第012話 成仏への道
第012話 成仏への道
今晩は夜空に向かって、いつもの瞑想を中心とした修行をしていた。
今日は神社の巫女の平さんが去り際に奇妙なことを言った。
「今日のサクヤさんは少し「波動」が下がっておるようですな。
丑三つ時には気をつけられよ。
忌まわしき者どもを引き寄せておるやもしれぬゆえ」
午前1時から4時の間は次元と次元の間にあるベールが一番薄くなって行き来しやすくなるそうだ。
サクヤ先輩は平さんが去るのを見届けるなり私に質問をしてきた。
「忌まわしき者って何よ?
そんなに「波動」が下がってるかしら」
私はサクヤ先輩に忌まわしき者について、私なりの解釈で答えた。
「妖怪のこととかですかね。
でも、妖怪なんて漫画の世界みたいな感じですけど。
それともなんか宇宙人とかみたいな感じですかね」
私もイマイチ分かってないなかで他人に言語化して教えるなんて難しい。
その日の深夜の午前2時頃に、たしかに平さんの言う通り事件が起きた。
静寂の中で、キーンと強烈な耳鳴りが響く。
布団の中でも寒気が止まらない。
他人の霊体が近づくと「波動」が共鳴して耳鳴りが鳴るって言ってたわ。
向かいの部屋のサクヤ先輩も違和感に気がついて半身で起き上がったようだ。
「ねぇアリア、起きてる?
スゴイ耳鳴りと寒気がするんだけど、どう思う?」
私は重い体を持ち上げて、サクヤ先輩の部屋の方に向かいながら答えた。
「私も耳鳴りと寒気でひどいです。
ちょっと待ってください。
サクヤ先輩!
ちょっと!
後ろ、後ろ!」
サクヤ先輩は半身で恐る恐る振り返り、凝視しながらもなんとか言葉を吐き出した。
「えっ、あなた誰?
いつから、そこにいたの?」
サクヤ先輩の後ろには、私たちと同じぐらいの若いポニーテールのキレイな女の子がいた。
でも、明らかにおかしい。
この部屋は施錠されていて入れないはずだし、窓も閉めていてエアコンをつけている。
巫女も二人だって言ってたから、三人目はいないはずだ。
それにあの女の子は、何かがおかしい。
たしかに存在しているし、普通に立っているけど、何か透けて見える気がする。
それに点滅しているようにも見えなくもない。
女の子はサクヤ先輩の質問に答えようとして何かを話しかけようとしているけど音が聞こえない。
サクヤ先輩は突然悲鳴をあげた。
「キャー!
あなた何?
透けているじゃない。
まさか幽霊なの?
イヤッー!」
サクヤ先輩は腰を抜かしたような様子で必死にうしろに後退して、壁面に背中がぶつかった。
「出ていってよ!
ここから出ていって!」
サクヤ先輩は必死の形相で、背中で壁を押している。
奥の女の子は逆に驚いたような表情を見せてから、ゆっくりと少し浮きながらサクヤ先輩に近づいていく。
私は隣の部屋の情景から目が離せない。
でも、こちらも身動き出来ない。
女の子は再び私たちと会話をしようと試みているようだ。
その時、頭のおでこの辺りから、月の民と会話した時と同じようにビジョンのようなものが電子メールのように飛んできた。
私は受信した電子メールのようなビジョンを、恐る恐る開封して閲覧することにした。
それは大地震と大洪水のようなビジョンの断片だった。
私は何かを悟ると、恐怖で錯乱しているサクヤ先輩に話しかけた。
「サクヤ先輩!
その女の子は、たぶん何かを伝えてに来たんだと思います」
サクヤ先輩は女の子に向き直すと、もう一度質問を投げかけた。
「あなた一体なにを伝えに来たっていうのよ?」
女の子は頷いてから、思念のようなもので答えてきた。
「私は、未来から来た秦よ。
たしかに、あんたたちから見れば幽霊と言えば幽霊ね」
建物の外から、ゆっくりと話しながら近づく者がいた。
平さんだ。
「今日は何か来訪者の方が来るような予感がしたのですわ。
どちらさまですかな?」
ハタさんは思念で言った。
「ちょっと色々とあってね。
未来で起きる大災害を何とかしてって伝えに来たのよ」
平さんは薄く笑いながら言った。
「未来から大災害を過去に戻って伝えにくるとは、そんなことをしたら未来が変わりますぞ」
サクヤ先輩は必至で興奮を抑えながら質問した。
「これっていったいどういうことですか?
幽霊とお話なんでできるんですか?」
平さんは、苦笑いしながら言った。
「昔の日本人は幽霊や妖怪、精霊または自然霊と言われる者とは普通に会話しておったのですわ。
現代人は食生活や生活習慣の変化で「波動」が下がって見えなくなってしまったのですわ。
幽霊が見えるということはサクヤさんの「波動」が上がってきた証拠。
霊道は開いたようですし、そろそろ霊眼と言う眼も開かれているようですな。
もう少しで普通に見えるようになりますぞ」
私は頭の中で色んなものがつながって思わず驚いた。
「まさか!
幽霊って宇宙人と感覚的に似てるんだけど、もしかして一緒だって言うの?」
ハタさんは、笑いながら思念で答えてきた。
「宇宙人だろうが、幽霊でも、天使だの神さまだろうが、どうせみんな一緒よ。
こっちの世界に来たらどうせ分かるわ。
生きていると分からないでしょうけど、不思議な感じで面白いでしょう。
本当に笑っちゃうわよね。
こっちに来れば、どうせ感覚的に全てわかるようになるから心配しないでいいわよ。
どうせ信じたりしないと思うけど」
でもたしかに言われてみると、ここ最近は普通に月の民の思念を感じれるようになってきたけど、この幽霊の女の子とあまり変わらない感覚がある。
安倍さんからも、私の「波動」がどんどん上がってきているって言われているけど、前よりも格段に安定感が増している実感がある。
この感じだと普通に霊道も開いちゃってるわね。
こわっ!
