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第11話

「お、沖田さん!?」


「それとも……、まさか、〈SISI〉を逃そうとなんて――してなかったよね?」


 優しい笑みに込められた、隠すことない殺意。


「うっ……」


「〈誠儀〉使ったんだから、近くに〈新撰組〉が、近くにいたことは分かってたでしょ?」


 そう僕を攻めてくる沖田さん。

 それは思っていたけど、まさか――隊長格だとは思わなかった。


「僕を追うより、逃がした〈SISI〉を追うと判断したんです」


 その隙に逃げようと。


「本当かなー。まあどうでもいいや。それよりも――久しぶりだね、将太くん。いや、今は〈4代目 近藤 勇〉――局長って呼んだ方がいいんだよね」


「は?」


 そういえばさっきも沖田さんが局長と僕に言っていた。

 さっきは沖田さんが現れたことに驚いたので、それどころではなかったけど、 さすがにこうして改めて正面から言われれば、聞き逃しようはない。

 局長と言うワード。


「ちょっと、色々聞きたいことがあるんですけど、まずこれだけ聞かしてください……」


 僕はそこで一息つく。


「僕が……局長? なんの冗談ですか、沖田さん?」


 これまでにも様々な悪戯をされてきた。現に僕が〈新撰組〉から逃げだす前にも、「将太くん、隊長候補に名前入ってるからね」と、かなり危険度の高い〈SISI〉を狩りに行かされた。


「え、あれ……?」


「僕はしっかり教えてあげたんだけどねぇ」


「本当だったんですか!?」


「当たり前でしょ、大体、君の持っている〈誠〉――それ、先代近藤さんの奴だから」


「はっ?」


「〈虎鉄〉、知ってるでしょ?」


「いや、名前はよく知っているんですけど」


 僕もそれくらい頭の中に入ってる。


「でも、それは……」


 と、そこで倒れた巨体が泡立つように動き始める。

〈SISI〉は体の内部にある〈核〉を破壊しなければならない。しかし、擬態している〈SISI〉の〈核〉はどこに隠れているのか、分からないのだ。

 その為に、沖田さんがしたように、擬態している姿に致命傷を与える必要がある。首を跳ねたり、四肢をもぎ取ったり。

 そうすれば――


「在りました、〈核〉!」


「君、さっきまでこの〈SISI〉を見逃そうとしてたのに、今は止めをさせと僕に言うんだね……」


 完全な透明の中に浮かぶ黒く光る球体。

 あれこそが、〈SISI〉の本体。擬態姿にダメージを与えるのも、〈核〉を破壊できるのも〈誠〉のみ。


「まあ、こうなった以上――しょうがないですよ」


 〈SISI〉を倒すのが〈新選組〉――ただ、それだけだ。ましてや隊長がいたんじゃ、この男程度じゃ、生き残れない。

 〈SISI〉には悪いが、諦めるしかないさ。


「ふふ、非情なんだね」


「まさか、ただの淡白なだけですよ、泡立ちやすい男ですから」


「……それは卵白じゃない?」


 〈SISI〉は、ジェルの体になっても、生き残ろうと〈誠儀〉の縁まで移動していた。だが、そんな体で〈誠儀〉を壊せる訳もなく――ペタペタと張り付くだけ。

 沖田さんは、手にしていた日本刀を〈核〉に向かって投げる。


「話戻すけど、君が言いたいのは〈誠〉の形じゃないよね」


「いや……形もですけど」


 最後の命を使い〈核〉に刺さった日本刀を抜き去ろうとする。

 完全に貫かれているので、日本刀を抜いても遅い。

 が、そうすることで命が助かると信じているのだろう。

 哀れにも。

 アメーバのような、完全に本来の姿に戻った〈SISI〉は、徐々に体が煙と共に蒸発していく。


「近藤さんの〈虎鉄〉も、沖田さんと同じく日本刀だったと思うのですが……」


「そうだっけかぁ」


「ええ」


 ここでとぼける意味はないだろうに沖田さんは、投げた日本刀を拾い上げ、鞘に納めた。


「でも、局長――先代が〈誠〉の能力使ったの見たことある?」


「そういえば……」


 そうだ。

 僕は先代の近藤さんの部下として働いていた。

実戦には、局長はあまり行かなかったが、〈SISI〉と戦わなかった訳じゃない。僕は何回も守ってもらった。

でも――〈誠〉の能力を見たことは――ない。


「先代が使っていたのは、訓練生に与えられる能力なしの〈誠〉。簡単に言えば、〈SISI〉が切れるただの刃物」


「なるほど」


 確かにそれなら、〈SISI〉と戦えるかも知れないけど、〈誠〉の持つ能力がなければ――下級の〈SISI〉と一対一なら勝てない。

 身体能力が高い〈SISI〉に対抗するための〈能力〉。

 〈新撰組〉は、〈SISI〉と渡り合うために、肉体を強化する手術も行われていたらしいが、手術後の死亡率の高さから廃止になり、今の武器に〈能力〉を付与する形となった。

