第005話 巫女の選抜
第005話 巫女の選抜
あれからしばらく時間がたって、地震騒動も落ち着き、緊急対策本部も解散された。
ウチのお母さんもようやく落ち着いたみたい。
ウチのおばあちゃんの体調も良くなったし、とりあえず平和な日常を取り戻したのだろうか。
そういえば今年は湖の近くの神社で、ひさしぶりに大きなイベントの夏祭りがあるらしい。
100年に一度くらいのビッグイベントで大人たちもザワついている。
この神社は本当に古いらしくて、ざっくり数千年の歴史がある日本でも最古級の神社らしい。
日本の歴史が2千年とか言っている学者さんたちが多いみたいだけど、本当はそんなことなくて軽く1万年近い歴史があるって言い伝えを聞いたことがある。
村の近くの遺跡とか古墳でも数千年前のものは、たくさん発掘されていて、博物館でも普通に説明書きで紹介されて展示されているしね。
いったい誰が日本の歴史のことをたった2千年だなんておかしなことを言ってるのかしらね。
学校の先生に矛盾していておかしいって指摘した子がいたけど、先生は苦笑いして誤魔化していたわ。
ここの神社は何か不思議な感じで、山とか石とか木とかを大事にして拝んでいるみたい。
それにここの神社には他の神社と違って鳥居としめ縄がないし、神社の裏側に禁足地とかいう富士山みたいな形の山がある。
私も昔はおばあちゃんによく神社に連れていかれて、ご神体とかいう石とか木とか拝まされたけど、あれってどんな由来があるのか古すぎてよくわからないみたい。
ただ1つだけ由来がわかっている巨大な岩が、神社の裏山の上の方にあって、おばあちゃんに聞いてみたことがある。
「どうしてこんな山の上なのに、こんな大きな岩があるの?
どうやって運んだのかしら?」
おばあちゃんが何かを思い出して答えてくれた。
「昔、私のおばあちゃん、アリアちゃんのヒイヒイおばあちゃんかしら、に聞いたことがあるんだけどね。
はるか昔に大地震や火山の大噴火が長期間続いた時代があって、世界が滅びそうになったみたいなのよ。
その時に、空からこの巨大な岩が降ってきたって聞いたわ。
そうしたら、なんと一瞬で地震や噴火が止まったっていうの。
当時の人たちはこの巨大な岩のことを要石とかって呼んでいたらしいわ。
後世にまで二度と動かしてはいけないっていう厳しい言い伝を残したらしいの」
おばあちゃんのおばあちゃんは村の歴史に詳しい物知りで、やけに霊感が強い不思議な人だったみたい。
イマイチ信じられないのでおばあちゃんにこう言ってみた。
「こんな岩ぐらいで地震が止まるわけないじゃん」
おばあちゃんがたしかにそうでしょうと言いつつ変な話をしてきた。
「この村で伝わる言い伝えじゃ、地球はピラミッドみたいな形をしているらしいの。
そのてっぺんが日本なんだそうよ。
ちなみにそうは見えないかもしれないけど、世界中にあるピラミッドは完璧な本来の地球の形を目指して作ったって聞いたことあるわ。
でも本当は地下にも逆さまのピラミッドがあって、上下で二つのピラミッドをくっつけると菱形になるんだって。
その菱形を丸いオーラみたいな玉で覆うと地球になるんだって、信じられる?」
おばあちゃんが何かを思い出すように話を続けた。
「それに、この村で伝わるもう1つの言い伝えじゃ、日本は世界のひな形で、最初に作られた龍神の形の島だって言うの。
九州はアフリカ、四国はオーストラリア、本州はユーラシア、北海道が北米と対称になっているんだって言ってたわ。
日本の地域で起きたことは、世界の似た形の地域にもつながっていて影響するんだとか本当かしら。
ちょっと難しい言葉で内八洲外八洲観って言うんだって。
富士山がヒマラヤ山脈で、三重県が中東で、琵琶湖がカスピ海って言われると、たしかにそっくりでしょう。
その世界のてっぺんの場所に要石を置くと世界の揺れが止まるっていう仕組みらしいの」
たしかに言われてみると形は何となく似てはいるけど、そんな話は世間で聞いたことがない。
おばあちゃんが話を続けた。
「名前を忘れたけど日本の古文書って今でも教科書にも出てくるのかしら。
