第003話 学校での日常
第003話 学校での日常
翌朝、兄のリュウセイに起こされて三人でいつも通り学校に向かう。
いつもの道で、立ち姿の美しい美少女で後輩の西園寺と、眠そうな同級生で親友のサトルと合流する。
西園寺は、さわやかな笑顔を振り向けて言った。
「おはようございますヒカル先輩。
リュウセイ先輩は、いつも重そうなカバンですねぇ」
そう言って西園寺はリュウセイの重量感のあるカバンをいじっている。
リュウセイは困った顔で言った。
「いつもの本を入れているだけだよ」
私は顔を歪めながら皮肉っぽく言った。
「お兄様は偉大な大臣様になられるお方ですから人の百倍は勉強しないとね」
またいつものノリで西園寺が一言つぶやく。
「アリア先輩は、そういう嫌味ばっかり言っているから可愛くないって言われるですよ」
西園寺のリュウセイを見つめる美しい瞳は、いつもやさしげだ。
それにしてもサトルの眠そうな目が気になるので聞いてみた。
「サトル、あなた何でいつもそんなに眠そうなの」
サトルはあくびをしながら答えた。
「ちょっと、最近新しく買ってもらったゲームにはまっていてね。
ついつい、親父と勝負している間に夜更かしをしちまうんだ。
やめようとは思うんだけど、負けて悔しくてもう一度とか言っていると時間があっという間に過ぎちまう」
サトルは、たしかに少し負けず嫌いなところはある。
一応はサトルに忠告しておくことにした。
「あなた、そんなのじゃ、練習中に注意力が散漫になってケガするわよ。
ほどほどにしておきなさいよ」
サトルは面倒くさそうに手を振っている。
その横で西園寺は呆れた顔で笑っていた。
そうこうしている間に学校が見えてきた。
私の学校は古い伝統的な学校で、前身の学校は平安時代より前からあったと言われている。
寺子屋と言うよりは政府が創設した神社の付属施設のような公立の学校だったみたいだ。
ここは中高一貫で私たち中学生も高校生の兄たちと同じ学校に通っている。
ここの学校は他の地域の出身者はそれほど多くなくて、ほとんどが昔からの顔なじみだ。
親たちも、みんなここの学校の卒業生だ。
ちょうど教室の私の前の座席が村長の娘の木下さんだ。
木下さんは珍しくこの村の出身者じゃない。
木下さんのお父さんが村長になるために県庁をやめてこの村に引っ越してきたようだ。
村の役場で働くお母さんは、木下さんのお父さんと一緒に働いていると言っていた気がする。
ちなみに木下さんのお母さんと木下さんは、美しい長い髪を持つ清楚な女性だ。
昔、木下さんのお母さんに会ったことがあったけど、虫も殺せなそうな、とてもやさしそうな美人だった。
年上のお兄さんも美しい顔立ちを持つ美少年で、お母さんに似たのか、とてもやさしい雰囲気だった。
お兄さんは学校を、もう卒業してしまったけれど在籍中は女子たちの憧れのプリンスだったという伝説が残っている。
その木下さんと授業の間の休憩時間に話をしていた。
「最近、村の役場に東京から来る大学の考古学研究者の方とか、都市伝説系って言うのかしら、雑誌の記者とかがすごく多くて、いつも大変らしいの。
何かを探しにきているみたいだけど。
それにしても入れ替わりで大勢いらして、いったい何があったのかしら」
そういって木下さんは長い美しい髪をかき分けている。
私は探しているという言葉に少し引っかかったけど、言葉を選んで言った。
「それで、お目当てのものは見つかったのかしら?」
木下さんは頭を振って答える。
「お父さまも村の役人に調べさせているみたいだけど。
村の人たちは誰も知らないみたい。
でも何か不自然だって仰っていたわ」
私は気になったのでもう少し聞いてみた。
「不自然ってどういうこと」
木下さんは少し思い出してから言った。
「お父さまは村の人たちが何か隠しているのじゃないかって仰っていたわ」
何か隠すも何も、そもそも雲を掴むような話で探させる方がどうかとも思うけど。
私はモヤモヤしながら授業へ戻った。
今日の学校は午前中だけで午後はない。
午後はみんな部活動とか家の手伝いとかに時間を使っている。
この地方は農業が中心の地域で、収穫期には特に人手がいつも足りていないので、家を手伝っている子も多い。
私はというと。
午後からは本当はファッションモデルの研究でもしたいのだけれど、剣道部の顧問のおじいちゃんから、兄のヒカルたちと一緒に剣道と古武術を教わっている。
もう一人の兄のリュウセイは勉強して政治家を目指しているので、いつもすぐに家に帰ってしまう。
将来、双子のどちらが上手くいくかは時間の経過が教えてくれると思う。
学校の帰り道、家に帰る兄のリュウセイと別れて、兄のヒカル、親友のサトル、西園寺たちと剣道部の練習に向かおうとした。