でもこの女の子の「波動」は少し低い感じがする。
ハタさんは、すぐに私の言いたいことに気がついたのか反応してきた。
「あんた今、私の「波動」が低いって思ったでしょう!
事実なだけに頭にくるわね。
私は神さまじゃないんだから「波動」が低いのは当り前よ。
それにそんなに「波動」が高かったら幽霊なんかやってないわよ。
宇宙人はマチマチだけど、ほとんどの惑星は地球より「波動」が高い星ばっかりだから反則なのよ。
あいつらだって、こんなエゲツない地球環境で暮らしたら普通に「波動」が下がるわよ」
サクヤ先輩は混乱した様子でつぶやいた。
「幽霊と宇宙人と神さまが全部一緒って、あなたね」
ハタさんは、吐き捨てるように言った。
「あんたなんか「波動」低いし、どうせ信じられないだろうから、信じなくていいわよ。
それに、どうせ生きていると幽霊になんて人権はないとか思っているでしょうし、失礼な話よね。
幽霊だってクソ重い体がないぐらいで、生きている時と何にも変わりゃしないのにね。
サクヤだっけ、あんたもう少し真面目にやらないとヤバイわよ。
素質はやけにあるのに、ロクに霊能力を制御できないと危なっかしいわよ」
平さんは口を挟むようにハタさんに向かって言った。
「ハタさん、それでどのようなご用ですかな?」
ハタさんは面倒くさそうに答えた。
「このアリアとかいう子が、やたら高い「波動」のせいか分からないけど、おかしなことしてくれたんで、話をしに来ただけよ。
私は未来で起きた大災害に巻き込まれて、最終的には亡くなってしまったのよ。
別に、普通に成仏したから最初はいいと思ったんだけどね。
そもそも、あんたは2週間ぐらい何かの事故が起きたせいで昏睡していたでしょう。
その時に幽体離脱してしまって、過去のアリアが未来に来て、私に変な形で干渉してしまったみたいなのよね。
そのせいで因果関係が絡まって清算が出来なくなってるのよ。
だから私は輪廻転生が出来なくなっているって話。
それをどうにかして欲しくて神さまに聞いたら、今のあんたの所に行けって言われたの。
ちょっとあんた覚えてないでしょう?
あんた何かの大災害みたいな夢をしょっちゅう見てない?
それも関係していると思うのよね。
あんた、このまま修行して異常なスピードで「波動」を上げるのはいいけど、あんた霊界で話題になるぐらい力が強過ぎるのよ。
このままじゃ世界が歪むわよ」
私が未来に干渉したってどういうことだろう。
全く身に覚えがない。
ハタさんが呆れた顔で言った。
「その顔だと本当に何も覚えていないみたいね。
でも大丈夫。
私がここに来たら全部思い出すって神さまが言っていから」
平さんは静止するように言った。
「無理に過去に干渉すると、未来が変わり過ぎて身動きとれなくなるのではありませんかな。
正直言ってあまり良い話じゃないようですがな」
ハタさんは手を振りながら言った。
「ハイハイ。
もう言わないでよね。
スキ好んでこうなったわけでもないし。
色んな意味で残された時間は短いけど、せいぜい頑張ってよね。
また、終わった頃に戻ってくるから、よろしくね」
そう言うと、うっすらと消えていった。
サクヤ先輩は、ただ宙を見つめながら茫然としている。
平さんは、少し驚いたようすで言った。
「もうアリアさんの「波動」の高さが、まさか霊界にまで轟いているとは驚きですな。
それとアリアさんが既に未来へ大災害を見に行ってるとは話が早いですな。
明日からは、さらにレベルアップした修行をしていただくとしましょう。
サクヤさんは少し遅れてますでな、そちらもペースを上げていかなならん」
私は先ほどの奇妙な幽霊との遭遇を思い出しながら、平さんに聞いてみることにした。
「授業で聞いてはいましたけど、幽霊って本当にいるんですね」
サクヤ先輩も、だいぶ落ち着いたようで、冷静に質問をした。
「この修行をすると幽霊って普通に見えるようになるんですか?」
平さんは、しばらく考えてから言った。
「人も幽霊も何も変わりはしませぬ。
魂は一つ。
死しても地続きで永久に続くもの。
現世は3次元の物質世界。
霊界は4次元以上の精神世界。
本来は自由に行き来できるものでした。
むしろこの地球に住む者だけが特異と言えますな。
外宇宙の世界では、そういった境界はありませぬ。
「波動」が高い者からは低い者が見えますが、逆は見えませぬ。
ただそれだけのこと。
霊界からは我々が見えますが、我々からは普通は霊界が見えませぬ。
ただし、「波動」を上げる修行を続ければ普通に見えますわな。
人が死ぬとは物質世界で神からお借りしたボディが破損したので停止させただけのこと。
魂を傷つけることは神ですら容易ではありませぬ」
サクヤ先輩は震えながらつぶやいた。
「もう本当にイヤッ!
私は怖いの苦手なのよ。
幽霊とかムリムリ」
私も幽霊なんて今まで見たことなかったし、真面目に考えたこともなかった。
巫女になるってこういうことが続くのかしら。
でも、そりゃそうよね。
神さまと会話するなら幽霊ぐらい見れなかったらお話にならないわ。
ハタさんに言われて、ようやく忘れていた記憶を思い出したかけてきた。
記憶の戻りに合わせるように、頭のズキズキがひどくなってきた。
どうも私は倒れて意識を失ってきているようだ。
同時に過去へ向かって自分の意識が時間を移動し始めたようだ。
先日、私は特殊な古武術の練習中に突然倒れたみたい。
だけれど、本人的には覚えていなくて、ほとんど自覚がなかったわ。
倒れた後は昏睡状態で寝たまま二週間の間も目を覚まさなかったらしい。
でもようやく古武術の練習中の事故を思い出した。
あの日は、たしか剣道部の顧問のおじいちゃんたちと剣道部の練習場にいたはず。
おじいちゃんに座禅をさせられて、変な呪文みたいなのを唱えながら瞑想しろって言われたのよ。
兄のヒカルや、サクヤ先輩、後輩の西園寺たちも一緒にやらされたわ。
古武術とか言いながら體術とか言う意味不明な練習をさせられることが結構あるのよね。
たしか私は瞑想していたら、突然、意識が部屋いっぱいに広がり出したのよ。
自分から部屋を見るっていうよりは、自分が部屋になって自分を見下ろす感じって言ったらわかるかしら。
そのうちに、自分の体から、フワって意識が空に分離して浮き始めたのよ。
ようやく思い出してきた。
剣道の練習場を俯瞰しながら空に浮遊していると、突然、我に返って騒いだんだったわ。
「ちょっと、ちょっと。
何これ?
