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23 確信 (クリス視点)

 転機は王立魔術学園に入学した時に訪れた。

 新入生の中に黒髪がいたのだ。入学するには素質以外に男であることが絶対条件なので彼女であることはない。だがこの世界には珍しい黒髪の彼はもしかしたら血縁者であるかもしれない。


 淡い期待を抱いた俺はすぐに外出許可を取って城へと戻り、彼「シオン=ファシール」について父に尋ねた。

 ファシール現当主といえば父の学生時代からの親友で、やはり父は何か隠していると確信していた。


「ふむ、ファシール家に娘がいるかだと?」

「はい、学園でファシール家の息子であるシオンとペアを組む事になりましたが彼はこの世界においては珍しい黒髪。以前父上に尋ねたことのある黒髪の少女がファシール公爵家の令嬢ではないかと思っております。ファシール家当主と友人である父上であればご存知かと」

「ほう、シオンとか」


父 の目がすっと細められ、次いでその口角は持ち上がり笑みの形となった。そして少し考えるようで静寂が場を支配する。その間俺はただじっと父の言葉の続きを待つ。


「うむ、次男と長女の双子の兄妹がいる。しかし妹のほうは長男以上に病弱で長期にわたり郊外にて療養していると聞いている。しかしまだその黒髪の少女を探していたとは……お前も存外にしつこい男だな」

「せめて一途だと仰ってください。それに俺は自分の世界の狭さに気づかせてくれた彼女にお礼が言いたいだけです」

「ははは、わかっているさ」


 珍しく声を上げて笑う父は今この時は王ではなく父として俺に接してくれているのだとわかる。彼女に出会う前の俺ならばこれも失笑されたと思い込んでいただろう。俺が今の俺であるのは全て彼女のおかげなのだ。

 それは決して大げさだとは思わない。あれから俺は多くのものを得る事ができたのだから。


「さぁ、そろそろ学園に戻らないとまずいんじゃないのか?俺もまだ公務が残っているからな」

「はい、お時間をいただきありがとうございました」

「息子との会話は楽しいものだよ。またたまには顔をだせ」

「はい」


 その後父は執務室に戻りファシール家に伝達を送っていたのだが、残念ながらすぐに学園に戻った俺がその事に気づく事はなかった。



 学園に戻った俺はつい本人に双子の妹がいるかと確認してしまった。父の言葉を疑うわけではなかったのだが、何かを隠しているのは間違いなくつい彼女が心配になってしまったのだ。

 シオンの返答は父に聞いた事と同じ内容で、尋ねた理由につい苦しい言い訳をしてしまったがそれを追求される事はなかったのが俺にとっては救いとなった。


 双子の妹がいると知ってからシオンに彼女の面影が重なるようになった。

 父の言うとおり俺は自分で思っていた以上にしつこい性質だったらしい。


 本格的にそれに気づかされたの学園に入学して初めての武術演習の時だ。

 突如目の前に現れた合成獣キメラ

 合成獣キメラの研究・実験は法により禁止されている。それは命を弄ぶものだからだ当然といえる。これは父に報告して調査をしてもらう必要があるだろう。しかしまずは目の前の合成獣キメラにどう対処するかが問題だった。すでにあちらはこちらを睨みつけて臨戦態勢となっていたのだ。


 聞けばシオンには実戦経験がないという。しかしそれは予想の範囲内。むしろ騎士の名門のフィッツジェラルド家の長男で幼馴染で親友のユージン。そして名の知れたトレジャーハンターの家系のランスがいる。それは幸運ともいえるほど戦力に恵まれていたのだ。


 ユージンの実力は一緒に鍛錬していたこともあり嫌というほど思い知らされている。そしてランスはまったく慌てることなく冷静にシオンの傍らで小石を集めていた。トレジャーハンターは臨機応変の対応に優れているからこそ出来る職だ。すでに実戦経験のあるランスの実力を心配する必要はないだろう。


 本当は彼女の面影が重なるシオンを俺が守りたい気持ちもあったがそうも言っていられない。

 俺とユージンははうまく連携をとりつつ合成獣キメラに攻撃を加えていった。ランスも絶妙といえるタイミングで敵を牽制する。

 あまりにもうまくいき過ぎて油断が生まれたのだろう。


 倒したと思った合成獣キメラが起き上がり、ブレスを吐いた。

 完全に油断していた俺達はシオンの叫び声で合成獣キメラに振り返る事しかできずにあっという間に真っ赤な炎に包まれる、はずだった。


 振り返る俺達の後ろから真っ黒な霧が押し寄せて合成獣キメラごと俺達を包み込む。その黒い霧がブレスを打ち消し、俺達を炎から守ってくれたのだ。

 合成獣キメラは最後の力を振り絞ってブレスを吐いたようで、霧が消えた時にはのんびりとした様子で枝を握る教官とその足元に真っ二つに両断された合成獣キメラがあった。すぐに合成獣キメラは黒い霧となって霧散し、その場には割れた核だけが残された。

 枝で合成獣キメラを、しかもその核を的確に真っ二つにするとはとんでもない教官だ。


 直後にシオンが倒れたときは一瞬息が詰まった。

 心配はないと言われつつも校医に見せるために学園に戻る道筋で、シオンを抱きかかえるユージンに少々嫉妬した。俺の目にはユージンが彼女を抱いているように見え、自分は本当に重症なのだと思い知らされる。


 シオンたち双子は揃って俺の恩人となった。



 美化された感謝の思いはいつ変化したのだろう。


 学園に戻ったシオンが酒に酔ったり熱を出したりして早く帰寮することになった。

 眠ったままのシオンを連れ寮に戻ると寮長が外で待っていた。

 すっかり部屋の鍵のことを失念していた俺達は彼にお礼を言ってシオンの部屋へと入り、偶然ランスが写真を見つけた。


 思わずランスから写真を奪い取るように取り、俺は写真を見つめる。

 写真に写るのは幼い男の子と女の子、その両親と思われる人物が写っていた。少年は明るい茶色の髪に緑の瞳、少女は黒髪に黒い瞳。少年は恐らくシオンの兄、少女が双子の妹だろう。

 すこしはにかんだように微笑むその少女の姿は、思い出にある彼女そのものだった。


 どくりと心臓が跳ねる。

 とうとう俺は、長年思い続けた彼女を見つけたのだ。そしてそれと同時に感謝とは違う思いが自分の内にあることに気づいた。

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