その時、ヒカルがリュウセイの頼りない背中を見てふと気になったことを言った。
「リュウセイ。
お前も少しは剣道の練習とか運動をしたらどうだ。
運動神経とか持病を気にしているなら自分なりのペースに合わせればいい」
リュウセイは得意げに言った。
「ペンは剣より強いっていうだろ。
僕は政治の道で力を発揮したいんだ。
僕のことはヒカルに守ってもらうからいいよ。
それにおじいちゃんは僕の持病は個性だって言ってくれたから気にしていないよ」
そういってからリュウセイは手を振って一人で家への帰路についた。
私もたしかに今の時代では、剣よりペンが強いようには感じるけどね。
二人の兄には、もっと先の方に、違う未来の世界が見えているのかもしれない。
いつも二人の議論は平行線で、いつまでも交わる気がしない。
北の郊外にある剣道部の練習場についくと、既に剣道部の顧問のおじいちゃんが練習の準備を整えてくれていた。
西園寺はいつも礼儀正しく挨拶する、とても良い子だ。
「こんにちは。本日もよろしくお願いします」
サトルが何かを見つけてうれしそうに言った。
「今日は模造刀の剣を使うみたいだぞ」
いつもは竹刀を使っているけれど、稀に模造刀の剣でも訓練をしている。
おじいちゃんが皆に剣を配り終えてから言った。
「いいか、いつも言っているが小手先だけで器用にこなそうなどは思うな。
持って生まれた器用さだけで、見た目だけはすぐに上達する者がいる。
だが、そういう者に限ってどこかで落とし穴にはまる。
そんな奴はたくさん見てきた」
おじいちゃんは、腕を組みながら続けて言った。
「才能は一流の必要条件ではない。
何事もそうだが、ショートカットをしようなどとは思うな。
根っこから愚直じゃなきゃいかん。
それでは、さっそく剣を持ってみてくれ」
おじいちゃんは口数が少ないけど、いつも難しいことを言う。
改めて言われると、ついテクニックだけで乗り切ろうとしてしまいそうな自分がいることに気づかされる。
ヒカルが言うには、私は勉強の才能なんかよりも、古武術の才能の方が特異な力があるらしい。
たしかに他の皆よりも、どんどん先のメニューをこなしている気はする。
剣道の方はどうかと言うと、ヒカルの方に相当な才能があるらしい。
ヒカルは去年は全国大会の一歩手前の県大会で上位にいった実績がある。
古武術もおり交ぜた変わった流派なんで、大会でも、そこそこ話題になったみたいだ。
私はムキムキになんてなりたくもないし、どうにも身が入らないのが原因かもしれない。
自分用の剣を持ち上げると、いつもの竹刀とは違って模造刀の剣はとても重く感じる。
逆に模造刀はトレーニング効果のために、わざと竹刀よりも重いのを選んでいるのかもしれない。
模造刀の剣は遠くから見るとシンプルな剣に見える。
ところが、近づいて見ると一人ずつ違う剣で、刀身には細かく独自の装飾がされた立派な剣だ。
私のだけには見たことがない家紋のようなものがうっすらと入っている。
おじいちゃんの話ではこの村に伝わる由緒ある伝統的な剣らしいけど詳しくはいつも通り教えてもらえない。
この剣は普通の剣と違って特別な加工がされている。
昔は古武術は門外不出とされていたみたいだ。
今では日本の古武術なんて廃れてしまって世間に残っている流派なんてほとんどなくなっていると、おじいちゃんから聞いている。
本当は、おじいちゃんの言う通り、もっと実戦の色々なシチュエーションを想定した方がよいのだろうけれど。
ある日、珍しく西園寺がおじいちゃんに突っ込んだ質問をしていた。
「ところで今さらですけど。
この古武術の體術って、どういった流派なのですか?」
おじいちゃんは頭を振って答えた。
「それは、今は聞かないで欲しい。
いずれ卒業する時には教えよう」
おじいちゃんは相変わらずの秘密主義だ。
いつもの答えを聞いて西園寺は言った。
「そうですか。
いろいろと事情があるようですね」
西園寺は、それ以上の事を聞くのはやめたようだ。
私はふと学校での出来事を思い出して、おじいちゃんに聞いてみた。
「最近、東京から村長のところに色々な人が来ているって、村長の家の木下さんが言っていたの。
おじいちゃんは何か知っている?」
おじいちゃんは顔を歪めて言った。
「それは気になっていたところだ。
最近やたらと外部の人間が村の中をうろついて嗅ぎまわっているようだな。
東京の奴らがこの村の存在を知っていて探しているなどとは思いたくもないがなぁ。
お前たち、いつも口を酸っぱくして言っているが、この村のことは、あれこれ他人に言うてはならんぞ」
西園寺は、いつもとは違う空気に、何か触れてはいけないものに触れた怖さを感じたようだ。
ペットのコカちゃんは、緊張する西園寺を見て、不思議そうな顔をして見つめている。
ちょっとカワイイわ。