11 同志
壇上で祝辞を述べるセルジオ王は威厳に満ちていた。
しかしその言葉は堅苦しいだけのもではなく、聴く者を魅了する。ただ一人、アロルドを除いてではあったが。
(あのアフォ王め……普段なら祝辞どころか参加すら渋っているくせに今回はやたらご機嫌だな)
決して人様に聞かせることのできない台詞を心の中で毒づく。
そう、セルジオ王はうまく隠してはいたが、その心中はとてもご機嫌な状態であった。そして祝辞を述べ終わった王は満足そうに、その場を後にする。
そのまま式典はつつがなく終了し、新入生はその場に残され今後の予定の説明を受けた。
その後騎士クラスと魔術師クラスとに別れ、さらに詳しい説明を受ける為校舎へと移動することとなった。
(魔術師クラスは十人か……)
魔術師クラスはそれなりの魔力を有していないと入ることができない。
そして魔力は生まれ持つ才能であって、その魔力量は本人の努力でどうにかなるというものでもない。才能だけでなく本人の努力も重要な騎士クラスに比べれば人数が少ないのは当然ともいえるだろう。
(できるものなら騎士(あっち)のクラスに移動したいものだけど……無理かなぁ)
シオンはそんなことをぼんやりと思いつつ、魔術師クラスの校舎へと誘導されていった。
「それでは担当の教官が来るまでしばらく待っていてください」
新入生を教室まで案内してきた上級生は、そう言って教室を後にした。
改めて教室を見渡せば、ふと視界に懐かしい色が映る。
(涅色(くりいろ)の髪……)
それは昔、祖母が教えてくれた色だった。
大好きだった幼馴染の髪と瞳の色。その本人は好きではなかったようだけれど。
染めている人とは違うその色がシオンは好きだった。なんとなく自分の前髪をつまんで眺めていると、ぽんぽんと肩を叩かれた。
「ん、何?」
振り返れば、そこにいたのは人懐こそうな笑顔の赤毛の青年。
「はじめまして。俺はランスロットっていうんだ。君は?」
「シオンです」
「これからよろしくな、シオン」
「こちらこそよろしく、ランスロットさん」
「ランスでいいよ。同期なんだし、さんづけされるのも慣れてないからなぁ」
「……わかった。よろしく、ランス」
握手を求めて差し出されたランスの手を握ると、その手は少しゴツゴツしていて魔術師の手というには違和感があった。
シオンはランスの手首をひょいと掴んで手のひらを返して眺める。そこにあったのは明らかに剣ダコであった。
「……これって剣を握っている手だよね」
「どちらかというと騎士志望だったりする。でも家の都合でこっちのクラスなんだ」
ひらひらと手をふりランスは答える。
「同志!」
「シオン、お前細っこいのに騎士志望なのか……」
がっつりと組みなおされた手をながめつつ、ランスがつぶやく。
「魔法騎士とか」
「俺も人のこといえた義理じゃないけど……器用貧乏にならないようにな」
魔術を使うには集中が必要で、剣などで戦いながらその集中を保つことは至難の技である。
相当な魔術の熟練が必要となり、そこまでの力をつける者が同時に剣技を磨くことはあまりない。
さらに魔術を極めようとはしても、同時に剣技を磨こうという物好きはほぼ皆無だ。
「でもそれがロマンってやつだから」
「まぁ夢を持つことは自由だな」
そして教官が教室へと入ってきたので話はそこで中断し、二人はあわてて前を向き姿勢を正した。
学園最初の講義は自己紹介から始まった。
このあたりはどの世界でもあまり変わらないようだ。
シオンは少しの期待を胸に、自己紹介をしていくクラスメイトたちを見る。一人、自己紹介をしたときにやたら周りがざわついた生徒がいたが、興味がなかったので気に留めなかった。
(それよりも彼……)
シオンの視線の先には先ほど見つけた懐かしい色。
彼が座っているのはシオンより前の席なのでその顔や表情を窺い知ることはできていない。
(まさか……ね)
少しとはいえ期待してしまうのは仕方のないことだとシオンは思う。
それは期待というよりは願望に近かった。
そして自己紹介は彼の順番となり、彼は席を立ち前へと歩み出た。