本当の世界の中心は、ここじゃなくて瀬戸内海の島なんだって。
古文書にもその島が最初に作られたって書いてあるらしいの。
ここの要石は、その島と直線上で結ぶ大事な中心線の上にあるみたい」
ここって言い伝えを信じるなら、世界平和のためのスゴイ大事な村だったみたい。
この村の周辺は、そんな古い歴史の博物館みたいなところで、他にも変わった遺跡がたくさんあるんだけど、長い日本の歴史の中でもあまり表には出てこないで、ひっそりとこの村の中だけで伝統として受け継がれてきたらしい。
その伝統の1つが例のお祭りの話。
いつものお祭りは世間一般にあるような普通のお祭りだけど、何十年かに一度だけ大祭と言われる大きなお祭りがあるみたい。
後輩の西園寺に聞いた話では大祭は普通のお祭りと少し違うらしい。
「神社の大祭では、村の外部の人は許可を得た人しか立ち入ることが許されないみたいなんです。
入れるのはウチの村の者だけなんだって聞きました。
ただテレビでは中継されるらしいんですけど、実際に体験してみないと凄さが全然分からないみたいです。
その大祭のクライマックスでやるのが神降ろしの神事ってイベントなんですけど聞いたことありますか?
それがどうも神さまにこの世界に降臨していただくって話なんですって」
神さまって本当にいるのかしら?
昔のほとんどの日本人は、神さまのことを当たり前のように普通に信じていたみたいだけど。
だけど今の現代人たちって、神さまなんか本当にいたらネットでバズって大騒ぎになると思うのよね。
でも神さまが現実に降臨したなんて動画がバズったって話は聞いたことがないから本当にいるのか疑問に感じる。
ネットの都市伝説系の動画とかでUFOとか宇宙人とか、あとは幽霊なんてのは出てくるけどね。
神さまとか天使とかのリアルな動画って意外と聞かないと思う。
そもそも私のピンチのときに神さまお願いって言っても聞いてもらったためしがないし。
ただ、この村の大人たちは、おばあちゃんや、お母さんもそうだけど、神さまに対してやけに神経質な反応をする時がある気がする。
私が小さい頃に神社で失敬なことを言ったら、普段は穏やかなお母さんがやけに神経質に叱ってきたのが気にはなっていたのよね。
西園寺の話では大祭で問題なのは、その神降ろしの神事らしい。
「何年かに一度の大きなお祭りの時には、剣道部の部員の女子が巫女として参加するっていう噂を聞きました。
普通にお祭りのお手伝いをするだけだと思ったらどうも違うらしいんです。
詳しく分からないのは、本人たちがみんな都会に行ったりでこの村からいなくなったから聞けないんですって。
どうなっているんでしょうね?
今回は何十年かに一度だけの大祭ですから、参加はマストだと思います」
ちょっと寒気がしながら西園寺に答えた。
「何それ。
そんな大事なイベントとウチの剣道部ってなんか関係あるのかしら?」
西園寺は頷きながら神妙な顔で話を続けた。
「たしかに。
ちょうど今日は神社の方が剣道部に見学に来て、誰にするか決めるみたいですよ」
その日の夕方に剣道部の練習場で練習していると、練習場のチャイムを鳴らす来客があった。
おじいちゃんが玄関に出向くと、お客さんと何やら話し込んでいるみたいだ。
しばらくすると見慣れない高齢の男性が見学に入ってきた。
おじいちゃんが練習を中断して、部員を全員呼んで集めた。
「今日は、神社からお祭りに参加してもらう部員を選びに、宮司の安倍さんが見学に来られた。
昔から伝統的に神社のお祭りの巫女として、ウチの剣道部から参加してもらっている。
夏休みの間は、かなりの時間を出家というか泊まり込みで参加してもらうことになるが、非常に名誉なことなので是非受けて欲しい。
巫女は2名なんだが、サクヤとアリアの2名が選ばれた。
どうだ参加してくれるか?」
なんかそんな気がしたけど、やっぱり選ばれてしまった。
まぁ一人じゃないからいいけど。
結局、サクヤ先輩と一緒に夏休みは巫女修行に捧げることになってしまった。
私の都会でスターになる野望が遠くへ離れていくのは気のせいかしら。




