。
俺に取ったら女たちは言わば吐き出す道具でしかない。
なのに‥リンローズは愛しているならこんな事はしないはずだと言った。こんなのは愛じゃないと。信じた私がバカだったとも。
なぜ?なぜなんだ?俺は確かにリンローズを愛している。
どうしようもないほどこの胸は高まり彼女の事を思い狂おしいほど愛しているのに。
彼女のナカに入れる日を指折り数えて我慢して来たというのに‥
なぜなんだ?
俺の何がいけなかったんだ?
わからない。
だから王宮にリンローズに話をしに行った。
そばにはシュナウトがいつもついていてふたりは互いを見つめ合い愛し合っているとはっきり言われた。
「俺だってリンローズ。君を愛している」
そう言うとリンローズがこっちを向いてくれた。俺は思わず頬が緩む。
「ラセッタ辺境伯。きっとそれは愛ではありませんよ。私はっきりわかったんです。シュナウトを愛しているって。だからもう終わりです」
冷たい声だった。心臓が止まりかけた。
それでも何とか脳細胞を探ってシュナウトがどんな男だったかを思い出す。
「でも、こいつは何人もの女と関係を持っていたんだろう?俺は違う!」
シュナウトは酷い男だったはずだ。
「はっ?同じ事じゃないですか?いいからもうお帰り下さい」
どういうことだ?
「俺を騙したのか?」
「騙されたのは私の方です」
リンローズはそう言うと視線をシュナウトに向けた。
「待ってくれ!」その声を発すると同時に護衛兵が来て腕を掴まれた。
「まだ、話があるんだ!」
「リンローズ?」シュナウトが彼女の顔を覗き込んだ。リンローズが首を横に振った。
「追い出せ!」シュナウトが一言言った。
二度とリンローズがこちらを振り向く事はなかった。
引きずり出されるようにして部屋を追い出された。屈辱だった。
俺は騙された。そして捨てられたんだ。
言いようのない虚脱感と裏切られた腹立たしさで俺は辺境にこもりっぱなしになった。
まあ、もともと王都になど興味もなかったからちょうどいいと思った。
そこにラドールが尋ねて来た。
半年が過ぎリンドールはもうシュナウトと結婚式を済ませている。
その日も朝から欲を解消させた。イライラが募りほとんど毎日朝も夜も発散したくなる。困ったものだと思いながらもやめれなかった。
女たちには特別手当も支給しているんだ。あいつらも給金が増えて喜んでるくらいだろう。
そそくさと女が部屋から出て行く。俺はズボンを上げてラドールを見た。
「はぁぁ~兄上‥相変らずなんですね」
「それがどうした?そうだ。リンローズはどうしてる?」
話をそらす気もなかったがずっと気になっていた。だからつい聞いた。
「シュナウトと結婚しましたよ。当り前ですよ。それより兄上はどうして結婚式に来なかったんです?王都ではちょっとした噂ですよ。兄上がふられたからだと」
「誰があんな女。まあ、少しは興味があったが何とも思っていない」
「また、現場を見られたんでしょう?エリサさんの時のように‥」
「だからどうだと言うんだ?別に大したことじゃないだろう。浮気したわけじゃない!」
「まったく兄上は‥兄上の常識は間違っているんです。どこの家もそんな解消する役目の女はいないんですよ。一般的な常識では愛する女と抱き合い欲をその女に注ぎ込むことが愛し合うって事なんですから、それで愛の証として子供を授かるんです」
はっ?何が間違っている?俺はラドールの言うことに初めて驚いた。
「じゃあ、俺の家は?父は俺にどうしてこんなことをしたんだ?」
冷めた目でラドールが俺を見る。
「それってある程度大人になれば常識でわかるでしょう?普通はいくら欲の解消をしていたからと言っていい加減止めますよ。相手にだって感情はあるんです。こんな扱いをして自分でもおかしいとは思わなかったんですか?」
「そ、それはそうだが‥俺だってリンローズを抱きたいと思っていた」
「じゃあ、こんな事やめれば良かったじゃないですか?いつまでもそんな事をしていた兄上が悪いんじゃないんですか?女を道具みたいに扱って来ましたよね」
「それは‥俺が悪かったって事か?うそだろ‥‥」
俺はそこで初めてどうしてリンローズに嫌われたのか気づいた。
そして何も言えなくなった。