私が空に浮いているじゃない」
俯瞰するとわかるけど、この練習場って空から見ると六角形の変わった形しているみたいね。
それに良く見ると、三角形を組み合わせたような模様が屋根に書いてある。
その時、ヒカルが叫ぶ声が聞こえた。
「おい!
どうしたアリア、しっかりしろ!
意識がないみたいだぞ。
西園寺、救急車を呼んでくれ」
西園寺が慌ててスマホをとりに行く。
「わっ、わかりました。
すぐに救急車を呼びます」
おじいちゃんが言った。
「む!
これはいかんな。
完全に魂が抜けとるようだ」
私はその光景を眺めながら焦った。
「えぇ!
どういうこと!
私は、ここにいるんだけど浮いているし。
って言うか、あそこにも私みたいなのがいるし。
どうしよう、どうしよう。
キャッー!」
あの背格好って、どう見ても私に見える。
でも、何故か私は空を飛んでいる。
茫然とこの光景を空から眺めていると、その時に突然横から声をかけられた。
「あんた、アリアって子ね。
迎えに来たわよ」
びっくりして横の女の子を見た。
そう言えば、その声は何か聞き覚えのある声だった。
そうだ、あの時のハタさんだったんだ。
私は慌ててハタさんに尋ねた。
「えっ!
どういうことですか?
何で空を飛んでいるんですか?」
ハタさんは呆れた声で言った。
「ややこしい話をするけど、ちょっと聞いてくれる。
あんたに未来の私が干渉されて亡くなったのよ。
これからあんたが未来に行って私に干渉するんでしょうね。
でも、そのせいで時間が歪んで成仏出来なくなったって話。
でも、それを正しい流れ戻すために、私がここに今いるってわけ。
わかった?」
ハタさんの説明はさっぱりわからない。
どういうこと?
私が今から未来で悪さするから、悪さされた本人が過去に戻って軌道修正しに来たってことかしら。
私がややこしい顔をしていると、ハタさんは呆れながら言った。
「よくそんな顔出来るわね!
あんたのせいで、私の人生が滅茶苦茶にされたのよ。
私にしたら恨んでもいい相手なのよね。
でも、神さまに聞いたら、あんたに何とかしてもらわないと、どうにもならないみたいだから、わざわざ来てやったんでしょう。
何でもいいけど、ちゃんとやってもらうわよ。
それに、あんたを神さまのところまで連れて来いって言われているのよ。
ちょっと言っておきたいことがあるんだって。
あとついでに霊界の仕組みも教えるように言われているの。
私は、こんなんだけど、実は輪廻転生も結構な回数やっている高位霊だったりするんだけど、そんな風には見えないかしらね。
昔の過去世では、そこそこの大きなお寺で坊主とかしてたって、嘘みたいでしょう。
だから、こんなややこしい役目をやらされているのかもしれないけどね。
それにしても呪文とかって本当に危険よね。
使い方を間違えるとこんな風になるんだから。
本来は呪文って神さまとか龍神しか使っちゃいけないルールだって知ってた?
あんたは良くも悪くも才能があるみたいだけどね。
よく見たら救急車やら、なんやらスゴイことになっているわよ。
さすがに体に異常はないみたいだけど。
みんなそこら中で必死で駆け回っているわよ。
あと、気付いていないから教えてあげるけど、体が透けて見えるのって私だけじゃなくてアンタもよ」
ハタさんに促されて足下を見てみる。
どう見ても地面がないし、怖くて震える高さだ。
たしかに体が透けて見える。
ハタさんに聞きたくない質問をしてみた。
「これって、やっぱり幽体離脱ですか?」
ハタさんは大笑いして答えた。
「やっと気づいたの?
ウケる~。
いやー!
あいかわらず、あんたは面白いわ!
そりゃそうと、もう少ししたら迎えが来るわよ」
ハタさんに言われてようやく我に返った。
「私って無事なんですか?」
ハタさんがまた呆れて言った。
「あんた本当に楽観主義ね。
まぁ、言ってもしょうがないけど。
幽体離脱してるだけだから大丈夫よ。
体に戻れば普通に動けるわ。
ちょっと硬直して動かしにくいかもしれないけど。
それじゃぁ、唐突だけど、あんたの家の近くの三田さんとか言うおばさんが亡くなったみたいだから会いに行きましょう。
成仏するついでに、霊界の仕組みも教えてあげるわ」
私は慌ててハタさんに言った。
「え!
三田さんのおばさんが亡くなったって、どういうことですか?
それに亡くなったのに会いに行くって何ですか?
