38朝食の席で
翌日目を覚ますとラセッタ辺境伯家の侍女が私の世話をしてくれた。
「聖女様、お疲れでしょう」と風呂に案内される。身支度は整えれるからとそのまま出て行ってもらい私は風呂を堪能する。
客間の隣に併設された浴室は大きな窓があってそこから中庭だろう景色が見えた。
大きな木がいくつも植えてあり果実を実につけた木もあった。
あれはオレンジ。こっちは桃。えっ?あれはりんごなの?うわっ、この屋敷ってすごい。
後で少し果物を分けてもらえないかな。タルトにしてもいいしママレードもいいな‥
のんびりとした時間が過ぎて行く。まるで前世に戻ったみたいな時間。
まぁ、前世でもこんなにのんびりした時間を過ごせたことはあまりなかった気もするが‥
そして朝食の席へ。
ずらりと揃った顔ぶれ。ラセッタ辺境伯とその仲間のような顔ぶれに私は脚をすくませる。
「おはようリンローズ。気分はどうだ?」
第一声はラセッタ辺境伯だ。
「おはようございます。はい、おかげでもうすっかり。皆さまおはようございます。あの、辺境伯様もお加減はいかがですか?」
「ああ、問題ない」
昨日は挨拶もなく意識を失ってこの屋敷に滞在してしまった事に後悔が押し寄せる。
そんな立ちすくむ私の腕を取ったのはシュナウト殿下だった。
「さあ、リンローズ。俺の隣に座れ」
「はい」
とっさの事で思わず彼の言う通りにしてしまう。椅子を引かれて座ろうとして「いえ、やっぱり私は殿下の隣は‥」
「他の席はないぞ」
首を動かし周りを見る。皆さんにっこりと微笑んでこれ以上場の雰囲気を壊すのはわしには出来そうにない。
「そうですね。失礼します」
「ああ、それでいい」
くぅ!悔しい。でも、ここで騒ぐのは大人げない事だもの。ぐっと歯を噛みしめて堪える。
「それにしても聖女様の力には驚きの連続ですな」少し年配の男性から声がかかる。
とっさにあの神宿石の事を言っていると思う。
「いえ、とんでもありません。昨日の事はシュナウト殿下のお力ですので」
「いえ、あれはリンローズがいたから出来た事です」
私がそう言えばシュナウト殿下が私を持ち上げる。
「ハハハ。ふたりは仲がよろしんですな」
「と、とんでも「ええ、そうなんです」もっ!」と言いかけたが私だって常識はある。そこで口を閉じた。
【やっぱり俺の思った通りだ。俺の実力がわかっただろ】
また脳内に声がする。これってシュナウト殿下?また、いい気になって。
ラセッタ辺境伯が言葉を繋ぐ。
「そうそう、彼は辺境伯騎士隊長のボルゾイ・カルキースだ。隣は副隊長のジードにあっちは執事のモートルだ。屋敷の事は何でも彼に聞くと言い。俺達はこれからこの辺りの偵察に出る予定だ。まだ魔物がどこに潜んでいるかわからない。リンローズはもう少し休んでいてくれ。午後にはけが人の手当てでも出来ればお願いしたいと思う‥それで、シュナウト殿下はどうされます?」
楽しそうに話していた彼の顔がシュナウト殿下に向いた途端冷たくなる。
「もちろん一緒に行く。魔物が出れば一緒に倒すつもりだからな」
シュナウト殿下は勢いよく答える。
「はい、ですが無理はなさいませんように、何しろ魔物討伐は初めてと聞きました。殿下にもしもの事があれば私の首などなくなりますので」
ラセッタ辺境伯はシュナウト殿下に明らかに嫌味を言っている。
「そんな心配には及びません。俺、魔力には自信ありますから!」
シュナウト殿下はそれはもう自信たっぷりに言った。
はぁぁぁぁ‥‥
私はそんな彼を白けた目線で見つめた。
その自信。なにを根拠に?昨日のあの一件か…あれ、マジ偶然だと思うから。あまりうぬぼれない方がいいわよと思ったが知らんふりをした。
朝食後。シュナウト殿下はラセッタ辺境伯とその騎士隊の一段と見回りに出かけた。
見送る際にシュナウト殿下に耳元で「油断しないでね」と声をかけた。
彼は「任せろ」と意気揚々と出て行った。
あんないい気になってもう知らないから。
その後、風呂場から見かけた果物を頂けないかと話すと快く頂けることになった。一度神殿に出向いて帰ったらタルトでも作ろうかと考えた。
何かしていないとあいつの事が頭から離れない気がした。




