王都への旅立ちとチート料理の披露
優菜が王都へ行く決意を固めた翌朝、彼女は子どもたち全員を集めた。
「王都へ行くことになりました。でも、みんなはロンドの街に残って……」
優菜が言いかけると、子どもたちは一斉に不安そうな表情になった。
「優菜姉ちゃんが行っちゃうの?置いていかないで!」
「僕たちも王都が見たい!」
「優菜姉ちゃんがいないと、お店はどうなるの?」
その様子を見て、ライル、ゲオルグ、アレクは顔を見合わせた。王都は混乱しているが、裏を返せばロンドの街に残す方が危険だった。商会ギルド連合の残党や、優菜の技術を狙う輩は、王都の混乱に乗じて、手薄になったロンドの街を狙う可能性が高い。優菜を狙う者から見れば、子どもたちは人質としてこれ以上ない格好の餌になる。
「ユウナ、全員連れて行こう」
ライルが提案した。
「王都は混乱しているが、公爵家が保護の盾となる。なにより、あなたの傍に子どもたちがいる方が、彼らの安全を確保しやすい。我々が守る」
優菜は涙ぐみながら強く頷いた。
「ありがとう、ライルさん。みんな、一緒に行きましょう!」
子どもたちは歓声を上げた。こうして、優菜、ライル、ゲオルグ、アレク、そして子どもたちを乗せた馬車は、厳重な護衛のもと王都へ向かった。公爵家の手配により、馬車は普通の旅人には使えない公式の街道を走った。
道中、彼らを監視し、優菜の能力を試そうとする王都の使者や、貴族が立ち寄る館や宿場で、優菜は料理を振る舞う機会を与えられた。
最初の立ち寄り先は、宿場町の自治会長が管理する大きな宿だった。自治会長とその息子、そして公爵家の使者数名が優菜たちを出迎えたが、優菜の身なりや、ただの「料理人」という肩書きに、彼らは不信感を露わにした。
優菜は、宿場に用意されていた粗末な小麦と、旅の途中で乾燥させていた薬草の端材を使い、即席で硬いパンとシンプルな豆のスープを作った。それは、この世界の旅人にとってごく一般的な食事だった。
自治会長の息子が一口食べた瞬間、彼は驚きに目を見開いた。
「こ、これは!ただの豆のスープなのに、なぜこんなにも身体に染み渡る!?まるで、上級回復ポーションを飲んだみたいだ!」
そのスープとパンには、優菜が古代の知識を応用し、食材の持つ栄養価を最大限に引き出す高度な調理技術を駆使して作られていた。さらに、微量の疲労回復に効く薬草を絶妙なバランスで混ぜ込むことで、最高の栄養補助食としての効果を発揮していたのだ。公爵家の使者たちは、優菜が何でもない日常食を、美味しいだけではなく最高の栄養補助食に変えてしまう知恵と技術に、静かな戦慄を覚えた。
続いて一行が立ち寄ったのが、代々、長期保存食の流通を牛耳ってきたローウェン子爵の邸宅だった。子爵は、優菜が長期保存食を作るために必要としていたエーテル鉱石の違法取引に関わっていた一人だった。
子爵夫妻は、優菜を試すように、昼食に優菜の作る「携帯食料」を要求した。
優菜は、ロンドの街を出る際に作った長期保存用の干し肉を子爵夫妻に振る舞った。子爵は冷ややかな目でそれを口にしたが、次の瞬間、その顔は驚愕に染まった。
「な、なんだこれは…!干し肉のはずなのに、口の中で肉汁が弾ける!?まるで、ついさっき獲れたばかりのような、この新鮮な風味は!?」
子爵夫人が恐る恐る口にした保存用のドライフルーツも、普通のドライフルーツとは比べ物にならないほど、果物本来の酸味と甘味を保っていた。
優菜の料理は、単に「美味しい」というレベルを遥かに超えていた。それは、この世界の食材の常識、流通の常識、そして魔導院の定める保存技術の限界を根底から覆す、古代の知識の顕現だった。
「ユウナの料理は、エーテル鉱石がなくても、その理論の片鱗を見せつけている」ライルは、驚愕する子爵たちを見ながら確信した。「これで王都の貴族たちは、ユウナの技術が、もはや無視できない巨大な力だと理解したはずだ」
優菜の料理のチート級の噂は、王都へ到着する前に広がり、優菜の価値は想像を絶するほど高まっていた。しかし、その高まりは同時に、優菜を狙う者たちの殺意も集めていた。




