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砂漠の星 郵便飛行機乗り  作者: 降瀬さとる
第2章 動く人達編
66/136

石の部屋 ガーディアン

扉が開き切ると、そこには長い廊下があった。


照明が眩しい。一体どこにそんな照明が付いているのか? ぱっと見ではわからないが、確かに明るい。それは、ずっと暗い所を通って来たせいもあったかもしれないが、それでも昼間のような明るさだった。


廊下は天井も床も壁も、例の黒いツルツルした石でできている。そんな光景が、寸分の狂いもなく、ビシッとまっすぐに目の前に伸びている。


そして、その一番奥に大きな木製の扉。


外から見た感じでは、今開いた扉のすぐ内側、そこがもう部屋なのだろう思っていた。が、どうやら違ったらしい。

しかし、これではかなり空間を無駄にしているのではないだろうか? とミニスは思う。それとも、この廊下の左右の壁の向こう側も、ちゃんと部屋になっているのだろうか?


「なんにもないわね」


ミニスがそんなことを考えていると、キミが言った。

「……だな。キミさんのところの遺跡もこんな感じなのか?」

その反応にナーウッドが聞く。

「うーん……ちょっと違うけど…まぁ、似たような感じではあるわね」

「そうか」

二人は、そんな風にぽつりぽつりと話し合う。


「き、危険はないのよね?」

その会話に挟むようにミニスは聞いてみた。なにせ、先程のウルク王子の言葉が気になって仕方がなかったからだ。


自力で排除、とか。


一体何が出てくるというのか?


「わからないわ。見たところ、何もないみたいだけど……」

キミは前を見つめて言う。確かにそうなのだ。前にはただ石でできた廊下があるのみで、他には何もない。というか、溝もなければ、窪みも穴もないのだ。一見、何かが隠されているようではなさそうである。しかし……


「いや、油断は禁物だ。なんか嫌な感じがするぜ」


というナーウッドの言葉はこの場の三人の気持ちをストレートに代弁していた。


扉の前に佇む三人。

ウルク王子はもういないから聞くこともできない。しかも、詳しく教えてくれなかったということは、何か教えてはいけない規則や、制限などがあるのだろう。だから、ここは自分達で判断するしかない。そして、その判断は


「でも、ここまで来て引き返すなんてできないでしょ? なら、前に行くしかないわよ」


という以外にはなかった。


「そ、そうね……行くしかないわよね」

ミニスはキミの言うことに頷く。そうやって三人はようやく扉の内側へと足を進めた。

すると、扉から三歩ほど入った所で、ギーッと背後の扉が閉まり始める。


「あっ」


まぁ、そんなことになるのではないかと思っていたミニスだったが、思わず声を上げてしまった。キミとナーウッドもそんな扉の様子をじっと見つめる。


やがて、扉は完全に閉まった。

扉の内側にはレリーフは彫られていない。廊下と同じ、ただのツルツルした黒い石だ。


「……帰りもちゃんと開くわよね…?」

ミニスはそんな不安に駆られつつも、何も言わないキミとナーウッドに従い、歩を前に進める。そして、今まであまり考えて来なかったが、自分が何か自分の手に余るようなことに首を突っ込もうとしているのではないか?ということが、今更ながら急に頭をよぎった。


「でもダメよ、弱気になっちゃ。こんなことじゃ、またリー少尉に良い報告ができないじゃない」


と、ミニスが頭を振って思っていた、その時。


「待って!」


と、キミがミニスの行く手を制して言った。


それにミニスは反射的に、肩から釣っているサブマシンガンに手を掛ける。

その反応はさすがだった。

横を見るとナーウッドも、既に大型のオートマチックを手にしている。

その銃をどこかで見たことがあると思ったら、なんのことはない。それはカジがナーウッドに貸した銃だった。


「……来るわ」

一瞬、余計なことを考えたミニスだったが、キミのその言葉に


「来るって……どこから?」

と前を集中して見つめる。しかし、そこには何一つありはしなかった。あるのは奥の扉だけ。もしかしたら、あそこから何かが出てくるということか? そう思い、ミニスはサブマシンガンを奥の扉に向ける。と、


「……ん?」


そこでミニスも初めてそれに気がついた。


それは淡い黄色の光だった。


光は最初、この黒一色の廊下でも気がつけなかったほど淡く薄かった。

それが、だんだんと濃くなっていく。


そして、光が濃くなっていくのは、その丸い光がペタペタと寄り集まって来ているからだった。そう、それはちょうどあのウルク王子が石板の光の中から姿を現した時と同じように。

