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44ラセッタ辺境伯の秘めた気持ち


 俺達は午前中の間に見回りを終えた。

 午後からは安全確認を終えた近くの魔石の魔力の補充に回った。

 騎士隊員が5人ほどついてヒルダ様とリンローズとに別れて回る事になった。

 俺はもちろん迷わずリンローズに同行した。本当なら山の見回りについて行くべきだとは思ったがどうしてもリンローズのそばにいたかった。


 父が体調を崩して辺境伯を継いだのは1年ほど前だった。母はすでに亡くなっていて(ラドールは自分の分をわきまえていて学園を卒業するとシュナウト殿下の側近になった。

 俺は幼いころから嫡男としての教育を受けて来たので後を継いでも何の問題もなかった。


 これでも一度は結婚をした。5年前だ。

 もちろん政略結婚で相手はラートン伯爵家の令嬢。名はエリサだった。王都の学園を出たばかりの田舎を知らない令嬢だったが何とかうまく行けばと思っていたが。

 結婚して一度辺境に来たがすぐに王都に帰ってしまいそれっきりずっと王都に住んだ。挙句の果てに別の男と…それで半年で離婚。

 まあ、こんな田舎しかも結界が薄れると魔物が出るような辺境に来るような女はいない。そんなわけで27歳にもなって未婚のままだった。

 元々俺に近づいて来る女は媚を売るような女ばかりで、エリサともあんな事になったので結婚はもうしなくてもいいと思っていた。


 だが、怪我をして苦しんでいる時にリンローズが来てくれて俺はほんとうに女神かと思った。

 甘いはちみつが口に中に溶け込んで目の前にあの顔が‥ホワイトゴールドの髪に紫水晶のような美しい瞳。ぷっくりとした桃色の唇、そしてとろけそうな微笑み。ああ…この世にこんな女性が存在するとは…

 まさに恋に落ちたのだ。

 だが、シュナウト殿下の婚約者と聞いてどれほど落ち込んだか。それなのに彼女は婚約解消を望んでいると言った。

 まさに運命の出会いではないだろか。

 こんな気持ちになる日が来るなんて思いもしなかった。寝ても覚めてもリンローズの顔が目の前にちらつく。

 彼女の事を考えると胸が苦しくなって会いたくてたまらなくなる。その声を聞きたいと切に願ってしまう。

 ほんとうに俺はどうしたと言うのかと。


 それに彼女は自身の領地から支援物資まで送るよう手配もしていたらしい。

 なんて出来た女性なんだ。

 これは俺の妻にピッタリではないかとさえ思ってしまう。

 俺は相当重症らしい。


 朝一番にリンローズにお礼を伝えたら遠慮深げに頬染める君が好きだと言ったしまいそうになった。

 彼女の隣を歩き魔石に魔力を込める彼女をうっとり見つめる。

 きっと俺の顔はだらしなくゆるゆるに緩んでいるに違いない。部下にこんな顔を見せていいものかと思うがどうしようもない。

 リンローズを前にするとうれしくてどうしようもなくなるのだから。

 光が空宙を舞い魔石を包み込んでいく様はそれはもう女神の御業としか言いようがない。

 付き添う騎士も神々しい偉業に息をつくばかりだ。

 それはそうだろう。俺の愛するリンローズは素晴らしい女性なんだから。

 いや、彼女はまだ一応は殿下の婚約者。そんな事口が裂けても言ってはだめだ。そう思うもリンローズは好きだ~と叫びたくてたまらなくなる。


 無事に魔石に魔力を補充する作業は終わった。リンローズは頑張って7か所も回ってくれた。

 何とも俺の女神はすごい。

 今まで結界の事もあって聖女は何度もこの地を訪れた。だが、来るたびに聖女の顔ぶれは変わった。

 一番多く来てくれているのがヒルダ様だろう。

 だが、これほど貢献してくれた聖女はいまだかつていなかったのではないだろうか。

 

 「リンローズ?身体は大丈夫か?午前中も診療所を手伝ってくれたと聞いたが」

 「大丈夫です。これでも私体力には自信があるので、それにまた誰かが魔物に襲われたりしたら嫌ですから、もう一か所回りますか?」

 ああ~なんて優しいんだ。

 「ああ、でも、まだ明日もある。もう今日はこれで終わりにしよう。そうだ。タルト旨かった。リンローズが焼いたそうだな。驚いた令嬢がそんなことまで出来るなんて」

 「いえ、ネイト様のお屋敷で取れた果物で作ったんですよ。あんなにたくさんの果物すごいです」

 「そうか。母が好物でな。その母も亡くなったから、良かったらいくらでも使ってくれ」

 「じゃあ。ママレードを作ります。そうだネイト様はアップルパイなどはお好きですか?」

 「ああ、大好きだ」

 そんな話をする彼女はすごく輝いていてこっちまで疲れが吹き飛ぶようだ。

 そんな話をしている間にもう我が家についてしまった。

 「では、私はこれで失礼します。あっヒルダ様もお帰りでしたか?お疲れ様です」

 リンローズは丁度帰って来たヒルダに駆け寄り一緒に屋敷に入って行った。

 俺はその後ろ姿をずっと見つめていた。

 

 「コホン。あの、ラセッタ辺境伯。残りは山に入ることになるので明日という事でよろしいでしょうか?」

 「ああ、そうしよう。皆ご苦労だった」


 俺達が魔石を回っている間にラドールやホクス隊長たちが山の安全確認を終わらせたらしく明日にはすべての魔石の補充が出来そうだ。

 それが終わればいよいよ結界を張ることになる。

 

 

 結界作業を終えたら王都に一緒に行くつもりだ。

 ラドールの報告によるとブルト・ロンドスキー一派の不正で神宿石を国外に売り捌いているらしい事がわかった。

 まだ確実な証拠が掴めるまでは下手な動きが出来ないことが腹立たしい。

 少し前までは東の辺境伯と南の辺境伯はロンドスキー寄りだったが結界の事が問題になって俺の説得に応じてくれた。

 今やあいつを国王代理から引きずり落すことは4辺境伯と反ロンドスキー派の貴族たちの悲願となった。

 聞けばドーナン殿下も神殿に移されて身体も回復しているらしい。

 ということは‥シュナウトは排除しても問題はないと言う事だ。

 そして俺はリンローズにプロポーズしよう。

 俺はそんな事を考えてその日をやり過ごした。






 

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