ちょっと待ってください!」
そう言うと空を飛びながら私の家の方へ移動していくハタさんを空を飛びながら追いかけていった。
私は上手く空を飛べないけど、なんとかハタさんを追い駆けることにした。
ようやく家の近くまで到着すると、ハタさんの横に隣の家の三田さんのおばさんが立っていた。
ただし、その横には見るに堪えない女性の遺体が横たわっている。
私は三田さんにかける言葉を失った。
それに引き換え、ハタさんは三田さんに明るく声を掛けていた。
「あんた残念だったわね。
亡くなったばっかで、どうしたらいいかわからないと思うけど、落ち着いて未練がなくなったら、この後の説明をしてあげるわ。
本当は私の仕事じゃないけど、せっかくだし何かの縁だからね。
まぁ、つたない説明でも良ければだけど。
私も徳を積めてラッキーだし。
ただ、そんなに落ち込まなくてもいいわよ。
あんた交通事故で亡くなったし、どうせ、この手のパターンならまたすぐに輪廻転生して生まれ変われるから。
そうしたら心機一転して普通に赤ちゃんからやり直すだけよ。
この人生に未練タラタラなら別だけどね」
三田さんは落ち込んだ顔で言った。
「やっぱり私って亡くなったんですね。
なんかそんな気はしました。
息子の翔がボール遊びしていて、道路で遊んだら危ないって前から思ってはいたんです。
正直言って、前から皆さんに翔が迷惑かけちゃってたのも気付いてはいたんですよ。
車が迫ってきたのに翔がボールを追い駆けて飛び出してしまって。
慌てて翔は助けたんですけど、私の体が逆に飛ばされてしまって。
その後は打ちどころが悪かったみたいです」
三田さんはハタさんの後ろにいる私に気付いて驚いた顔で言った。
「え!
二条さんところのアリアちゃんじゃないの。
それはそうとアリアちゃんも亡くなったの?」
そう言われて私は剣道部での練習中の事故の経緯について話をした。
三田さんは安心した様子で言った。
「そう。
それは良かったわ。
早く体に戻った方がいいんじゃない」
そう言われて、救急車にすぐに行こうかと思った。
だけど、どうしても引っかかる。
あの夢のことだ。
何度も何度も人類滅亡の日の夢を見せられている。
あれを予知夢と言わずに何て言ったらいいんだろう。
この前の津波で追い込まれる夢なんて本当にリアルで怖かった。
ハタさんの大災害の話が何か関係している気がしてならない。
今すぐに体に戻ってしまったら、またここに戻って来れる気がしない。
一念発起してハタさんに聞いてみることにした。
「ハタさん。
私もこのまま一緒に霊界と未来に行きます。
私の体は、しばらく病院で診てもらっても昏睡状態のままで大丈夫ですよね。
せっかく幽体離脱した絶好のチャンスなんですから、神さまにいくつか確認したいことがあるんです。
そうしないと、大災害の予知夢が現実になる気がするんです」
ハタさんは驚きながらも答えてくれた。
「そう。
あんたやっぱり普通じゃないわね。
あんたの「波動」も異常だけど。
そういうとこが普通じゃないんでしょう。
1週間ぐらいだったら病院でも診てくれるでしょう。
いきなり脳死判定で安楽死ってことはないと思う。
そもそも神さまのご指示だし、神さまの眷属の誰かが安全なように見張っていてくれてると思うわ。
何か悪さしようとする奴がいたら、どうせ奇跡の天罰でブっ飛ばしてくれるわよ。
触らぬ神に祟り無しって言うの知ってると思うけど、冗談抜きで本気出すとマジで怖いのよ。
体は無事でメチャクチャ健康そうだし、きっと大丈夫でしょう。
いいわよ、最初からそのつもりだし。
三田さんだっけ?
ちょっと、悪いんだけど、あんたの葬式とか成仏するとことかアリアに見せてやって欲しいのよ。
その代わりちゃんと霊界まで面倒見てあげるから」
三田さんは驚きながら同意した。
「私もどうしたらいいのか分からなくて途方に暮れていました。
そもそも亡くなったって全然気付かないものなんですね。
記憶も普通に全部ありますし、学校で脳に記憶があるなんて教わっていたのは間違いだったんですかね。
もう、いきなりこんな状況に放り出されたらパニックになって泣くしかないですよね。
声かけられてメチャクチャ安心しました。
初心者って言うのもおかしな話ですが、教えていただけると大変助かります。
本当にハタさんには感謝しかないです。
私のお葬式なんかでよろしければ、ご覧になっていただいて全然構いません。
それにしても外の方から普通に聞いたら変な会話ですよね。
慣れって怖いわ」
そう言い終わると、事故現場をあらためて見た。
事故現場は騒然としていて警察の現場検証がされていた。
三田さんの遺体は救急車で病院に連れていかれたようだ。
ハタさんが、少し哀しそうに昔を思い出しながら亡くなった直後の解説をしてくれた。
「私が亡くなった時なんて正直言ってわけがわからなくて大変だったのよ。
三田さんの言う通り、最初は亡くなったってわからないのよね。
亡くなる時って魂へのショックと後遺症のダメージをやわらげるために、敢えて眠るようにしてるみたいなのよ。
痛みもほとんど無くなっていくでしょう。
聞いた話では赤ちゃんとして生まれる時よりも、亡くなる時の方が、かなりラクらしいの。
幽霊になっても体も普通にあるし、感触もあるし、喉だって無駄に渇くでしょう。
脳に記憶があるって教科書で聞いていたはずなのに、普通に記憶が残っているでしょう。
これがいわゆる霊魂体の体ってやつね。
完全な霊体になるまでの霊魂体の間は、普通に生きている感じがするのよね。
