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【高速家事スキル】を隠す少女は、食料難の孤児院を最強の料理で救う  作者: 紫陽花


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公爵邸の厨房

 公爵との話が終わり、リリアの無事を確認できた優菜は、ようやく心身の緊張から解放された。ライルとゲオルグはリリアを連れて子どもたちの部屋へ行き、優菜は公爵邸の広大な厨房へと案内された。


 優菜を案内したのは、長年公爵家を支える老練な料理長だった。厨房には、公爵家の料理人たちが数名、次の食事の準備を始めていた。


「優菜様。『名誉専属料理人』としての職務は公務ではありませんが、公爵様はあなたが子どもたちに振る舞う料理を、大変楽しみにされております」


 厨房はロンドの孤児院とは比べ物にならないほど清潔で、最新の調理器具と、見たこともない珍しい異世界の食材が並んでいた。優菜の献身によって得られたこの「安全で、好きな家事ができる環境」に、優菜は深く感動した。


 優菜は、公爵家の豪華さではなく、皆の労をねぎらうため、家族と団らんにふさわしい四品を作ることを決意した。優菜は厨房に並ぶ大量の食材の中から、新鮮な野菜、色鮮やかな海老、そして乳製品を選び取る。


「今日は、皆の疲れを癒し、心から満足してもらえるように、四品からなる皆で楽しめる料理を準備します」


 優菜は迷いなく手を動かし始めた。


 体に電流が走ったかのように、優菜の動きが常人の七倍速になった。その手に握られた包丁が、まな板の上で高速の残像を残す。


 ドォン、ドォン、ザッ、ザッ、カン!


 タマネギは驚異的な速度で極薄にスライスされ、異世界の硬い根菜や、ブロッコリーの房、新鮮な海老が、優菜の意思と喜びに応じ、一瞬にして完璧な形に切り分けられていく。調味料の瓶は、優菜の手の中で正確な分量だけ傾けられ、一切の無駄なく、流れるように鍋の中へ。火加減の調節、撹拌、味見、すべての作業が、公爵家の料理人たちが優菜が何をしているのかを追いつくことすらできないほどの速度で処理されていった。


 ベテランの料理人たちは、優菜のあまりの高速さに、呆然と立ち尽くすしかなかった。長年厨房に立つ料理長ですら、優菜の技術が『神の叡智』と呼ばれる所以を、目の当たりにしたのだった。



 優菜がメインの準備に集中していると、扉から静かにティナが入ってきた。


 ティナは優菜の隣に立ち、皿に盛りつけられ始めている食材を、真剣な眼差しで見つめていた。


「ユウナ、私も手伝えることはある?料理は苦手だけど下ごしらえぐらいは手伝えるわ!」


 優菜は(スキルを緩めながら)優しく笑った。


「ありがとう、ティナ。助かるわ。じゃあ、今日は卵と野菜のスープを作るから、卵を割って、よくかき混ぜるのをお願いできる?優しく、ふんわりとね」


「はい!」


 ティナの顔には、優菜の頼みを聞けたことへの誇らしさが浮かんだ。


 ティナは手を動かし始めたが、優菜の速さが常人には見えないレベルだったため、優菜が少し作業を止めると、静かに優菜の胸の内を慮るように話しかけた。


「ユウナが倒れてから、皆、すごく心配したよ。ユウナがまた独りで頑張りすぎちゃうんじゃないかって」


 ティナの言葉は、優菜の心に深く突き刺さった。ティナは、優菜の献身的な性質を一番理解していたのだ。


 優菜の目頭が熱くなる。


(前世の私は、誰にも頼れず、全てを背負い込んでいた。でも、ここでは違う。リリアも、ライルも、そしてこの子たちも、皆が私の幸せを願って支えてくれる...!)


「私が休んでいる間、ティナも大変だったでしょう?」


 ティナは首を横に振った。


「ううん。ライルさんやゲオルグさんが、私たちが皆で助け合うことが、ユウナ様への一番の恩返しだって教えてくれたの。だから、ユウナ。ここでは、全部一人でやろうとしないで。私たちがいるから」


 優菜は、ティナの言葉に涙腺が緩むのを感じた。


「ありがとう、ティナ。じゃあ、続きを一緒に作りましょう」


 二人は、王都の豪華な厨房で、協力して料理を完成させた。




 優菜とティナが協力して完成させたのは、以下の皆で楽しめる四品だった。


 メイン: プリプリの海老とブロッコリーを自家製マヨネーズとケチャップで和えた『ブロッコリーとエビのマヨ炒め』


 スープ: ふんわりとした卵と野菜の優しい味わいの**『卵と野菜のスープ』


 パン: 柔らかな『自家製パン』


 デザート: 濃厚でありながら口どけの優しい『チーズケーキ』



 厨房に広がる、優しくも香ばしい匂いは、公爵邸のベテラン料理人たちをも立ち止まらせた。


 公爵家の料理長は、その香り、そして優菜の隣で楽しそうに働くティナの姿を見て、静かに優菜に話しかけた。


「優菜様。あなたの作る料理には、人を安らかにする魔法がかけられているようだ。そして、あなたは独りではない。ここには、あなたを助けたいと願う者たちが、大勢いる」


 優菜は微笑み、料理長、そしてティナに感謝の言葉を伝えた。


 この日、優菜が作った料理は、公爵、ライル、ゲオルグ、リリア、そして全ての子どもたちの胃と心を満たし、王都での新しい生活の、温かい始まりとなった。優菜は、独りではない家事の喜びを噛み締めていた。

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