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機械少女クロニクル 11

どうやら昨日、予約投稿を設定し忘れてしまっていたみたいです。すみませんでした!


 帰り道から少し逸れて市場に寄って、夕食分の食材を買って家に戻った。買い物はすべてマキナに委ねていたのだが、彼女の顔を見ると満足のいくものだったようだ。


 マキナは部屋に入るなり買ってきたものをてきぱきと仕分けて適切な場所にしまっていく。まるでこの家のことは全て知っていますとでもいうように。俺はダイニングから座ったままその様子を眺めていた。


「......手際がいいな。朝も同じことを思ったけど」


「あなたが寝ている間に隅々まで見ておいたのよ。暇があれば掃除もしたいんだけどね」


 彼女はキッチンの隅にうっすら積もっていたほこりを指でなぞった。


 マキナはささっと作業を終わらしてエプロンを着ると(彼女が市場で買っていた)、俺をダイニングから追い出して「出来たら呼ぶから、それまでは見ないでね」と言った。


 俺は昔話にこんなものがあったなと思いつつ、リビングのソファに腰を下ろした。ポケットの財布から鍵束を出して眺めていると、俺の意識はたちまち思考の海へと沈んでいった。


 考えるべきことは山のようにあった。キーネスじいさんのこと、鍵のこと、学院のこと、フェリスのこと、マキナのこと。そのすべてが複雑に絡まり合っていて、うまく考えはまとまらない。根本はつながっていても、四方八方に枝葉が広がっている。


 明日、キーネスじいさんの別の研究所に行ってみるべきだろう。彼が一番多く使っていたラボにいけば、何かしらの手がかりはあるかもしれない。


 俺とフェリスが幼少から勉強をするために通っていた場所でもあるし、もしじいさんが俺に何かを伝えようとしているとすれば、彼はその場所を使うだろう。


 そして、フェリスに俺を取り巻く事情の一切を説明するべきなのだろうか? もし話せば、彼女は快く協力してくれるかもしれない。でもそれは彼女の良心を利用しているのではないか?


 背後でマキナがテーブルに食器を並べている音が聞こえる。思っていたより長い時間考え込んでいたようだった。しばらくその音に耳を澄ませていると、「できたからもう見ていいわよ」と彼女が言った。


 振り返ると、テーブルにはいかにもきちんとしたという言葉が似合うような料理たちが並んでいた。朝に作ったような葉野菜のサラダに、ポテトがつけあわされた牛肉のステーキ。にんじんとじゃがいも、たまねぎ、牛肉を煮込んだスープが食欲をそそる香りをたてている。


「すごいな。俺が作るよりよっぽど美味しそうだ」


 彼女は鼻を鳴らし、胸を張って言った。


「当然よ。これでも当時の最新技術が詰まっているもの。これくらいのことはできるわ」


「本当に? 勝手に戦闘用の機体なのかと思っていた」


「冗談よ。もっとも、最終的には生活用の機能も付けて量産して、街中に『機械人形』を配備する計画だったそうだけどね」


 かなりハイセンスなジョークだ。少なくとも数千年前から生きていないと笑えない。


「......はあ。まったく、古の人類はどうやって『機械人形』なんか作ってたんだか」


「それはこれからおのずとわかるはずよ。そのためにキーネスの残した資料を探しているんでしょう?」


 俺はあいまいに頷いた。そして王都にマキナのような『機械人形』が溢れているところを想像してみた。しかしそれは先ほど見た王都の街並みとほとんど変わりはないように思えた。


 もしかしたら今日言葉を交わした屋台の店主だって、数千年前から生きる『機械人形』で、文明が崩壊したから仕方なくクレープを焼いているのかもしれない。


「冷めないうちに食べてしまいましょう?」と彼女は仕切り直すように言った。


 


 俺は手を合わせてスープを一口飲んだ。野菜のうまみが口の中に広がり、温かい液体が食道を伝っていくのが感じられた。マキナはその様子をじっと見つめていた。


 美味しい、と俺が言うと彼女は笑った。自身満々な口ぶりだったが、なんだかんだ出来は心配だったのだろう。もちろん、ほかの料理も文句のつけどころがないものだった。俺たちは言葉を交わすことなく料理を食べすすめた。しかしそれは居心地の悪い沈黙ではなかった。


 食事を済ませた俺は食器を洗って(マキナは自分がやると言い張ったが、さすがに立つ瀬がなくなってしまうので強引に押し切った)お風呂にお湯を張って、食後のコーヒーを飲みながらだらだらと本を読んで過ごしていた。


 誰が何と言おうと、俺にとっては一日を終わるために欠かせない時間だ。俺がソファでそうして横になっているあいだ、マキナは先に風呂に入っていた。しかし、今日はいつものように気持ちを落ち着かせることはできない。


 意識をしないようにしても、彼女のような美しい少女が同じ屋根の下で一糸まとわぬ姿になっているという事実は、彼女の姿が見えないにしても俺の純情をくすぐるのに十分だった。風呂場から聞こえる水音がいやになまめかしく感じて俺の鼓膜にこびりついてはなれない。


 そうして本の同じページを繰り返し読んでいると、リビングと廊下を仕切る扉がコンコンと叩かれた。マキナか? 別にわざわざリビングに入るのにノックなんてする必要はないのだが。


 俺はドアを引こうとして、


「ま、待って!」


 向こう側で彼女が慌てたように声を上げてドアを抑えた。


「なんだ? もう出たんじゃないのか?」


 そしておずおずと言った。


「あの……、申し訳ないんだけど、替えの下着を持ってき忘れちゃったの。あなたの部屋においてあるはずだから持ってきてくれないかしら……?」


 俺は痛むこめかみを右手で抑えた。どうやら男女でひとつ屋根の下に暮らすのは簡単なことではないようだ。


感想、評価、誤字報告など大変励みになります

3/10 20:00 12話 投稿予定です

よろしくお願いします。

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