24 魔力
早いもので入学してもう二ヶ月が経過しようとしていた。
周りの生徒たちは魔術の上達が目に見えてわかるようになってきていたが、シオンは相変わらず手探り状態で魔力の制御すら怪しい状態だった。
「どうして俺だけ……」
シオンは今日も涙目になりつつ、水晶玉に魔力を込め制御する訓練をしていた。常に隣にいるクリスはシオンの暴走対策要員として暗黙の了解をされている。
「しかたないだろう。魔術の基本は魔力の制御だからな。それが出来なければ何をやってもうまくいかない」
「それはそうだけど……」
「そもそも光と闇の属性持ちの前例がほぼ皆無だからな。教えるほうも戸惑うのはしかたのないことだ」
歴史ある王立魔術学園といえど、その属性を持った前例がないのである。それほど貴重な属性を持った人間が同時に二人入学したということはとんでもないことであり、学園ひいては国においても大変有益なことだった。
学園としてはコントロールの未熟なシオンが魔術を使い、その身に危険が及ぶような事はどうしても避けたかった。その為シオンは延々と制御のみを訓練しているのである。
ちなみにクリスは魔力の制御になんら問題はなく、その精度を高めると同時にシオンの魔力が暴走しないように見守っている。
「そういえば武術の演習が休みなのはどうしてだろう。俺武術の演習だけが楽しみなのに」
「騎士クラスは二次入学の時期だからだろう。確か今日が実技試験のはずだ。前回教官がそう言っていただろう?」
「そうだっけ?俺魔力の制御ばっかりで気が滅入るから、武術の演習で発散させてるのに」
シオンは前回の武術演習を思い出してみる。
確か終了時にハワード教官が何か言っていた気がするが、その時シオンは隣で行われていた騎士クラスの演習でのエミリオの無双振りに夢中になっていて覚えていなかった。
そんなシオンの様子を知っていたクリスは呆れたように溜息をつく。
「とにかくお前は集中して魔力の制御をしろ」
「はーい」
魔力制御の訓練をし続け、シオンはどうして自分が魔力をうまく制御できないのかを薄々感じていた。
(やっぱり……アレだよね)
アレとは紫苑の意識が覚醒した事だ。
それまでは自然と体の一部であった魔力が紫苑の意識が覚醒したことによって違和感を感じる物になってしまった。紫苑にとって魔力は存在しないものだったのだから。
自分の内側にあるなにか暖かい異物、それがシオンの感じる魔力。紫苑の意識が覚醒して以来、魔力は自分のものに間違いないのに自分のものじゃないようにずっとシオンは感じていた。
なんともいえないモヤモヤとした感覚。
「なぁシオン。今更なんだがちょっと確認したいことがあるんだが」
「何?」
クリスがすっと両手を差し出し、手を繋ぐよう促される。
シオンにはそのよく意味がわからずに首を傾げながらもその手を取り、両手を繋いで大きな輪を作る。
「普通は魔法を学び始めたような小さな子供がやることだが、これが魔力の流れを確認する一番簡単で手っ取り早い方法だからな。水道から少しだけ水を流すようなイメージで魔力を流してみろ。どちらからでもいいから魔力を俺を通して一周させるんだ」
「ふむ、やったことないけどこうかな……?」
シオンは自分の中の魔力を取り出して片手から少しずつ流すようなイメージでクリスへと送る。少しずつ流すイメージであったのだが、やはり加減がうまくいかず一気に大量の魔力を流してしまった。
「あ」
まずいと思えどシオンにはそれをコントロールする術がない。瞬時にクリスはその光の魔力でシオンの魔力を相殺し、事なきを得る。
「阿呆かっ!そんなに大量に流したら人によっては昏倒するぞ!まったく、俺だったからよかったようなものを……いや、だからこそやったことがなかったのか?とにかくお前が制御が苦手な理由は大体わかった」
「えーっと?」
「つまりだ。お前がこれをやったことがなかったのはお前が魔力を暴走させてもそれを止めることが出来る人間がいなかったからだろう。そして今お前がやったのはわざわざ水道から流れ出る水をバケツに汲んで、それから小さな器に水を流しているようなものだな」
シオンは自分が今までこの小さな子供がやるようなものだという魔力の認知の練習とやらを受けた記憶がないのはそういうことなのかと納得する。しかし水道云々の例えはよくわからなかった。クリスはそれをシオンが理解できていないのはお見通しのようだった。
「つまりだ、魔力を自分の物じゃなくてまるで借りてきた魔力を使っているような面倒な事をしているんだ」
「あー、そういわれればそうかもしれない」
「……はぁ。魔力の感知は出来るんだから俺の流す魔力の流れを感じてみろ」
クリスがそう言うと、シオンの右手からじわりと暖かいものが流れてきた。それはクリスの魔力でありその暖かさは心地よく、シオンが流した時とは大違いだった。目を閉じその暖かな流れに集中すると、それはクリスの中で緩やかに渦を巻くように留まりながら少しずつシオンへと流されている。それはとても自然な流れだった。
「どうだ?」
「なんとなくわかったけど、自分が出来るかどうかはわからない」
「とにかくやってみるしかないだろう」
シオンはクリスに促され先ほどのクリスの魔力の流れをイメージして自身の魔力を流しだす。
しかしイメージしたからといってすぐその通りに出来るほどシオンは器用ではなく、案の定見事に失敗した。
「おいコラ。今の一点突破といわんばかりの凄まじい勢いの放出は何だ」
「クリスみたいに少しづつ流そうと思って。うまく魔力が留まらなくてちょっと押し込める形になっちゃったけど」
うまく魔力を留められなかったシオンは魔力を一箇所に固めようとイメージしてその膨大な魔力を無理やり押さえ込んだ。そこに小さな穴を開けるイメージで魔力を流そうとしたのだが、それはまさに水風船状態となり開けた穴から勢いよく魔力が流れ出したのだ。押さえ込まれた魔力の流れ出る勢いは凄まじく、押さえ込む様子を感じ取っていたクリスは反射的に自分の魔力を放出させて相殺した。
「こんな訓練でも下手すれば魔力に呑まれて大変な事になるんだぞ。お前は俺を昏倒させたいのか?」
「最近クリスの言葉遣いが王子様らしくない……」
恨めしそうにクリスを見上げる形でシオンは呻いた。その姿に少々怯んだクリスだったが次の瞬間には吹っ切れたような表情になり、ごつんとシオンの頭にゲンコツを落とした。
「間違いなくシオン、お前が原因だ」
シオンがちらりと周りを見れば、遠巻きにクラスメイトたちが首を上下に振り頷いている姿。もちろんランスとユージンの姿もその中にあった。




