12 朝食
学園生活五日目。
シオンは何の問題もなく学園生活を送っていた。
(紫苑の時から自覚はあったけど……)
シオンは自室の鏡に映った己の姿をまじまじと眺める。
男装をしているといっても男物の服を着ている以外は、一人称を俺にしたというだけだというのに。
悲しいことにサラシを巻いたりとした努力もしていない。さすがに多少厚手のベストは着込んでいるが。一度たりとも性別を疑われたこともなく、女っぽいなどということを言われたことすらない。
(何もしなくとも男に見えるってどうなんだ……絶壁か!絶壁だということかッ!?)
それはもう清々しいとまでいえるほどに、幼少時から男だと間違われつづけていた。
小学生になる頃には、すでに性別を訂正する気さえ起きなくなっていた。
そういえばラブレターももらったな、と思い出す。もちろん女の子からだったが。そしていつも隣には自分よりずっと大量のラブレターをもらっていた幼馴染がいた。
ふと幼馴染と同じ色をもつクラスメイトが脳裏をかすめる。
色だけでなく容姿もそっくりだったのだが、名前と顔つきが違っていた。さすがにファミリーネームは違ったが、紫苑はシオンと同じ響きの名前、容姿は紫苑と寸分の違いもない。
もしかしたら幼馴染もこの世界に転生しているのかと都合のよい事を考えなかったといえば嘘になる。それほどに容姿はそっくりだった。
シオンにもさすがにそれは都合のよすぎる妄想だという自覚があったのでその考えを振り払う。
(ユージン=フィッツジェラルド、か)
自己紹介の為に壇上へと歩み出たユージンは、幼馴染のふんわりとした笑顔とは対照的に、意志の強そうな視線が印象的で少々きつそうなイメージさえ受けた。
確か家が有名な騎士の家系で、彼はその家の長男なのだとランスが言っていた気がする。
騎士の家系なのに魔術師クラスにいる理由はわからないが、その体つきから相当鍛えているということも窺い知れた。
幼馴染ではないにしろ、騎士志望なシオンは一度彼と話をしてみたいと思う。主にどうすればあんな引き締まった体になるのかについてなど。
筋肉がつきにくい体質のシオンからするとうらやましい限りだった。
ドンドンと扉を叩く音で我に返る。
「おーいシオン、早くしないと飯食いっぱぐれるぞー」
「悪い、すぐ行く!」
呼びにきたのはすっかり仲のよい友人となったランスだ。
時計を見れば、すでに朝食の開始時間を少し過ぎたところだった。
騎士クラスの生徒たちはよく食べる。朝食の開始時間から終了の時間まで食べ続けるような生徒も多数いる。魔術師クラスは食が細い生徒が多くさっさと食べて終わるのだが。
魔術師クラスに比べ約二倍の人数の生徒が騎士クラスにいて、それがシオンたち一年だけでなく三年生までいるのだ。
いくら用意される食事の量に余裕があっても、席数に余裕がなければ食いっぱぐれる生徒がでてくる。そのため魔術師クラスの生徒は騎士クラスの生徒より先に食事を済ませるという暗黙の了解があった。
「悪い……俺が遅かったから」
「ん、いいって。俺も好きで待ってたんだしな。でもさすがにのんびり待っていると遅刻しちまうし、どっか相席でも頼んでみるか」
「うん……」
食堂はすでに生徒で溢れていて空いている席が見当たらなかった。
シオンは自分は自業自得なので仕方がないが、ランスが自分につき合って遅刻してしまうのには気が引ける。シオンが相席のお願いができる相手がいないかと視線を彷徨わせていると、後ろから声をかけられた。
「お困りなら僕たちのところにご一緒しませんか?」
願ってもいない提案にシオンがぱっと振り返ると、そこには金髪碧眼の可愛らしい生き物がいた。
日本の平均的な女性の身長よりすこし高いぐらいのシオンより十センチほど低い。
ふわふわの金髪に大きくぱっちりとした碧い瞳。
騎士クラスの制服を着てはいるが、その容姿はどう見ても……
「女の子?」
「貴様の目は節穴ですね、コンチクショウ」
ぽつり、と呟いたランスの頭を、可愛らしい生き物が片手で床に押し付けていた。
「ランス、彼は立派な男性だよ。そもそもこの学園に女の子がいるわけないだろう」
「……スミマセン」
「わかっていただければいいんです。ではこちらへどうぞ。お二人とも席がないのでしょう?」
「助かります」
シオンは自分の事は棚に上げランスを諭す。
それを満足そうに頷いていた可愛らしい生き物の彼、エミリオに案内されて彼の席へと向かう。
そこにはエミリオの連れの姿があり、それはシオンたちも知っている人物だった。




