113話 束の間の休息と暴走女騎士
「ご主人様〜、お料理の用意が出来ました〜!」
「はっ……!」
レオナと舞夜の唇が触れるその直前、アリーシャの声が聞こえてくる。
それにより、一気に舞夜の意識が覚醒する。
慌てて顔を横に逸らし、既の所でレオナのキスを躱すことに成功する。
「……舞夜ちゃん? 何でママのチューを避けるのかしら……?」
「え、えっと、やっぱ親子でキスをするのはダメだと思いますし……そ、それよりバーベキューの用意が出来たみたいですし行きましょう!」
「あんっ! ま、待って、舞夜ちゃん……もう、あと少しだったのに……」
浮き輪の下から抜け出してしまった舞夜に、レオナは残念そうに溜め息を吐くのだった。
「……アリーシャ姉さま、やらかした」
「ですの、もう少しでお兄さまとレオナお母さまの〝既成事実〟が作れたところですの!」
「くっ……わたしとしたことが、ご主人様に早くお料理を食べさせてあげたいばかりに……!」
リリアとシエラに言われ、舞夜とレオナが良い雰囲気だったのに気づけなかった事実に、アリーシャは歯軋りするのだった。
実の妹のみならず、母親までハーレムに加えようとするとは……このエロフも大概である。
「さぁご主人様、まずはお体をフキフキしましょうね♡」
川から上がってきた舞夜をタオルを持ったアリーシャが出迎える。
「ア、アーシャ……自分で出来るから大丈夫だよ……」
「ダメです。これも奴隷の……そして妻の務めです♪」
抵抗する舞夜を、アリーシャは優しく抱きしめ、頭から全身に至るまでを優しく拭いてゆく。
わざわざ密着して拭いてくるものだから、彼女の胸が舞夜の体の至るところにあたり気が気ではない。
「……むぅ、先を越された」
「シエラもお兄さまの体、お拭きしたかったですの……」
アリーシャに先を越されたリリアとシエラはガッカリした表情を浮かべるのだった。
まだまだ幼い二人は、どうしてもアリーシャに遅れをとってしまうのだ。
だが、負けてばかりではない。
二人はすぐさま行動に移る。
川辺に敷いたシートの上に、リリアが舞夜を誘導する。
彼が座った横に二人が密着するように座る。
普段から交わっているとはいえ、水着姿の二人は魅力的だ。
二人とも体自体は幼いが、胸は十分に巨乳と呼べるサイズに実っている。
左右からムニュムニュ、ポヨポヨと襲いかかる感触に、危うく舞夜のベヒーモスがベヒーモスしそうになってしまう。
「……はい、ご主人様、あ〜ん♡」
あらかじめ皿に盛っておいた料理をリリアが舞夜の口へと運ぶ。
串に通された肉の香ばしい匂いが食欲をそそる。
二人の果実にドギマギしながらも、舞夜は串焼き肉にかぶりつく。
「うん、美味しいよ」
「……良かった。今日の味付けは私がした」
料理の味を褒められ、リリアが頬を染めながら喜びを露わにする。
そんな彼女の頭を、舞夜は優しく撫でてやる。
「くすっ、お兄さまったら、口の周りにソースがついてますの。……んちゅ♡」
リリアとのやり取りを見守っていたシエラがそのことに気づく。
すると、舞夜のソースのついた部分に舌を這わせ、ソースを舐り取ってしまうのだった。
まだ幼いというのに、その仕草はなんとも妖艶だ。
舞夜と交わってからというもの、シエラの行動はロリロリした見た目とは裏腹に、どんどん大胆に成長していっている。
「はぁ……恥ずかしがる舞夜ちゃん、なんて愛らしいのかしら……♡」
自分も体を拭き終わったレオナが、舞夜の可愛らしさにウットリする。
アリーシャも同じような表情で舞夜を見つめ、太ももをモジモジと擦り合わせるのだった。
この後も、四人は食べさせっこなどして楽しい時を過ごした。
そして少しの休息の後、まずは孤島――ではなく、迷宮都市リューインへと赴くのだった。
◆
「おい見ろ! 舞夜様だ!」
「本当だ、それに侯爵令嬢のシエラ様も一緒だ!」
「アリーシャちゃんもリリアちゃんも可愛いよな〜」
「っていうか、あの美女エルフは何者だ!?」
「とにもかくにも、英雄の帰還だな!」
迷宮都市へと足を踏み入れると、あちこちからそんなやりとりが聞こえてくる。
帝都クラリアルで、舞夜が単騎で魔王に不死者の王、それにアルフス王国の王子が率いる軍勢を撃滅した事は国中で噂になっていた。
それに加え、舞夜はこの都市の領爵であり、魔王マモンを討伐した実績がある。
人柄の良さも有名である彼が、都市の人々に帰還を喜ばれるのは当然である。
その他にも、あまりの可愛らしさでアリーシャにリリア、シエラは都市のアイドル的存在になっていた。
新たに加わったレオナの美しさにも、都市の男どもが目を奪われる。
「ふふっ、ご主人様ったら、相変わらずすごい人気です♡」
「……ん。奴隷として、お嫁さんとして誇らしい」
「強くて優しくて、愛らしいお顔……シエラにはもったいないくらいですの……」
尊敬や羨望の眼差しを向けられる舞夜を見て、エルフ嫁たちは改めて彼の偉大さを実感する。
それと同時に、そんな彼に愛されているという事実に、心が満たされていくのだった。
「まずは侯爵様のところに――」
「フハハハハ! この匂い! やはり舞夜ちゃんだったかッッ!」
まずは侯爵様のところに行こう――
舞夜がそう言おうとしたところで、人垣の向こうから高笑いが聞こえてくる。
その声の正体は……。
(げぇぇ! サクラさんッッ!?)
そう、リューイン騎士団七番隊隊長にして、舞夜大好きショタコン女騎士こと、サクラの登場である。
セリフから察するに、どうやらこの人混みの中で舞夜の匂いを嗅ぎつけたようだ。
とんでもない嗅覚である。
「あぁ……! 舞夜ちゃんのいない時間、どれだけ寂しかったことか……舞夜ちゃんを思い出す度に自分で慰めていたのだぞ!」
「知るか! というかそんな情報聞きたくなかったんですが!?」
大衆の前だというのに、とんでもないことをカミングアウトするサクラ。
舞夜も周囲もドン引きである。
「だがもう大丈夫だ。サクラお姉ちゃんに全て任せておけ!」
「何を!?」
「ナニをッッ!」
(ダメだ、早くなんとかしないと……)
だがサクラは止まらない。
目にも止まらぬ速さで重鎧をスポーン! と脱ぎ捨て、全身タイツのような鎧下姿になると、舞夜に向かってル○ンダイブをキメてくる。
「や、やめて!」
舞夜に抱きつこうとしたサクラの頬に、咄嗟に振りかぶった舞夜の平手がパチン! とヒットする。
そしてその刹那――
「んひぃぃぃ!? 男の娘からのビンタしゅごいのぉぉぉぉぉッ!」
そんな咆哮を上げ、状態を仰け反らせてビクン! ビクン!
衆目の中、サクラはビンタ一発でアレしてしまうのだった。