亡くなったのがわからずに彷徨っている幽霊がいたり、水が多い湿った場所に幽霊が集まるのもメチャクチャわかるわよね。
でも成仏したら喉の渇きは収まるんだけどね。
どうも生きている時と違って何かおかしいのよ。
空も飛べちゃうし、体も軽いし、話しかけてもみんなに無視されるしね。
少し難しい話をすると、亡くなるとボディからエーテル体と霊魂体が分離されるのよね。
寝てる時に似てるけど、エーテル体までボディから分離されるのが少し違う点ね」
三田さんは激しく同意している。
ハタさんが、不慮の事故の場合の例について話をしてくれた。
「やっぱり亡くなった自分の体を見て、やっと自分が亡くなったって気付くでしょう。
事故で亡くなると、事故現場から遺体を病院に動かしちゃうでしょう。
亡くなった後にのんびり気絶なんかしてたら、気付いたら体が移動されてなかったりしたら自覚出来なくなるわよね。
メッチャ焦ると思うわ。
ちゃんと親族が事故現場に行って霊を連れて帰ってくれないと、霊の立場からしたら本当に困るわ。
もし事故現場に誰も来てくれなくて成仏も出来ずに、このまま彷徨っちゃうと、いわゆる地縛霊になるのよね。
霊障が出るような地縛霊を成仏させるには、亡くなった霊の家族たちを、もう一度事故現場に全員一緒に連れてくることね。
霊能力が上がってきて霊視が強化されると亡くなった瞬間の状態まで視えるし、ちょっとキモイから私は現場に行きたくないけどね。
地縛霊には亡くなったことを説明して納得させてから、家族と一緒に家に連れて帰るのがいいと思うわ。
霊の本人は時間が止まっていて、急いで会社に行かなきゃ遅刻するとか言い出すから、ちょっと説得すんのメンドクさいけどね。
家族が本人の名前を何度もしつこく声に出して呼んでから、お父さんの肩とかに乗って一緒に移動してもらうように促すと良いわよ。
仏の改名で呼んでも本人が知らなきゃ自分だって気がつかないから意味ないわよ。
家に帰ってきたら、お寺の僧侶を呼んでお葬式をやり直すと良いんじゃないかしら。
本人が覚悟を決めたらご先祖とかに導かれて勝手に成仏すると思うから」
霊界の方にいると、その説明ってすごく分かる気がする。
ハタさんが、霊魂体の霊的エネルギーについて話をしてくれた。
「霊魂体って最初は自由に動けるけど、だんだんと霊的エネルギーが無くなってきて動けなくなるのよ。
エネルギーが切れると元気が無くなって意識も朦朧としてくるから焦点が合わなくなるでしょう。
だから、せいぜい四十九日でさっさと成仏しないとダメなの。
それに「波動」が低いと重くなるから重力の影響を受けて、頭を持ち上げて立ってられなくなるのよ。
ホラー映画を見ても、霊魂体ってやけに低い重心で焦点が合ってないのって分かるでしょう。
ただし、超低い「波動」の幽霊が、ずっとそこにいるとブラックホールみたいに同じような低い「波動」のものたちを呼び集めちゃうのよね。
そういうのは波長同通の法則って言うらしいの。
そうなると、原因になった幽霊が例え成仏していなくなったとしても、心霊スポット化しちゃうのよ。
そこまでになると、もう幽霊と言うよりは、魔とか悪霊とかって言った方がいいんでしょうけどね。
どちらにしても霊魂体は寿命が130年で、寿命を過ぎるとただの霊体になって人魂って言われるオーラ球もなくなるから、何も出来なくなっていると思うけど。
あんまり中途半端に霊魂体として地上世界にいると、地球の重力のせいで記憶も無くしてしまうみたい。
自分が空を飛べるからって神だの天使だのって語るヤツもいるみたいだからチャネリングする時は気を付けた方がいいわね。
もし意識が朦朧としている地縛霊とかとちゃんと話をしたいなら準備が必要ね。
お供えのごはんとか果物とかお酒なんかを線香と一緒にお供えして霊魂体に回復してもらう必要があるわね。
ちゃんと人間が食べられる状態にしないとダメよ。
乾燥したお米とか、茹でていない麺類とか、蓋した缶ビールとか、箱に入れたままのお土産だと、他人への見せつけかって怒られるから。
霊魂体は実際の食べ物から気を吸い込むのよ。
肉食とかは止めた方が良いとかは気にしなくて大丈夫。
ごはんは例外で問題ないけど、気を吸われた果物とかビールなんてマズくて食べられないから。
昔はお供えした食べ物は川に流して霊界に送る儀式があったらしいけど、今は環境破壊って怒られるわよね。
あとは線香三本で供養してくれることが、かなり大事ね。
特に家族とかから霊魂体に向けて感謝の気持ちも一緒に捧げてあげるとスゴイ力になるわ。
霊界では線香の煙が霊魂体にとって欲しいものに変わるから、食べ物や飲み物に変わると相当エネルギーチャージになって少しづつ元気になるのよ。
霊魂体の意識がハッキリしてきたら、まともに会話が出来るようになると思うわよ。
霊魂体も意識がスッキリすると、相手に感謝を伝えたくて何かメッセージを返してくるケースが多いわね。
例えばロウソクを猛烈に燃やしたり、線香が変な煙を出したり、鈴の音が聞こえたり、骨壺の蓋が動いたりとかじゃないかしら。
意識もハッキリしてくると、自分で成仏するためにようやく動き出せるって言う仕組み。
どう?」
霊魂体のエネルギーなんて考えたことも無かったわ。
何か良くわからない部分は多いけど、なんだか直感的に正しい感じがするわね。
ハタさんが、心霊スポットについて話をしてくれた。
「心霊スポットには霊道が開いている霊感が強い人で、ちょっとネガティブな「波動」が低いヤツは連れて行かない方がいいのよ。
なぜだかわかる?
