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フェイクムーン ー偽りの楽園ー  作者: 幻燈 カガリ
第 3 章 黒き檻

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45/49

❨ Act. Ⅹ






 ヤコブの頭を呑み込んだビーストは、次なる獲物を求め前へと這い出した。人間を喰らった恩恵か、身体がまた大きく成長したようだ。

 ビーストは、更に建物を破壊し続ける。そのせいで、土埃が上がる。


「知能指数は低そうやな、あのデカブツ」


 隣に立つホムラは淡々と語った。こちらへと迫るビーストの前にゼフィールは一歩前へと出た。


 ゼフィールは両刀斧をビーストへ向け構え、相対した。ビーストは次の獲物を眼前とし、興奮したのか身体をぷるっと震わせ、蒸気を吹き上げた。


「ここは任せろ。ホムラはウィルを見つけ出してくれ」


 大きい背中を前にしてホムラは小さく息を吐くと、刀を納めた。


「こんな、きっしょいの御免だったから、助かったわ」


 飄々と話すと、ホムラは背を向けた。数歩進み、立ち止まる。肩越しでゼフィールの背に言葉を投げかけた。


「囚われのお姫さま、ならぬ───王子さま。救ってくるわ」



 こちらを向いてはいないと分かっていながらも、ホムラは片手を軽く上げ、ひらひらと振った。教会内へ向かおうとした、────その刹那。


「ホムラ」


 ゼフィールが短く名を呼んだ。その声に応えるように、またホムラは足を留めた。顔をゼフィールへと向けた。

 ゼフィールも少しホムラへと顔を向ける。


「……ん?なんや?」


「─────頼んだぞ」


 見えたゼフィールの横顔は静かで頼もしい、強者の目をしていた。

 それだけ伝えると、ゼフィールはビーストへと向かって行った。


「分かってるって。兄サンも負けへんと思うけど……やり過ぎ注意やで」


 そう小さく呟くとホムラは教会の内部へと地を蹴った。







 目前にいる茶褐色のビーストへゼフィールは両刀斧を振り上げた。粉々にしてやろうと、一太刀、叩き込む。


 重さを利用し、力任せに振り下ろす。両刀斧の刃がビーストの粘着体へと吸い込まれるように両断された。


「ウギョオオオオオ────ッ!」


 鼓膜を突き破る叫び声が教会内へと放たれた。その断末魔が、建物を激しく揺らす。


 ドゴォ────ン。


 ゼフィールの背後に外壁が落下し、破片が飛び散る。飛んだ破片がビーストへと食い込むと、湯気を上げ溶かし始めた。


 大地へと刺さった両刀斧を引き抜く。それに従うようにビーストの身体が空に飛散した。


 両断されたふたつの身体が互いに呼び合い、再び混ざり合う。


「……厄介だな。俺と相性は良くなさそうだ」


 今回は手こずりそうだと、察知したゼフィールはふっと口端を上げた。

 両刀斧の柄を強く握り直し、瞼を伏せる。

 大きく息を吸う。


 腹の底から湧き上がる力を腕から手に、手から両刀斧へと注ぐ。


 両刀斧が共鳴するかのように鼓動を始める。


 ……ドクッ、


 ────ドクンッ!!


