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13 友人

「えっと、おはよう。ユージン君」

「おはよう。名前は呼び捨てでかまわない。こちらもそうさせてもらう」

「わかった、同席させてくれてありがとう。エミリオ、ユージン」


 シオンはエミリオの連れがユージンだった事には驚いたが、それよりも目先の問題である朝食を済ませることにした。

 この食堂はカウンターでその日のメニューから好きなものを好きなだけ自分で注文して受け取り、自分で席まで運ぶというセルフサービス形式だ。もちろん食べ終えた後の食器も自分で返却口へと返す決まりである。

 シオンとランスが食事を手に戻ったときにはユージンとエミリオはすでに食事のほとんどを終えていたが、そのままその場に留まり会話を楽しんでいるようだった。


「僕はユージン様の家に仕える使用人の息子なんですよー」

「へぇ、色々と大変なんじゃないか?」

「いえいえ、ご当主様もユージン様もみんなよくしてくださっていて・・・」


 さっさと朝食を終えたランスはエミリオと世間話で盛り上がっている。シオンはユージンの視線を感じつつも黙々と朝食を食べ続けた。


「シオンの食べる量が気になるのか?」

「……よく入るな」

「俺も最初は驚いたもんだよ。こんなに細っこいクセに二・三人前は軽く食べちまうからなぁ」


 それまでエミリオと会話していたランスがユージンの視線に気づき、話しかける。


「コレぐらい普通だよ」


 ちらりと視線だけ上げて講義するシオンに、三人は揃って視線を逸らせた。

 シオンはそんな三人の態度に納得のいかないものがあったが、今は目の前の朝食に集中する。すでに時間は迫っていたのだから。


「クラスのヤツラがひどいんですよ。お前女じゃないかって僕の服をひっぱったり!」

「それは大変だな」

「ええ!まぁそんなことしてきたヤツラは全員沈めてやりましたけど!!」

「本当に沈めてたな」

「そういえば騎士クラスの生徒の何人かが池に落ちたとかいう噂があったけど……」

「事実ですね」


 女に間違われる男というのも大変そうだなと妙な親近感を覚えつつ、そんな様子は見せずにシオンは朝食を食べ続ける。

 確かにエミリオはとても可愛らしいので皆がちょっかいをかけたくなるのも仕方がないのかもしれない。

 しかし先ほどランスを押し倒した(?)ことからもその実力が高いことは間違いないだろう。それほど筋肉がない自分も騎士を目指せるんじゃないか、と淡い希望を抱いたシオンだった。


「さて、もう時間だな。戻るぞ、エミリオ」

「あ、はい。それでは失礼しますね」

「またな」

「……(ごっくん)二人とも、席ありがとう」


 ランスが軽く手を上げて二人を見送り、未だ食べ続けていたシオンは慌てて食べていたものを喉の奥へと押し込んで二人へと声をかける。

 すでにシオンの胃袋には三人分の量の朝食が詰め込まれていた。


「ほら、俺たちもそろそろ戻らないと」

「(もぐもぐ)もうちょっと食べたかったんだけど……しかたないか」

「もう十分だろ……」

「ん、足りない分はお昼に食べる」


 何故かがっくりと肩を落とし溜息をつく友人を尻目に、シオンは食器を片付けるために立ち上がった。



 その以来、ユージンとエミリオとは一緒に食事をとったり、会話を交わしたりとランスほどではないが仲のよい友人となった。

 エミリオは騎士クラスなので食事以外ではなかなか会う機会はなかったが、同じ魔術師クラスであるユージンとは会話をする機会も多くなった。


「ユージンの家って騎士の家系なんだっけ」

「そうだ」

「エミリオはお父さんがユージンの家で執事をしているんだっけ」

「ああ」

「なんでユージンは魔術師クラスでエミリオは騎士クラス?」


 今は昼の休憩時間でシオンとユージンの二人で学園の中庭にあるテラスでお茶を飲んでいた。

 ランスは用事があるとかで先生に呼び出されていてこの場にはおらず、エミリオは騎士クラスの外実習でやはりこの場にはいなかった。

 シオンの問いにユージンは読んでいた本をぱたんと閉じてシオンに視線を移す。


「あいつは俺が学園に入学するのなら自分も入学するといって一般で受験した。子供の頃から俺と一緒に鍛錬は積んでいたから問題なく合格したみたいだな」

「へぇ、すごいなぁエミリオ」

「俺は魔力があったから魔術師クラスを選んだだけだ。騎士の鍛錬なら家でも十分できるし師もいるからな」

「つまりユージンってちょーえりーとさんなんだね……」

「人より努力した結果だ」


 ちらりとユージンが手にする本を見れば、それは中級の魔道書。それはユージンが日々努力しているのが本当だと物語る物だ。


「俺は魔術の知識だけなら詰め込んであるけど、実技はさっぱりダメだしなぁ」

「実技は実践して覚えるしかないだろうな」

「やっぱり騎士クラスに入りたかった……体を動かす鍛錬のほうが好きなんだよね」


 シオンが騎士クラスに入らなかった理由。

 それはファシール公爵家が魔術の名門だからだという理由ではない。実際体面だけならばこの学園に入学することが重要であって、どちらのクラスに入ったかなどはさほど重要ではない。

 確かにその後のことを考えるならばそれなりに重要であろうが、人とのつながりのコネなどもファシール公爵家には必要でない。むしろそのつながりを欲しがられるほうの立場だ。

 ならば何故シオンは魔術師クラスに入ったのか。


 理由は単純。

 さらなる娘の息子化を防ぐために、アロルドが泣いて頼んだからである。

 しかしその娘の口調が中性的なものから男性寄りになってきている事実にはまだ気づいていない。

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