ネガティブな「波動」が低いヤツは、同じ低い「波動」の悪いヤツらを、類は友を呼ぶ波長同通の法則で呼び集めるってワケ。
霊感が強いヤツの体って光輝いて見えるでしょう。
そういうヤツがいると、霊魂体からしたら無視しないで聞いてくれる人がいるってだけで、追いかけて話しかけてみたくなるのよね。
そのまま自然に憑りついたりしちゃうのよ。
特にエネルギー切れで動けなくなると憑りついて移動するしかないじゃない。
今の三田さんなら分かる気がするでしょう?」
三田さんは自分が幽霊なのにちょっと怖くなってきたのか暗い顔で頷いている。
ハタさんは少し得意気になってきて悪霊についても話をしてくれた。
「悪霊にも色々といて、そこらで自縛霊みたいになってウロウロワしているヤツが一般的ね。
だけど他にも、地獄とか呼ばれている悪霊が寄り集まってしまっている世界に波長同通の法則で流れていってしまった浮遊霊とかもいるのよね。
そういうヤツって、どうしたら良いか分からなくて苦しくてたまんないから、誰かに憑依して3次元の物質世界に戻って来ようとするのよね。
そんなことしなくても、さっさと成仏して輪廻転生すりゃいいのにね。
そんなのは神さまや霊界のことを信じてなかったり、自分が亡くなったことすら理解出来ていないヤツが多い感じするわ。
だから輪廻転生の仕組みも分からなくて、ずっと地獄にいるんでしょうね。
さっさと「波動」を上げれば、波長同通の法則が逆向きに効くから、あっさりと地獄の外に追い出されるのにね。
本当にバカバカしいわ。
悪霊に憑依されると異常な何かに憑りつかれたみたいな症状になったりするらしいわよ。
そのまんまの言葉だけど、要は悪霊の飽くなき欲望が異常な執着心を生み出すんでしょうね。
異常な飲酒の仕方をしたり、権力欲に憑りつかれたり、金の亡者になったり、憑りつく悪霊の趣味によって症状が変わるみたい。
まあ波長同通の法則があるから、自分にも何か素養があったから呼び寄せちゃうんでしょうけど。
悪霊が憑依して病気になるパターンって、まずは悪霊の低波動のせいで血液を腐敗させるんだって。
次に腐敗した血液のせいで毛細血管を破損して塞ぐから、体のその部分が病気になるんだって。
悪霊は人のエネルギーを使って活動するから、猛烈に気ダルいみたいだし。
結構ヤバイ感じするわよね。
生きている人から念が飛んでくる生霊とかの場合は、相手を特定して名前を呼んで離れるように言えば、簡単に消えるって話があるわね。
憑依された場合は、まずは正体を特定することが大事みたいね。
正体を特定したら、霊障が起きた前後に、自分たちが何かやっちゃってないか、
誰かが気持ち悪いからって供養してくれると、霊魂体の方も気付いて成仏出来ることもあるんでしょうね。
供養してくれる側も形式的にやってるだけじゃなくて、やさしくて強い感謝の想いがあると成仏には強力なサポートになるのよ。
本当は家族とか子孫とかを連れてきたいわよね。
どちらにしても被害者意識だけじゃなくて、相手の立場に立って何をして欲しいのか考えることも大事な気がするわ。
霊障の原因が先祖じゃなくて、子孫の側が何かしでかしたことに原因があることも多いしね。
人形は、機械生産品じゃなくて、職人の念が込められた手作りのモノに、追加で持ち主が執念のような念を込めると霊障が出るケースがあるわ。
人形が動いたり髪が伸びたりなんて話は聞くわね。
部屋を閉め切って空調を止めてから、夜中の深夜2時ぐらいにロウソクを点灯して、線香の煙で人形の周囲を覆うと動きが見えるわよ。
念のこもった石とかを勝手に動かした霊障だと顔面神経痛とかになりがちね。
なかなかロジカルでしょう」
動く人形とかの話って昔からあるけど怖いわね。
でも念を込めた本人は、意外と悪意は無かったりするから、扱い方によるんでしょうね。
ハタさんは、次にさらに得意げな顔をしながら成仏の話をしてくれた。
「人は亡くなると体つまりボディから、マインド、スピリット、永遠のソウルが離れるの。
離れたものは一体になって霊魂体として浮遊して、自分の体を空から眺めることになるのよね。
そのあと、自分がこのあとで、どうしたらいいんだかわからないのよね。
お葬式のお経には、霊魂体に対して霊界での初歩的な手順を教える部分が含まれているのよ。
それにしてもお坊さんも、わけわかんない外国語使ってお経を唱えるのヤメて欲しいのよね。
ちゃんと日本語で言って欲しいわ。
たしかに霊界に行ってわかったけど、エライ高僧がお経の真言とかいう言霊に強力な力を込めているから、言葉がわからなくても、それ自体に力があるんでしょうけど。
それと、霊魂体に対して霊界や成仏の仕方を説明するのって別物だと思うんだけどね。
でも日本の成仏の仕組みって、仏の世界のみんなの想像物が強くて、その創造物で占められているから仕方がないんでしょうけど。
もう少し霊魂体の目線と立場で考えてあげて、工夫をして説明しなさいって言いたいわ。
最近の地上に滞留している霊魂体が急に増えている原因の一つにも感じるわね」
たしかに成仏の仕方の解説とかって、亡くなってからネットで調べるのも無理だし困るわね。
学校でも教えて欲しいわよね、絶対やらなそうだけど。
ハタさんは、続けて亡くなった後の流れについて話をしてくれた。
「三田さんは何度も輪廻転生しているからそのうち前世の記憶が戻って分かると思うけど、一応は説明しておくわ。