 まるで生きているかのように強く脈打ち始めた。



「久しぶりに暴れるか、相棒?」


 片眉を上げ、両刀斧に声を掛けた。その声に呼応するかのようにキィ──ンと甲高い音が高鳴った。


 それが合図だった。


 ゼフィールの纏う空気が、鎮まり、風が逆へと吹く。

 髪が舞い上がる。


 両刀斧が眩い蒼白の光に包まれた。


 そして、厳かに神妙に口から発する。


「神名解放───地天煌斧ジオリュクス!!」



 封印を解かれた地天煌斧は光を帯びた。目映い聖なる光に眼のないビーストも身体を縮こませた。


「久々だな、この力を解放するのは。───派手に行くか、相棒!!」


 地天煌斧を片手で振り上げる。まだ怯むビーストに、斬撃を入れた。手応えは軽い。

 だが、先程と違い、粘着体は飛び散りことは無かった。


「イギャアア!?!」


 攻撃が入る度に、口もないビーストは叫び声を上げる。

 感情のないビーストの叫びが妙に胸へと突き刺さった。閉ざされた左眼が微かに疼いた。


 左眼を指先で触れようとするが、横槍が入った。反撃だというように、ビーストが形を変え始めた。

 鋭く細く姿に変化したビーストは、重遅い動きから一変させた。

 鋭利に尖らせた身体をゼフィールへと向け、矢の如く射た。


 それをゼフィールは地天煌斧の刃で受け止める。一が双方向へゼフィールを中心に切り分かれていく。


「ウぎゃああああ?!!」


「いちいち、ほざくな!!」


 地天煌斧を両手で抑え込む。

 ビーストの一方的な攻撃を利用し、グゴォ──!!と音を出し、湯気を上げながら裂けていく。

 ビーストの異様な熱と鼻が曲がりそうな香りがゼフィールを襲う。


 熱いじわりとした刺激。

 時たま顔へと掛かるビーストの体液が頬を掠めた。


「このままじゃ……ッ、埒が明かない、な」


 全力で、ぶつかるビーストにゼフィールの腕がビクビクと震え出す。


 ────その瞬間、下半身に燃え上がる熱を感じた。



「くッ、……ヤりやがったな」




 ───そうだ。

 こうじゃなきゃ、つまらない。




 思わず、顔がニヤけた。



 触手となり両足に絡みついた粘着体を蹴り上げ、茶褐色が爆ぜ上がる。

 赤くヒリつく両足が月神の加護により、ひと呼吸もすれば癒えていく。だが、ムーンライトの証である聖衣が無惨にも溶けた。


「クローゼンの苦顔が、目に浮かぶな」


 地天煌斧を持つ指先に更に力を込めた。上半身を前に出し、足の指で地を踏み付ける。


 一歩。

 一歩と足を突き出す。



 地天煌斧を軸にし、左へ薙ぎ払う。ビーストは二股の左腕が斬り落とされると轟音とともに地面に叩き付けられた。


 ズド───ン。


「ぐぎゃぁぁぁあああ!」


 斬り取られた左腕が合流しようと這いずる。



「そう急ぐな」


 唇を動かす。


「………応えろ、地天煌斧。


 ───────大地を引き裂け、


 断層ガイナス・双牙ティグニティッ!!」



 地天煌斧を地へと落とす。地に刃が突き刺さった。

 地鳴りとともに大地が震え、けたたましい轟音ともに地が大きく口を開けた。


 ビーストがその裂け目に身体が引き込まれた。

 裂け目の地層から尖鋭が突き出す。

 ビーストの身体を貫き、呑み込もうとする。


 だが、ビーストも愚かではなかった。

 触手を伸ばし、裂け目から這い上がろうとしている。


 触れた地面から湯気が沸き起きた。

 ゆっくりと大きい茶褐色の身体を、ブリンっと震わせながら、地へと舞い戻った。



「簡単には、行かないか」


 ゼフィールの口元が緩む。

 白い歯が顔を出す。


 地に突き刺した地天煌斧を片手で持ち上げ、肩へと担ぐ。


 ビーストはゼフィールを警戒し、間合いを取ろうと後ろへ後ろへと這い回る。


 ゼフィールはそれを許さない。


 ジリっ、───ジリっとビーストに肉迫する。



 恐れからか、ビーストは無数の鋭角の触手をゼフィールへと差し向けた。



 口端が吊り上がり、頬もつられて押し上がった。


 ゼフィールは肩に掛けた地天煌斧の柄を指腹で叩く。



 眼前へと迫る、鋭き茶褐。

 屈強な身体へと向かう尖鋭。


 ────ガシッ!


 五本の指先がキツく、柄を締め上げた。


 地天煌斧を紙のように操り、右に振り下ろし、左へ振り上げる。



 飛び舞う茶褐色。

 ゼフィールの顔、腕、足へと染み付いた。



「グキャアアアア──Д≡α"β──≡ДΝ”」



 ゼフィールの周りには、粘着体がばら撒かれた。


 小さくなったビースト身体の中に歪な形をした核が漂っている。


 あれほど騒ぎ喚いていたビーストの鳴き声も、この大きさになると、かの鳴き声のようだ。


 その核へと、足先を向ける。

 ゼフィールの身体はビーストの粘着体のせいで湯気をまとっていた。


 この空間に聞こえるは、ビーストの小さき叫びと荒い息遣い。



 肩が上下に動く。

 奮った腕で線が画かれる。



 足が止まった。




 弱ったビーストは、逃れようと身を翻す。



 ゼフィールは、高らかに振り上げる。






 ─────空を、割く。



 …………ガジュン。


 ガシッン。ガシッ。ガぐんっ。




 ゼフィールは何度も何度も振り落とした。




 獣のように口を開け、血走った眼球が剥き出る。



 空間が無音に淀む。


 理性を焼き切った、獣性の残光。

 ゼフィールの瞳孔が鋭利な鉤爪のように変わった。



 それは、もはや────



  人とは呼べぬ、





  ────モノだった。


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