そんな光の塊が廊下の隅の方のあちこちにできていっている。


「キミさんよ。これはどういうことだかわかるか?」


ナーウッドは銃を構えながら聞いた。すると、キミは険しい顔をしながら


「転移装置よ…それがこの廊下にはあるみたい」


と言った。

「転移装置? なんだそれは?」

ナーウッドは興味深げに言う。


「物質を光の粒子に変えて、全く別の場所に送る装置のことよ。でも、私もそれ以上は詳しく知らないわ。実際に見るのも初めてだし……」


ナーウッドの素朴な疑問にキミはそう答えた。

どうやらキミはその装置自体の存在は知っているらしいが、原理などはわからないようだ。


「へぇ……よくわからないが、それはさっきのウルク王子が出てきたのと、同じやつか?」

「ううん、違うわ。あれは石の記憶をただ映像化しただけだもの。今度のは物質よ。手で触れられる本物の何かが、別の場所から、ここに送られてくるみたい…」


キミはそう言った。それにミニスが冷や汗を掻きながら

「ほ、本物って……じゃあ…」

と言いかけると、ナーウッドが言葉を継ぎ

「ああ。こうしちゃいられない。何が来るかは知らないが、もし危険な物なら……」


「来る前に突破だ!」


と言う。


その言葉に二人も

「うん!」

「ええ!」

と頷く。そして、三人は矢のように走り出した。


見ると、その三人の行動を予測したかのごとく、光の集まるスピードも早くなってきている。だが、廊下はまだまだ長い。とにかく、今は走るしかない。


「……やっぱりね」


キミは光を見て呟く。

その光達は下から積み上がるように、だんだん形を成していっていた。そして、その形は紛れもなく人の足。だが、色は一色。薄い灰色で、まるで石のように見えた。


タタタタッ!タタタタタタッ!


その出現した足に向かい、ミニスは弾丸を叩き込む。が、それは光を通過して、廊下の黒い石に当たる。石に当たった弾丸は粉々に砕け散った。対して、廊下の石は傷一つついていない。


「…なっ」

驚くミニス。それにキミは

「無駄よっ。転移が完全に終わらない限り、あれには当たらないわ」

と走りながら言う。そして、ナーウッドは

「この黒い石…やっぱりこれもオリハルコンなのか?」

とそれを見て、別のことをキミに聞いた。その質問にキミは首を横に振る。

「違うわ。これはきっと、もっと優れた物質……あっ!」

「ん?」


キミは話すのを止め、前方を指差す。

見るとそこには、完全に転送を終えようとしている個体がいた。

個体。そうとしか言いようがない。


それは、やはり石でできた人形だったのだ。

その個体は男。簡易な鎧を着、口髭を生やし、手には剣を持っている。そんなものが、三人の前方に今や完全にその姿を現したのだった。そして、それはあろうことに鋭い眼光を放ちながら、動いたのである。

動く人型の石像だ。


「なっ!」

ミニスが声を出すのと同時に、ナーウッドの方は素早い判断で、もう攻撃に移っていた。


バスンッ!バスンッ!バスンッ!


ナーウッドの射撃が正確に石像の頭、腕、胸を打ち抜く。そして、頭を砕かれたせいか、どこを砕かれたせいかはわからなかったが、石像は力なくその場に倒れこみ無力化された。大丈夫。銃は通じるようだ。そのことにミニスは少しほっとする。ナーウッドもそれには


「よかった……どうやらただの石のようだな」

とほっとしている様子だ。

「ええ。オリハルコンみたいなものが、そこら中にゴロゴロしていても困るもの。でも、まだ油断はできないわ」

キミは言う。

確かにそうだ。まだ油断はできない。


ミニスが後ろを振り返ると、次々と石像が出来上がってきていた。そいつらは、姿形は似通っているものの、背も顔も微妙に皆違い、それぞれに個性を持っていて、手にしている武器も剣、槍、弓矢、大盾と違う。ミニスはそんな石像の群れを見ながら、そういえば昔の王様で、こんな石像を沢山作って、自分の墓地に一緒に埋葬させた人物がいたわねと思い出していた。この石像はどこか、教科書で見たその石像に似ている。


バスンッ!バスンッ!


「ミニスさんっ!あんたもぼーっとしてないで撃ってくれ!囲まれたらマズイっ!」

「え? ええ、そうね。ごめんなさい」

「ミニスさん。ミニスさんは、前を狙って。私は後ろを牽制するから!ナーウッドさんは、私を援護っ!」


そう言うと、キミは止まって後ろを振り返る。廊下はまだ半分は残っているのに、こんなところで止まっては挟み撃ちになるのではないか? ミニスは思った。


「ちょ、ちょっとキミちゃん!?」


それにミニスとナーウッドも慌てて止まる。が、前にも敵はいるのだ。ミニスは言われた通り、廊下の奥の敵に銃弾を浴びせる。

作られ、動き出す瞬間を狙って各個撃破。

だが、キリがない。


「止まったらダメよ!今のうちに行くしかないっ!」


ミニスはキミに言った。キミの隣で、援護しているナーウッドもさすがに焦りの表情を浮かべている。

でも、そうは言ってみたものの、実際はどうだろうか? きっと全力で走っても、間に合いはしないだろう。絶対どこかでは囲まれる。それほど光の集まる速度は速くなってきているのだ。