 それにも関わらずに能力を持たず〈SISI〉と、ガチンコで戦えば、僕ならば当然勝てない。


「ふふ、まあ、こんなところで話してても、仕方ないし」


 沖田さんは小さな球体をポケットから取り出してスイッチを切る。

一回使うのに、詳しい構造は勉強不足だが、とにかくお金がかかることだけは確実に覚えている。

 それを平然と使う沖田さんは中々いい神経を持っているようだ。

 市民の命を守るためなら、安いんだろうけど……。僕は一回しか使ってない。


「ほら、人は僕があしらっておくからさ」


「でも……」


「いいから、いいから」


 沖田さんはそうして、集まっていた人々に手を降った。


「みんなー。どうだった? 僕のサプライズ新曲発売イベント! これから握手会もあるから、ちゃんと来てね!」


 意味の分からない球体から現れたのはトップアイドル。

 いきなり現れた、沖田さんの姿をみた女性たちが、はち切れんばかりに黄色い声を上げる。人気だとは知っていたけど、いざ、大勢の人が歓喜しているのを見ると、肌で感じると、その凄さに眩暈を覚える。


「ほら、この隙に行きなよ」


「あ、ありがとうございます」


 沖田さんの元に、我慢できなくなった女性たちが詰めかけていた。

 「握手会は後でやるよ」と、いいながらも、しっかりと握手に応じる沖田さん。

 なるほど、とっさの状況とはいえ、人のいる中で戦闘すると、やはり人が集まるのか……。沖田さんがいてくれて、良かったのかもしれないな。

 人に見られることなく〈SISI〉も倒せたし、その後の対応もしてくれた。数いる隊長の中でも、ここまでスマートに対応できるのは沖田さんだけだろう。

 一先ず僕は、真依さんのキャンピングカーへ戻ろう。

 あわよくば、逃走を続けようと僕は企む。

 恩を仇で返すことになるけど、今までいじめられた分を考えれば、まだ足りないから大丈夫。

 真依さんの元へと女性達の渦から離れる。


「真依さん、大丈夫?」


「うん、なんか急に楽になった」


 上半身を起こした真衣さんを、僕は背中に乗るように促すが、


「もう、全然平気。むしろ君に背負われてる方が気持ち悪いかも」


 自分ですくりと立ち上がり、体を捻る体操を行う。


「……命の恩人に向かって何いってるんですか?」


「命の恩人って。どうせ何もしてないでしょ?」


「……」


 この一連の出来事を真衣さんは見ていたのか?

 自分に触れた男が〈SISI〉だったことも 僕が〈新撰組〉だってことも――見てしまったのか?

 真依さんは〈誠儀〉の外で倒れていたから、中の会話は聞かれていないだろうけど。

しかし、真衣さんの意識は朦朧としていたようで、ほとんど記憶にないという。


「目が覚めたら沖田 総司がいた」


 今、意識が回復したようだ。


「……何も見てないのに否定したんですか」


「だって、命なんて危なくなかったもん」


「はぁ……」


 僕がどれだけの目にあったか。

 確かに僕は、何もしてはいないけど、それでも、いきなり自分が局長になったなんて突拍子もない事実を知らされたのだ。

 〈SISI〉に出会った以上に、そっちが僕には重要なこと。

 しかし、しかしだ。仮に、自分が局長だと仮定するならば――追っ手がこなかった理由は、〈SISI〉の活動の活発化だけでは無かったことになる。

 隊士の居場所を閲覧できるのは格隊長のみ。

 そして格隊長を探せるのは局長のみで、局長の上は――存在しない。

 なるほど。

その可能性が高いとしよう。だが――そうなると、朗音さんが言っていた局長の死。そんな聞き流していた情報が、嘘じゃなかったことになる。

嘘だと思っていたことが現実だった。

 近藤さん、まだまだ現役だった。それなのに……。

 にわかには信じられない。 

 やはり、逃げるのはここまでか。


「それじゃ、ここから離れない方がいいね……」


 この場所で、おとなしく沖田さんを待つか……。そう判断した僕は、駐車場へと出て車の元へ歩く。

 真依さんは気持ち悪いと無礼なことを言いながらも、しっかりと僕の背中に張り付いていた。

 平然と立ってたよね?

