28ドーナン殿下の告白
「シュナウト。せっかくこうして会えたんです。お前は王家の光なんです」ドーナン殿下がシュナウトの手を取った。
「そんな事…」
「私はずっと病気がちでもう王政には関わることは出来ないと思って来ました。いや、むしろもう死ぬと思っていました。ロンドスキー公爵の思惑通りになる事にも苛立ちを覚えていましたがどうしようもできない自分が苛立たしかった。でも、シュナウトが現れてある意味私は救われたんです。これで王家を引き継ぐものがいてくれると…だからそんな子供じみた事を言うのはやめなさい。シュナウトはこれからこの国を背負って行かなければならないのですよ。それにこうして寝込んでいても色々な噂は耳に入って来るんです。リンローズが怒るのは無理がないはずです。このままでいいとは思っているのなら考えを改めた方がいい。でも…だからこうして私に会いに来たんでしょう?」
ドーナン殿下のシュナウト殿下を見つめる目は優しい。
「そ、それは一度は会って見たいと思ったから…それに今までの俺は少し態度も悪かったと思ったから…」
「そうなんですか。リンローズそう言う事らしいですから」
ドーナン殿下が私に目を向ける。
「いえ、私はそんな事は期待していません。私は婚約解消を望んでいるんです」
「おや、もうすでに手遅れですか。これはいいことを聞いた。ということは私にもチャンスがあると言う事ですね。そうとなれば私は頑張って体調を戻すことに全力を傾けます。そしてリンローズあなたに求婚したいと思います」
ドーナン殿下は私をシュナウトを交互に見る。
でも、その顔は真剣というわけではなくむしろシュナウトにやるきをださせようとしているふうに思えた。
もう、ドーナン殿下瞳の奥が笑ってます。
「はっ?兄上とはいえ俺の婚約者に何を言ってるんだ?俺は婚約解消するなんて認めてないからな。リンローズ。面会は済んだ。帰るぞ!」
「何であなたが私に命令するのよ。帰りたければお先にどうぞ。私はドーナン殿下にオートミールバーを作ってから帰りますから。遠慮なくお先にどうぞ!」
「何であんな奴につくるんだ?作るなら俺に作れ!俺はお前の‥」
シュナウト殿下が私の手を掴もうとした。彼の顔は怒りをにじませている。
もう、ばかなの?そんな事もわからないなんて…ドーナン殿下が昨日会ったばかりの私に婚約を申し込むはずがないじゃない。
セダ神官がその間にさっと入る。
「ここは病室です。さあ、もうお引き取りを…シュナウト殿下も明日は出発ですよね?どうかゆっくり休んで下さい」
「セダ、シュナウトが出発とは?」
「いえ、ドーナン殿下はご心配なさらず。明日リンローズと一緒に西の辺境伯に結界の修復の手伝いをするために行くのです」
ドーナン殿下の顔が曇る。
「リンローズは聖女でもあったな。そうか。すまん。それなのに私は身勝手な事を言った。リンローズ。私の事はいい。しっかり休んで明日に備えてくれ。くれぐれも無理はするな。帰ったら無事な姿を見せて欲しい。私も一日も早く回復できるよう頑張らなければなぁ」
「ドーナン殿下ありがとうございます。でも、オートミールバーはすごく簡単ですから大丈夫です。私ちょっとキッチンをお借りしますので…」
私はドーナン殿下にお辞儀をして部屋を後にした。
シュナウト殿下の顔は見なかった。ほんとに勝手なんだから。あんな奴の事など知るもんかと。
でも、シュナウト殿下はどうしてあんなに怒ったんだろう?そんな疑問が胸に渦巻いた。
それから私はキッチンでオートミールバーを作った。昨日より多めについでにベリー入りとナッツ入りの2種類を。
「ドーナン殿下‥あっ、ごめんなさい。もうお休みでしたか?」
ドーナン殿下の部屋の扉を開けて後悔する。彼はもうベッドに横になっていた。また体調がすぐれないのかもしれない。
「私ったら‥」
私はドーナン殿下を起こさないようにそっとサイドテーブルにオートミールバーを置いて部屋を出ようとした。
壁際に向いたドーナン殿下から声がした。
「リンローズ。聞いて、僕は本気で君の婚約者になりたいって思った。こんな気持ち初めてなんだ。だから僕は絶対に元気になろうと思う。だから」
がばり!
いきなりドーナン殿下が起き上がって私の手を掴んだ。
その力は凄く私の脚はすくむ。驚きで顔が強張る。
「いや…その。済まない。脅かすつもりは…君を見たらこんな恥ずかしい事言えそうになくて…やっぱり僕はだめな奴だ…今言った事は…わす「違っ!いえ、少し驚きましたけど、でも、その、婚約者はちょっと‥いえ、嫌とか言うんじゃなくて」ああ、わかってる」
彼はしょんぼり顔をうなだれ掴んでいた手を離した。
私は慌ててその手を握り返す。
「でも、殿下の目標が出来たのはすごくいい事ですよ。元気になって私を奪いに来て下さい。なんて」
曇った顔に一気に生気が宿る。
「ほんとに?僕にもチャンスがあるのか?」
えっ?まじ!つい前世の世界観ではっぱかけるつもりで言ったのはいいけど…しまった。どうしよう……
私はしどろ戻りになりながら「あっ、言葉の綾です。それくらいの気持ちを持ってほしいって事ですよ~」
「ああ、そうだな。最初から諦めるなんてそんな気持ちは偽物だな。よし、君に認めてもらえるように頑張るから」
「ええ、その意気ですよ。殿下。これ、良かったら今度はベリーとナッツの2種類にしてみました」
「早速作ってくれたのか?ありがとう。それにリンローズ。僕の事はドーナンと呼んでほしい。それから気をつけてな。危険なことはしなくていい。君は聖女なんだ。危ないと思ったら騎士に任せるんだよ」
「はい、もちろんです。私これでも辺境とか行くのは初めてなので無理はしませんって言うか出来ません。では、ドーナン様も無理せず頑張ってください」
「ああ、こっちに」
私はそう言われてドーナン殿下のそばに近づく。
ドーナン殿下がぐっと身を起こし私の肩をそっとつかむ。彼の紺碧色の瞳が近付く。その瞬間私の額に彼の唇が触れた。
「あっ…」
何でもない事なのに。心臓がバクバクする。
「おまじないだ。母がよくこうやってしてくれたんだ」
彼ははにかんだように触れたばかりの唇を震わせた。
「は、はい、ありがとうございます。絶対に無事に帰って来ますからご心配なく。では」
「ああ、あれ?お別れのキスは?」
「ドーナン様ったら…そんなの無理ですよ」
私はいきなりの無茶ぶりにどぎまぎしてそのまま振り返らず部屋を出た。
もう、いくら何でも展開早すぎよ。でも、男性に優しくされるのってやっぱりうれしいかも。
シュナウト殿下との思い出はあまりにひどいかったからか。
早く誰かに気持ちを移したいとでも思っているのか。
酷く心が揺らぐ。
ううん。そんな事を思っている場合じゃない。
今はこれからの事を一番に考えなくちゃならないんだから。




