32転移
私は急いで神殿を後にしようとしたがセダ神官に止められた。
「リンローズ。どうした忘れものか?だが、もう時間がない。必要なものはあちらで調達すればいい。さあ、シュナウト殿下も一緒にどうぞ」
「でも、叔父様。シュナウト殿下はアシュリーと行くんで「アシュリー?無理だ。転移陣で送るのにはかなりの魔力が必要なんだ。私もふたりが精いっぱいでな」大丈夫です。私は馬車で行きますから」
セダ神官の眉が上がる。
「ヒルダはもう騎士隊と一緒に出発したぞ。リンローズが不安だろうと急ぐと言っていたから明日には着くだろう。お前が馬車で行けばヒルダはがっかりする」
はっと我に返る。私ったら。自分の都合ばかり言ってる。
「すみません。でも、ラセッタ辺境伯の所で宴があるって、私シュナウト殿下と一緒に出席なんか嫌なんです!」
「それは殿下は王族だからだろう?リンローズは欠席すればいいじゃないか。うん?」
セダ神官は首をかしげて眉尻を下げた。
ああ、それもそうだわ。もう、私ったらそんな事にも頭が回らないなんて‥
やっと息が付けた気がした。
もう、どうかしてる。
「さあ、こちらです」
セダ神官はすっと真顔に戻って私たちをあの部屋に案内した。
礼拝堂の奥、その薄暗い部屋に明かりがともされる。壁に祀ってあるガイアン大神の像が浮かび上がり床の中央には転移陣が浮かび上がった。
「これが転移陣…」シュナウト殿下は初めて見る転移陣に興奮しているらしく声が浮きだっている。
「はい、一度にふたりは無理ですのでまずはシュナウト殿下から中央に立って下さい」
「いや、先にリンローズを。また行かないとか言い出すと「そんな事言いません!」分かった。でも、転移陣で人が移動するところが是非見てみたいんだ。いいだろうリンローズ。頼む」
シュナウト殿下は子供みたいに無邪気に笑った。
もう、ずるいんだから。
「いいですよ。どうせ行かないって選択肢はないんですから。ではお先に」
「では、リンローズ。転移が発動すると身体が浮き上がったような感覚になると思います。それに少し乗り物酔いを起こしたようになることがありますので脚元に気を付けて下さい。転移先は西辺境伯にある神殿ですので心配いりません。あちらでも神官が待機していますので」
「わかりました」
「では、リンローズ。目を閉じて息をゆっくり吸って‥そしてゆっくり吐いて‥気持ちを落ち着けていて下さい」
「はい」
そのまま私は光に包まれる。
まばゆい光は目を閉じていても感じるほどで身体が一瞬浮き上がったような感じがするとひゅっと真っ暗な世界に放り出されたような感覚がした。
それは一瞬だったのか数分だったのか、時間の感覚はない気がした。
そして声がした。
「リンローズ様?ご気分はいかがですか」
柔らかな女性の事と男性の声も混じっている。
ぐらりと身体が揺れて次には腕をつかまれた。
「ご安心下さい。無事に転移は終わりました。ここは西の神殿です」
私は無事に転移したらしい。




