図書館の跡地
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ライルが動いた瞬間、入り口を守っていた二人のローブの男も反応した。彼らは手に持った複雑な魔力回路が刻まれた、黒く鈍い光を放つ円形の金属板を掲げた。それが魔力を吸い込むように鈍く光ると、辺りの魔力の澱みが急激に流れ込み、男たちの体が濃い影のようなオーラに包まれた。
「増幅器よ!」
リリアが叫ぶ。
「残滓の魔力を取り込み、自分たちの身体能力や魔術を強化している!気をつけて、ライル!」
男たちは驚くほどの速度でライルに襲いかかってきた。その動きは、一流冒険者に匹敵するほどだった。ライルは剣で攻撃を受け止めるが、相手の力が尋常ではないことに気づく。
「くそっ、この力は残滓の魔力か!」
ライルはあえて後方に飛び退き、剣に魔力を集中させた。光を纏った剣が二人の男を追いつめるが、彼らは増幅された魔力で防御壁を張り、攻撃を弾く。
このままでは、埒が明かない!一体、どれだけ魔力を吸い込んでいるんだ!?
「リリア!時間がない、奥へ行け!この魔力を放っておくと、遺跡全体が崩壊する!」
リリアは迷わず頷くと、ライルと敵の隙を縫って、図書館の奥深くへと走り込んだ。
ライルの剣と増幅された魔力の衝突は、図書館の入り口を激しい火花と魔力の爆発で満たした。瓦礫が飛び散り、天井の石造りの装飾が音を立てて崩れ落ちる。ライルは防御壁を強行突破するため、魔力を極限まで高め、剣に青白い光を纏わせた。
「一撃で終わらせる!」
ライルの渾身の一閃が男たちの防御壁を貫通し、黒ローブの男一人の胸元を浅く切り裂いた。男は苦悶の声を上げ、増幅器の光が乱れる。途端に男たちの動きが鈍くなる。その瞬間、ライルは勝利を確信し、間髪入れずに二度目の強烈な一撃を放った。狙いは増幅器を持つ男の腕。剣は鈍った敵の魔力防御を容易く砕き、男の腕を切り飛ばした。
増幅器を失った男は、力が急速に抜け、床に倒れ伏す。残った一人の男は動揺し、攻撃の手が止まった。
図書館の跡地は、崩れた書架と紙片の山だった。リリアは魔力反応を頼りに、最も古い書架の奥深くへと進んだ。遺跡の地下から、不気味な低周波の振動と、濃密な魔力の奔流が伝わってくる。
その魔力の中心に、リリアが探していた目的の古文書が安置されていた。古文書の隣には、異様な光沢を放つ巨大な増幅装置が据え付けられている。
リリアは急いで古文書を開いた。そこには、この学術都市の創始者によって書かれた、この世界の法則を根底から覆す内容が記されていた。
『異界の技術は、この世界の魔力とは異なる「理」に属する。その技術を安定して固定し、世界の法則を書き換えうる唯一の触媒は、特定の純度の「エーテル鉱石」が必要である。』
「エーテル鉱石…!」
リリアは愕然とした。彼女の先祖の文献にも記録されていた、古代の魔導院が禁忌とした幻の鉱物だ。
そして、そのエーテル鉱石が、増幅装置の中心に組み込まれていた。増幅装置は、地下から吸い上げた魔王残滓の力を、エーテル鉱石を通じて特定の場所、すなわち王都そのものに向けて放出するように調整されていたのだ。
「これよ!彼らが古文書を狙ったのは、このエーテル鉱石の特性と、増幅装置の正確な設計図を手に入れるためだったのよ!」
リリアは震える手で古文書のページをめくった。するとあるページで手が止まった。そこには、魔導理論とはかけ離れた、食料の保存と調理に関する詳細な図解が描かれていた。その中には、優菜からふるまわれた、この世界では見たことのない料理の完成図、そして長期保存が不可能とされた食材を、新鮮さを保ったまま保存する理論が記載されていた。
その図解の設計理論の根幹には、優菜のお守りと同じ古代の紋様が描かれていた。
リリアは背筋が凍りつくのを感じた。
「この知識は、ユウナが持つ『異界の起源』と繋がっている…!彼女の技術は、このエーテル鉱石を触媒とする古代の知識だったの?そして王都の巨大商会は、その鉱石を買い占めて、魔王残滓の力を王都に流し込もうとしている…!」
このままでは王都が魔力の暴走で大混乱に陥る。リリアは急いで増幅装置を停止させるための術式を組み始めた。しかし、その時、背後の闇から、新たなローブの影が現れた。それは、これまでで最も強く、そして殺意に満ちた魔力を放っていた。




