第12話
僕の横に並び、腕を組んで歩く真依さん。
それが恋人や夫婦のような組み方ならいいのだが、真依さんが僕と腕を組んでいる理由はただひとつ。
金蔓を逃がさないためだ。
機嫌がいいのか、クレープをおごってくれた。食べたことのない、甘い生地を手に持った僕は、沖田さんが行っている握手会のステージへと向かっているのだった。
「なんで……こうなるんだ?」
僕は真依さんと別れるつもりだった。
〈SISI〉の擬態を破る体質――体質なのか分からないが、とにかくその能力を持つ真依さんを〈新撰組〉に関わらせたら――何をされるか分かったものではない。
しかし、沖田さんなら問題ないか。
彼は自分にしか興味がない。
隊長でありながら、ほとんど個人で動く沖田さんには、土方さんも手を焼いている。
「そう考えればそっちのほうがいいかもね」
「え、こっち?」
真依さんは右手に持っている服を挙げて確認する。僕は真依さんのクレープを持ち、所謂女の子のお買い物に付き合っているのだった。
僕が良いと言ったのは、最初に沖田さんに話をすることで、別に真衣さんが手に持っていた服が良いといったのではない。
服を選ぶのに、僕が意見をできると真衣さんは思ってるのだろうか?
殆どを〈新撰組〉から支給される無地のシャツか、サラリーマンが来ているような無難なスーツを着ている僕。
沖田さんのように自分専用のデザイン服も、頼めば作ってくれるけど、そんな人は殆どいない。
派手な格好をして〈SISI〉に記憶されるのが怖いんだ。
「いや、こっちの話?」
「え、こっち?」
こんどは反対の服を持ち上げた。
「はぁ」
だから、そうじゃないんだけど。
「女の子が服選んでるときは楽しそうにしなきゃダメだよ」
「いや、ほら、僕、服とか興味なくて」
「興味なくても、私に似合う方を教えてくれればいいだけ」
「それは好みの問題なのでは?」
「だから、それを君の好みで決めていいっていってるの」
「え、ええと。じゃあ僕は右、かな」
ピンクのカジュアルなドレスを思わせる、上品な洋服。
真依さんを表しているみたいで、よく似合う気がする。
「そっかー、じゃあ、ちょっと試着してくるね」
「どうぞ……」
試着室に消えた真依さん。もう完全に気分も機嫌もよくなっているようだ。
あんな苦しんでいたのが嘘のようである。
朗音さんは時々あると言っていて、医者でもお手上げな真衣さんの症状。
うーん、もしかしたら、〈SISI〉の擬態破りとなにか関係してるのかも。
だとすると、〈新選組〉に連れて行かなきゃ……。
けど、つれていったらなにされるか分からない。体をいじり尽くされて死んでしまったら、真依さんに申し訳なさすぎる。
これがジレンマ……。
「その事も、沖田さんに相談してみよう」
長い期間、隊長に居座る沖田さんなら、上手く口を聞いてくれるだろう。
「ど、どうかな」
真依さんが試着室の扉から顔をひょっこりと出して僕に聞いた。
「…………」
感想を求めるならちゃんと服を見せてからにしろ。顔だけで分かるか。
「やっぱ、変かな……?」
「いや、そういう問題じゃないと思うんだけど」
「そうだよね。着る前から分かってたよね。ごめん……」
「だから……」
真依さんは悲しそうな顔をして扉を閉める。
実際に試着した姿を、僕は見ることなく終わってしまった。
真依さんは以外に天然なのか? でも、これは天然なんてレベルではないとは思う。
ま、本人が似合うかどうか決めればいいのであって、別に僕が見る必要はないからいいんだけどさ。
僕はため息と共に項垂れる。正直、女の子と一緒に呑気にショッピングを楽しんでる場合じゃない。
「感想いってくれないなんて酷い」
いつのまに試着室から出てきたのか、僕の横にいた。
「すいません……って」
横にいた真依さんが着ていたのは、僕が良いと選んだピンクのドレス。
「ど、どうかな?」
僕は不意を付かれた気分だった。
てっきり元々自分が来ていた服で戻ってくると思っていた。身構えがないぶん、素の感想で答えてしまった。
「す、すごい似合ってます」
ありきたりで陳腐な感想。
もっと、お洒落に答えられればいいのだけど、僕にはこれが精一杯だ。
「へ、へへへ」
だけど、着色ない僕の感想にはにかむ真依さん。
「……」
まるで僕の中の時間が止まったかのように、真依さんの笑みが脳内に張り付いた。
「うん? どうしたの?」
「あ、ああ、いえ、なんでもないです」
慌てて真依さんから目を反らして、興味もないのに、近くにかけられている服に手を伸ばす。
「変なの」
「僕が変なのは、分かりきってるでしょう」
「そうね」
「……。納得しちゃうんですか」
「まあ、普通ではないよね」
「ほら、とにかく沖田さんの元へと急ぎましょう」
「急いでも、イベントやってたら――会えないでしょ?」
「あ……」
気づかなかった。
「でも、イベントなんて30分位で終わらないですか?」
「それは分からないけど、でも、沖田総司クラスのアイドルがそんな短いかな? ましてや握手会」
つまり、沖田さんにとっては〈SISI〉を狩るよりも握手会の方が時間がかかるのか。どんな相手でも瞬時に倒す沖田さんでも時間がかかるとは――握手会、恐るべし。
ならば、僕も勉強としてその光景を見てみたい。
真依さんに伝えると、「わかったわ」と、どこか不足気味に承諾してくれた。
「折角のデートなのに」
ぼそりと、聞こえた真依さんの声。
声が小さくてよく聞こえなかったけど、きっと、沖田さんを見れるのが嬉しいんだろう。
「もう、着替えてくる」
真依さんはどすどすとした足取りで、自分の服が置いてある試着室へと入っていくのだった。