しかしまだ、万全な隊長ではないとのことで、結局僕が運ぶことになった。

ならば、気持ち悪いと言わないで欲しい。

 僕のハートは脆いのだ。


「で、僕はここにもうしばらく居ますので、真依さんとはお別れです」


「お別れ?」


「はい。何年ながら自分のやるべきことが来ましたので……」


 追っ手が来たら戻ろうと決めていた。

 ただ逃げ続けるつもりだったのに、こんな楽しい生活ができてよかった。それだけでも逃走した甲斐がある。

 立体駐車場。

 ショッピングモールより、少し離れた場所にある駐車場へと車を止めた真衣さん。

人を一人背負って歩くには結構長い距離だが、最後まで運んだ自分を誉めたい。 

「やるべきこと?」


「はい――僕は〈新撰組〉の隊士です」


 地面に立った真依さんに僕は告げる。

真依さんが聞かないでいてくれた僕の秘密を、自ら明かした。


「はっ?」


 驚く真衣さん。


「隠していてすいませんでした」


 〈新撰組〉が自らの身分を隠すのは、どこに〈SISI〉が潜んでいるのか分からない。

 誰が〈SISI〉なのかを信じられなくなってしまっているから。

 〈SISI〉からすれば、自らの仲間を殺されているのだ。同じことを僕たち<新撰組>も味合わせたい。

 だから、殺し殺される。

 その昔、偉い人が「目には目を。では世界はなにも見えなくなる」と言っていたが、それはその通りだ。

この〈新撰組〉と〈SISI〉の争いは違う。

見たくもない醜い争いは、終わることなく続き――今も被害は進んでいる。

 殺し殺される。

 なんとも無意味な争いじゃないかと、何も見えていなくなっているからこそ――争いはひどくなっている。

 僕一人が声を挙げてどうにかなる問題じゃない。


「本当!?」


真衣さんには、そんな争いに関わらないで欲しい。


「……はい」


 しかし、真依さんが次にとった行動は、全く予想もできないものだった。


「やった~!」


 と、ガッツポーズをする。


「は、はい?」


「いやだって、〈新撰組〉の隊士を私が拾ったんだよ。そんなのお兄ちゃんにいったら、もうご褒美半端ないよね!」


 真依さんの声が駐車場に響く。

 買い物帰りの親子やカップルが、何事かと僕たちを覗いていた。キャンピングカーの影に真依さんが隠れているので、その視線はすべて僕に向けられている。


「ちょ、ちょっと、真依さん?」


「いやー、絶対なにかあると思ったんだよね。だってあんな血まみれだったんだもん。事件の臭いが半端なかったもんね」


「もんねって、真依さん……キャラがっ!?」


「キャラ? そんなものよりギャラだね。ウハウハだよ」


 あー、なに買おうかな。

 子供みたいに跳び跳ねる真依さん。そんな欲しいものがあったのか? それより、もう真依さんの中で僕は売られることになっている。僕を売るのに、一寸の迷いがないのが逆に清々しくて、なにも言う気になれない。


「もとより拾われたってお兄ちゃんに……」


「真依さん、僕の話、聞いてました?」


 これから、沖田さんに会うと話したはずだけど……。

 真依さんを背負って帰る途中に、僕はあるポスターを見つけていた。

 〈新撰組、沖田総司――握手会開催〉と大きな文字で強調されているポスター。

最初から、沖田さんはいたのだ。偶然、この場所に僕が来ただけ。

 自分から近づいた為に沖田さんに遭遇しただけで、沖田さんが僕を見つけた訳じゃなかった。


「そっか、でも、そっちのほうがいいかも!」


「へ?」


「表の顔がトップアイドルの沖田総司――〈新撰組〉はアイドルだと若い子達に思わせる彼の裏の顔を突き止めれば、更にお兄ちゃんからの報酬は増える!」

 朗音さんにもらえる報酬が増えるのが嬉しいのか、このショッピングモールへ残ることを許可してくれた。


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