亡くなる直前は幽体離脱みたいに行ったり来たりでフワフワしていたのはわかったかしら。
三田さんは「波動」が少し高いから普段から少しだけ霊魂体が見えたかもしれないと思うけど、「波動」が低い一般人でもこの期間は霊魂体が見えるケースもあるみたい。
死神じゃないけど、親切心のボランティアで事前に亡くなるのを教えてくれる霊界の方々の組織もあるみたいね。
完全に亡くなっていないけど、自分で亡くなる準備をしておきなさいってことね。
この期間は、まだ生きているから神社に行って神さまに会うことも出来るわ。
でも完全に亡くなると神さまは「波動」が高くて住む次元が違うから、なかなか会えないの。
それに神社には鳥居とか、しめ縄とか、護符とかの結界が張ってあって、霊魂体では入れなくなるのよね。
次に亡くなった直後に、永遠の魂のヘソの緒が、自分の体から切れた感じがしたでしょう。
霊魂体と肉体をつなぐシルバーコードと呼ばれるコードが体から切断されると、肉体と霊魂体が分離されるの。
第2チャクラの丹田とか言われる部分なんだけど分かるかしら。
霊魂体は、メッチャ痛いのが嫌だと、体が亡くなる前に先に肉体から分離してしまうことがあるのよね。
遺体は、そのままだと痛々しいし、体のスイッチも同時にオフにして体の活動も終了させる必要があるわ。
完全に電源がオフになると、呼吸も停止して、その後で心臓も停止するわ。
あの瞬間に1秒ぐらいで3次元から4次元へ自分が移動している感じがわかったかしら。
亡くなってから成仏するまでの四十九日のあいだの期間は喪中と言うのよ。
この49という数字は、昔の日本語のヲシテ文字に48音の文字があったらしくて、その次の数字というのが由来らしいの。
普通は四十九日までは4次元にはいるけど、同時に物質世界にも普通にいるのよ。
この成仏せずに霊界に入り切っていない中途半端な4次元を幽界とでも言っておきましょうか。
まぁ、お別れの挨拶の時間とでも言ったら良いのでしょうね。
どこにでも瞬間移動で行けるから、病院でも、実家でも、自分の家でも自由に行けばいいんじゃない。
三田さんも私たちのことは気にしないで、好きな所に行っていいわよ。
さっさと成仏しちゃってもいいんだけど、せっかくお葬式とかもしてくれるしね。
お葬式は自分が主役だし、ちゃんと出たほうが良い気がするわ。
お葬式が終わった後は、一通りの法要があって、四十九日が終わってお墓への納骨も終わったらイベントは終了ね。
じゃあ、この後は成仏して霊界へ移動するわ。
成仏の仕方については、三田さんの四十九日の法要が終わってから話をするわ。
アリアは時間が経過して焦るかもしれないけど気にしなくて大丈夫よ。
霊魂体は時間を戻れるから、さっきの剣道の練習場に同じ時間帯で戻ってくれば大丈夫。
一度行っているから魂の記憶にマーキング出来ているし間違えないと思う。
霊界は時間軸が物質世界とは違って一方向に一斉に動いているわけじゃないのよ。
実際は物質世界の時間の進み方も早くなったり遅くなったりしてはいるけどね。
パイ生地みたいに多重になっているって言ったらわかるかしら。
まぁ亡くなったら時間なんていくらでもあるから気にしないで。
アリアは、まだ亡くなっていないけどね」
その後は、三田さんの遺体が病院から家に運ばれたのを確認してから、三田さんの家に行った。
三田さんは複雑な感想を漏らしていた。
「家に帰ってきたわ。
なんだか複雑。
まさか幽霊になって帰ってくるなんてね」
三田さんが部屋の物を触ろうとすると、ハタさんが注意して言った。
「あんた、自分の家だからって、そこらの物を触ると、ポルターガイスト扱いされるわよ。
それにあんまり騒いで物音をたてるとラップ音とか言われて、心霊物件扱いされるわよ。
逆に夜中に2階の階段を昇る音とかラップ音とか聞こえる場合は、誰か家族で成仏していない人がいるって疑った方が良いわね。
出産で流産した場合なんかも、あんまり亡くなった家族だって認識してない場合があるけど要注意ね」
三田さんは慌てて手を引っ込めた。
「それ言われると、その通りですね。
あぶなかったです。
自分の部屋だからって調子に乗って好き放題出来ないのもツライですね。
でも、こうして普通に家の中をウロウロしているのも変な気分ですね。
家族も誰も気付いていないようですし。
うん?
おばあちゃんと目があった」
三田さんの、おばあさんは私たちに気付いているようで、こちらが会釈すると、おばあさんも会釈してくれた。
おばあさんは、お帰りと小さな声で言ったように聞こえた。
おばあさんは霊視が出来るっぽいわね。
おばあさんは何かを思ったようで、分かりやすく仏壇の前に移動すると声を出して語りかけてきた。
それは子の三田さんへの想いとメッセージだった。
それは、三田さんに翔君を助けるためによく頑張ったという労いの言葉と、三田さんへの小さい頃からの成長と愛情、そして成仏へ向けた送別の言葉だった。
翔君はおばあさんが面倒を見るから未練を残さずに何も心配しないで成仏してと言っている。
三田さんの子供の翔君も、おばあさんの動きを見て何かを察知したようだ。
けたたましい子供の声とともに静寂は破られた。
「ママ!
ママが帰ってきてるの?
イヤッー!
ママ、帰ってきてよ!
お願いだから。
僕のせいで、僕を助けようとして」
そう言うと翔君が泣きじゃくった。
三田さんは、むこうからは見えなくても翔君を抱きしめながら一緒に泣いていた。
「翔のせいじゃないの!
