35 騎士
「おおおおおおおっ!!」
シオンは目の前で繰り広げられる打ち合いに興奮を隠せないでいた。
一人の壮年の騎士が振り下ろされるクリスの剣を手にした剣で受け流し、その僅かな隙を逃さず打ち込むユージンをあっさりと蹴り飛ばす。後方に控え様子を伺いながら援護に回っているはずのランスは、全く動けないでいた。
「どうしたランスロット。お前はかかってこないのか?」
そうランスに尋ねながらも騎士はクリスとユージンの剣を受け流し続ける。ちっとランスが舌打ちして打ちかかるが、やはりあっさりとその剣は弾かれる。
「っつー、やっぱり駄目か!」
剣を弾かれた手が痺れているらしくぶんぶんと振りつつもそう言うランスの表情は楽しそうだ。
身構えるランスに騎士はにっと笑い、手にした剣をその場に置きランスと同じように身構える。
ちなみにユージンとクリスはその後方でゲホゲホと咳き込んで動けないでいる。腹に決められたからなのだが、模擬試合とはいえこの騎士は王子に向かっても容赦がないらしい。
素手での格闘戦となった騎士とランスの対峙。
騎士の重そうな一撃をランスはその身軽さで避け続ける。
「逃げているだけか?」
「そうは言ってもっ……!」
騎士は笑顔のままという余裕の表情で攻撃の手を休めることなくランスを攻め続ける。一方のランスはすでに息が切れてきていて動きも徐々に悪くなっていた。
「フィリア殿は私に膝を付かせたほどの実力者であったが……」
「あの人は特殊、だっ」
「そうそう、弟に会うことがあればその成長ぶりを教えて欲しいとも」
「ひいいぃぃぃぃぃっ!!」
何故か激しく取り乱したランスはユージンたちと同じように腹に騎士さんの一撃を受けてその場に沈んだ。
「三人ともまだまだだな」
ふうと息をつき騎士がシオンに向き直る。
興奮を隠せないでいたシオンはどきりとして体を強張らせた。
「どうだい? 君も手合わせしてみるか?」
「え、俺ですか?」
「ジオ殿! シオンは武術に関してはほぼ素人です。さすがにそれは無理かと・・・」
クリスがお腹を押さえつつもシオンを庇うようにシオンの隣へとやってきた。
そんなクリスをジオは鼻で笑う。
「では彼は魔法の使用を認めるということでいいだろう。何せあのアロルドの息子なのだからな」
ぼそりと、「あの鬼の……」と呟くような声が聞こえた気がしたシオンだったが、あの優しい父のことではないなと聞き間違いだと気にしないことにした。
「しかしシオンは……」
「俺、やってみたい。魔法もまともに使えるものなんてないし、手も足もでないとは思うけど何事も経験だと思う」
「いや、ちょっとまて……」
「うむ、その心意気だ」
クリスの制止を気にとめることなくシオンは立ち上がる。そんなシオンとクリスをにやにやと眺める騎士。
対峙する二人を三人はただ黙って見守るしかなかった。
(やってしまったっ!!)
その後その場には激しく後悔するシオンと崩れ落ちた騎士の姿。
「やはりな……シオンの魔力は同じ闇か俺と同じ光の属性の魔力でないと対処できないからな」
「どうしようっ!」
「大丈夫だ、残った魔力は打ち消しておいたからしばらくすれば気付くだろう。とにかくシオン、お前はきちんと魔法を扱えるようになるまでは人に向かって魔法は使うなよ? 普通の人間にとってその魔力は反則じみているからな」
「うう、わかった……」
しょんぼりと肩を落とし騎士に目を向ければ、ユージンに担ぎ上げられているところだった。
「大丈夫だ。殺しても死ぬような父じゃないからな。いい経験になっただろう」
「え? 父・・・? それってつまり・・・」
「ジオ殿はユージンの父であり騎士団長だ」
「王宮に勤める騎士としか言わなかったじゃないか!」
「あー、うん間違ってはいないな。説明不足だっただけで」
涙目になるシオンをランスがよしよしと宥める。
ユージンは気にせずジオを屋敷の中へと運び、残された形となった三人はその場でぼんやりと空を眺めていた。
その日はみんなで食事をし、その後明日実家に帰るということ伝えてシオンはフォートン家の屋敷に戻った。
息抜きは終わり、明日からまたしばらくイェシオンとして過ごさねばならない。
それでもクリスのあの様子ならばそんなに心配することはないだろうとシオンは楽観していた。
屋敷に戻ったシオンはティカの手を借り再びイェシオンの姿となる。
シオンはクリスたちが帰るのは2日後だと聞いたので、明日一日は寝込んでいることにして最終日に挨拶だけするつもりだ。
そう考えればシオンの気分も軽くなり、やらかしてしまったが充足感はあった今日を思い返して幸せな気分で眠りに付いた。
次の日やはり訪ねてきたクリスたちは大事を取って休ませるというティカの言葉にあっさりと戻っていった。
ほっと胸を撫で下ろしたシオンだったが、それはそれで少し寂しくもありその日一日をずっと屋敷の中で悶々と過ごしたのだった。
後日の王宮ではアロルドに絡むジオの姿が目撃されていた。
「やはりお前の息子も鬼だな!」
「何を言っているんだ? この脳筋が」
「はっはっはっ、いつかお前達に勝って見せるぞ」
豪快に笑いその場を後にするジオの背中を見つめながら、アロルドは大きく溜息をつく。
勝つといっても、それぞれの得意とすることは違うのだ。そもそもアロルドは戦うことを目的とした魔術師ではない。
「シオンも何をしでかしたんだ……」
アロルドの心配の種はまだまだ尽きそうにない。




