114話 娘さんをぼくにください
「ふぅ、戻ってきて早々にひどい目に遭った……」
都市の表通りを、舞夜がげんなりした顔で歩く。
そんな彼に、アリーシャたちは苦笑しながら付き従う。
ちなみに、ビンタ一発でアレしてしまったサクラは、騒ぎを聞きつけ駆けつけたダニーたちに預かってもらった。
「舞夜ちゃんったら、女騎士さんにまで好かれているなんて、モテモテね?」
サクラとは初対面だったレオナが、朗らかに笑いながら言う。
舞夜は「アレさえなければ良い人なんですがね……」と、乾いた笑いを漏らすのだった。
そんなこんなで、他愛ない会話を交わして歩くこと少し、都市の住人に憧れや尊敬、羨望の視線に見送られた舞夜はとある場所へとたどり着いた。
「侯爵家……まさかこんな形でくることになるなんてな」
「うぅ……シエラは何だか緊張してきましたの……っ」
彼らがやってきたのはシエラの実家である侯爵家だ。
孤島に赴きジャックたちと色々な用を済ませたいところではあるが、その前にやらなくてはならないことがある。
「お嬢様! それに舞夜様たちも……!」
屋敷の門へと近づくと、門番がすぐさま一行に気づく。
シエラは愛想良く「ただいまですの!」と挨拶をし、舞夜たちも一礼する。
門番はすぐ様門を開け、一行を中に通す。
屋敷の中に入ると、さっそく使用人たちが出迎えた。
「おお、シエラ! 舞夜たちも良く戻ったな!」
使用人たちの声に気づいたようだ。
この都市の領主であり、シエラの父でもある人物――ゼルマン・リューイン侯爵が奥から現れる。
その後ろで、彼の奥方であるコーネリア夫人も皆に微笑みかける。
「ただいまですの、お父様、お母様!」
「お久しぶりです。侯爵様、コーネリア様、今日はお二人にお話があって参りました」
シエラに続いて舞夜が言う。
侯爵は愛娘のシエラの頭を撫でつつ、舞夜に「話とはなんだ? 国を救った英雄の言葉であればなんでも聞こうぞ!」と、機嫌良く応える。
舞夜は深く深呼吸する。
そのまま侯爵の前に片膝をついて跪いた。
そして――
「シエラを……娘さんをぼくに下さい……ッ!」
――真剣な眼差しで侯爵を見つめて言葉を紡ぐのだった。
つまり、舞夜の用とは、プロポーズを済ませたシエラを正式に妻に迎えるべく、彼女の両親である二人への挨拶だったわけである。
「あ……あっ……」
「こ、侯爵……様?」
舞夜の言葉に、侯爵は「あ、あ……」と繰り返し、目を見開いている。
一体どうしてしまったのか……。
まさかダメだったかのだろうか――
舞夜がそんなことを考え始めたその刹那だった。
「ありがとうございまぁぁぁぁぁぁすッッ!」
侯爵は絶叫した。
そしてそのまま、跪く舞夜の前に勢いよく土下座し、地面に頭を擦り付けてしまった。
「えぇぇ…………?」
舞夜はドン引きである。
「よくぞ、よくぞ、その気になってくれた……! これでシエラも、侯爵家も安泰である!」
「ふふふ……舞夜さんったら、シエラと結婚する気はないと言っていたのに、どういう心境の変化かしら?」
興奮気味に言う侯爵に続き、コーネリア夫人が問いかけてくる。
「話せば長くなるのですが……今までは、ぼく自身の寿命のこともあり、半エルフ族のシエラと結ばれるわけにはいかないと思ってました。これは秘密にして欲しいのですが、実はぼく、不老不死になる手段を手に入れまして……」
「ふ、不老不死……だと……!?」
舞夜の言葉に、侯爵が目を見開く。
コーネリア夫人もあんぐりと口を開けて驚きを露わにしている。
舞夜は二人なら大丈夫だろうとことの顛末を説明する。
帝都での戦いで、不死者の王であるユリスを討ち破ったこと。
そして彼女を配下にすることで、その体に流れる血を――不老不死を手に入れることに成功したと言う事実を。
「……単騎で魔王にエルフ、それに不死者の王とその配下に勝利したとは聞いていたが――」
「まさか、不死者の王を配下に加えてしまうなんて……。それに永遠の命まで……」
「繰り返しますが、このことは他言無用でお願いします」
説明を聞き、唖然とする二人に、舞夜は再度注意を促す。
二人は静かに、しかししっかりと頷くのだった。
「まぁ良い、今はシエラの夢が叶ったことを祝おうではないか!」
「そうねあなた、セドリックが仕事から帰ってきたら盛大にお祝いしましょう!」
侯爵もコーネリア夫人も、シエラの夢――舞夜のお嫁になるという夢が叶ったことを心から祝福するのだった。
「ところで舞夜よ、披露宴はいつにするつもりだ? せっかくだ、アリーシャとリリアもまとめて盛大に祝うとしよう!」
「まぁ! わたしたちも一緒でいいのですか?」
「……シエラと一緒、嬉しい」
侯爵の提案に、アリーシャとリリアが嬉しそうな表情を浮かべる。
シエラも「お姉さまたちと一緒じゃなきゃイヤですの!」と言って、二人の腕に組みついた。
そんな三人の様子を、母であるレオナとコーネリア夫人は微笑ましそうに見つめる。
初対面だったレオナの自己紹介の後、二人はすっかり意気投合したのだ。
「侯爵様、それについてですが、結婚の前にやらなければならないことがあります」
「どういうことだ、舞夜よ?」
「ぼくは三人と平和な生活を送りたいと思っています。しかし、この世には魔王という存在が存在し人々の生活を脅かしています。そして、いつまた魔王がぼくたちに手を出してこないとも限りません」
「舞夜よ……魔王を全て討ち亡ぼすつもりか……?」
「はい、その為の戦力もあります。もうここまできたのでお話ししますが……以前、都市の近郊に現れ、魔王ベルフェゴールとその配下たちを殲滅した怪獣とアンデッドですが……」
「ま、まさか……」
「はい、ぼくの配下――いえ、友達です」
「なんと……」
この都市を魔王ベルフェゴールと勇者アレックス、そしてその配下の魔族たちが襲撃したのは記憶に新しい。
そしてそれらを見たこともない怪獣や、武器を装備したアンデッドたちが一掃した。
突如として現れ都市を救った後、姿を消した彼らの存在は人々の間で噂になっていた。
それがまさか、舞夜と繋がりを持っていたとは……。
さすがの侯爵も唖然とせざるを得ないというものだ。
そんな侯爵たちの反応を見て、三人のエルフ嫁たちは「これがわたしたちの旦那様です!」と、誇らしげな表情を浮かべるのだった。
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姉妹作品『Sランクモンスターの《ベヒーモス》だけど、猫と間違われてエルフ娘の騎士として暮らしてます』の二巻の発売が決まりました。
詳細とキャラデザの一部を活動報告にUPしましたので、ぜひご確認ください。