私なんかよりも翔が長生きして欲しかっただけなの。
私が勝手にやったこと。
翔のせいだなんて思わなくていいから」
これまでのストレスが一気に吐き出されたようだった。
ハタさんがその光景を眺めながら言った。
「霊感が強い家柄で、古い仏壇があるような家では、しっかりとこういう故人が家に帰ってくるっていう風習が残っている家もあるのよ。
それに女性には隔世遺伝で強い霊感が遺伝するみたい。
おばあさんは霊視で完全に私たちが見えているわよね。
幽霊って好きな場所に自由に行けるけど、ちゃんと見えている人もいるから、勝手に入るにしても礼儀は大事って気がするわ。
ところで霊能者の霊視って色々とあるのよ。
霊魂体が視えるだけじゃなくて、過去の記憶や、土地自体が持つ過去の記憶の風景とか色々なパターンがあるかしら。
普通にリアルタイムで目の前に視えるケースもあるし、ビジョンとして動画を受信して受け取るケースもあるわね。
霊魂体は、斬首されて首が無いようなケースとか、事故当時の血まみれの服装を着ているケースとかもあるから怖いのよね。
そのあたりは霊魂体の側で自分自身はこうだと思っているイメージがモロに反映されて視えてしまうのよね。
逆に高位の神々だと光の玉みたいな場合もあるから、もう輪廻転生していた時代の見た目なんて忘れているのかしら。
こっちの「波動」が低いと、高い「波動」が光にしか見えないってのもあるけど。
霊聴の力もあると霊魂体と会話も出来るわね。
トランス状態で神懸りみたいに憑依して話を代弁する場合や、リアルタイムに目の前の霊魂体と会話するケースもあるみたい
亡くなった方が挨拶するのって昔から夢枕とかって言われているのよ。
亡くなって成仏する前に夢とかの仕組みを上手く活用して挨拶周りしているのだけれど。
あんまり気味悪がらずに、話を普通に聞いてお別れの挨拶をしてあげて欲しいって思うわ」
たしかにさっきまで話をしていたお母さんとかが、亡くなって霊魂体になっただけで気味悪がったりしたら悪いわよね。
ハタさんが少し雑談を続けた。
「亡くなった家族や先祖の供養って大事なのはたしかだけど、少子高齢化も限界を超えるとちょっと厳しいわよね。
少ない子孫でそんなにいっぱいの先祖供養なんて絶対に無理でしょう。
たった一人の子供に最大で4つの家系の墓とか残されてもね。
先祖の側もいいかげんにあんまり重い要求するのは諦めなさいよとか思うわよ」
数日後に、三田さんのお葬式が始まった。
三田さんは、自分のお葬式の光景を見ながら言った。
「お葬式って、亡くなった後に別々に挨拶に行くにも忘れがちというか、どこに行ったら会えるかも分からないような親戚とか友達とかも来てくれているから挨拶するには本当に便利ね仕組みですね。
心霊現象って言われるから電話するわけにもいかないですしね。
まぁ、人によっては会うのが微妙なケースもあるんでしょうけど、忙しくても仕事とか休んで来てくれているぐらいだから感謝しかないですね」
その後は四十九日の法要も終わってお墓への納骨も終わった。
ハタさんが、仏壇とお墓について話をしてくれた。
「お葬式の時に作った位牌を新しい位牌に魂を移す開眼も大事なのよね。
位牌は霊界とのテレビ電話の受信機みたいな役目があるんだけど、開眼をやっておかないとただの木材になっちゃうのよ。
位牌は神さまの依代に近い役割があるみたいね。
ちなみに位牌だけだと霊魂体が丸裸みたいで居心地が悪いから、仏壇もあると快適みたい。
今の時代は仏壇を置く家が減っているけど、意外と先祖のサポートを受けるには大事だと思うけど。
ただ仏壇の扉を閉めると、霊界とのつながりがシャットアウトされるので基本は開けておかないとダメね。
テレビ電話の受信機をオンかオフにするイメージだって言えば分かるかしら。
こっちの霊界に来て分かったことだけど、ロウソクは電気式だと暗くて良く見えない感じがするわよね。
炎の方が良く見えるわ。
お墓はコンクリートで固めると遺骨が土に還れないからよくないわね。
霊魂体が土に還れなくて、首を少し絞められたみたいに苦しんでいる場合もあるみたい。
お墓に木の枝とかからの雨の水滴が落ちて当たるような場所もダメね。
霊魂体の頭に水滴があたったみたいな感じ、かなりウザいって」
三田さんは一連の法要が終わると決別の決心がついたようだ。
ハタさんはその様子を見て先祖との関係について解説してくれた。
「あの子には想いがあると思うけど、あの子には、あの子の人生があるし、それを勝手に歪めるのも違うと思う。
ペットの霊魂体の霊障って、何が原因かわかるかしら。
ペット自体には何の執着心も無いけど、飼い主のペットに対する執着心で、ペットが成仏できないのが原因のケースが多いわよね。
ペットの写真とかを全部燃やして日常生活から忘れる努力をしたら、ペットの飼い主への霊障が収まったって話があるのよ。
子供の母親に対する執着心とか、母親の子供に対する執着心って、あんまり強くてしつこいとお互いに良くない結果になるわよね。
しっかり成仏してから先祖として子孫を守護するのが本来の在り方なのよ。
さぁ、さっそく成仏しましょうか。
三田さんは、どこかに強い光が見えるでしょう。
そこへ向かって進んでいってちょうだい。
あれは、あなたのご先祖とかが迎えに来てくれている光なのよ。
相思相愛の愛はすごく強い引力を生み出すから、たとえ宇宙の果てでも一瞬で相手を探し出してフォーカス出来るのよ。
精神世界は物質世界と違って心の距離が本当の距離になるのよね。
日頃からご先祖の供養をちゃんとやってないと、光が弱くなって見えないから迷子になるらしいわ。
あなたの家は仏壇もあるし、ちゃんと供養してそうだから光も強いでしょう。
供養と言っても難しい話じゃなくてご先祖に感謝の気持ちを口頭で言霊として出して言うぐらいでもいいのよ。
線香三本もあると、なお良いけどね。
ただし、ちゃんと位牌も置いてご先祖さまへと語りかけないと意味ないわよ。
三田さんも供養されたら気持ちが癒されるってどういうことか分かると思うわよ。
まあ少なくとも事故の記憶は供養されただけで相当癒されるでしょうね。
霊魂体が若返ったりもするみたいよ。
天国とか霊界とかを信じていなくて物や人に執念が強過ぎると、3次元の物質世界と同じ超低い「波動」と同じレベルになっちゃって抜けられないらしいわよ。
そうすると霊眼も使えないから4次元の精神世界も視えないし、せっかく迎えが来てくれても視えないのよ。
逆に亡くなってから、物質からサッパリ解放されて、「波動」も上がって4次元の精神世界にサクサク進むと、3次元の物質世界がドンドン見えなくなってくるのよね。
普通はメンタルを慣らすためにも、何日かかけて徐々に「波動」が上がっていくとは思うけどね。
あと家族が哀しいから行かないでとか言うと呪いの言霊のように3次元の物質世界に亡くなった人を鎖で縛りつけるのよね。
遺族も葬式で新しい門出を笑って見送ってあげないと、輪廻転生の妨げになるって気付いて欲しいわよね。
さて、それじゃあ行きましょうか。
私たちも追いかけるから」
三田さんは頷くと、光の方へ向かって移動した。
しばらくするとトンネルのようなところに吸い込まれて霊界へ向けて一気に移動することになった。