ミニスは必死に考えていたが、当のキミは何かに集中するように目を閉じている。


「キ、キミちゃん……?」


ふと見るとキミの前の廊下、そこの奥の石像が弓を構えた。

「ちっ」

ナーウッドはそれに気がつき、銃を撃つ。たが、それは他の石像の盾に阻まれた。

ナーウッドはなおも追撃。

が、そこで弾切れを起こした。慌てて弾倉を変える。その弾倉は昨夜、ミニスから貰ったものだった。だから、慣れなくて動作が遅れた。


「ナーウッド!どいて!」


ミニスが叫ぶ。そして、ナーウッドのどいた隙間にサブマシンガンを放った。無数の弾丸。それでも盾は破れなかった。弓矢はもう引かれている。狙いは……たぶんキミだ。


「キミちゃん、避けて!」


とミニスが思った、その時。


キミがパッと目を開けた。


するとその瞬間、盾を持っていた石像の目がギラッと光り、くるっと向きを変える。


そして、弓矢の石像に思い切り拳を叩き込んだ。


弓矢の石像は頭を砕かれて倒れ、盾の石像の拳も砕け散る。


「えっ?」


ミニスは初め、目を疑った。が、その現象はそこだけに留まらなかった。

見ると、そこかしこの石像が向きを変え、仲間の石像を攻撃し始めたのである。

弓矢の石像も剣の石像も槍も盾も。

そして、先ほどの盾の石像は足早にキミの前にやって来たかと思うとキミを護るように、盾を構えた。

それを見てミニスはようやく理解した。


キミはあの石像を操っているのだ。


それも、一気に10体以上も。そして、操っている石像が倒されたら、他の石像を操る。常に一定の数を操っているらしい。


「へぇ…」

キミのその力を初めて見たナーウッドは、何かを思うように呟く。

ミニスはその様子に安心し、キミに背中を向けながらマシンガンを撃った。前は任されているのだ。ヘマはできない。そして、キミに


「すごいじゃない。10体以上も。そんなに操れないって言ってたのに。それとも、石だから?」


と背中越しに聞く。すると、キミも背中を向けたまま、

「ううん。そうじゃなくて、ちょっとだけ力の使い方がわかったのよ。集中するのに、時間が掛かったけどね。これもあのショットの力を見たお陰だわ……ま、癪だけど」

と、言った。


「じゃあ、後ろは任せてもいいのね?」

「ええ。もちろんよ。ナーウッド、また突っ走るわよ」

「お、おう。わかったぜ」


打ち合わせが終わるとキミは、操っている石像で壁を作り、そしてそれを殿に三人はまた走り出した。


前方はミニスとナーウッドで撃ち崩す。後方はキミの操れる石像でガード。さらに、キミは

「なるほどね。コツがわかってきたわ」

と言うと、なんと前方の石像も操り出した。


石像は本当に次から次へと転移されてきたが、それを上回る調子で三人は石像をただの石の塊に変えていった。


廊下はあと残り三分の一程の所まで来ていた。あと少しだ。

「ねぇ、ナーウッド。あの扉はちゃんと開くのよね?」

ミニスは聞いた。それにナーウッドは

「さぁな。わからない」

と言う。

「まぁ、そうよね…」

なんだか、ミニスは聞くのもバカらしくなってきた。

この場のことを正確にわかっている人などいないのだ。何事も皆で確かめるしかない。自分も積極的にやらねば。そう思いつつ、ミニスは走り、石像を撃破する。


扉に着いた。

それは近くで見るととても古い木でできていた。そして、表面には様々な模様が彫刻されている。見たこたもないような動物や植物などだ。これも、上の遺跡にあったような自然への信仰心のものなのだろうか?

「こっちは抑えるわ!早くっ」

キミは言う。その言葉にミニスはサブマシンガンを離し、思い切り扉を押した。

が、ビクともしない。もしかしたら引くのだろうか? しかし、取っ手もなにもない。どう見ても押す以外にはなさそうなのだ。

「…ち、ちょっと……重過ぎじゃない?」

ミニスは全力で押しながら言う。そこにナーウッドも加わる。

「任せな」

ナーウッドがぐいーっと扉を押す。

すると、なんと扉が少し開いたではないか。相変わらずの馬鹿力だ。でも、さすがのナーウッドも苦しそうな顔をしていた。ミニスの協力は案外、必要なようだ。

「……くっ、開いてよーっ…」

ミニスは背中で押す。まだだ。まだこれでは人は通れない。


すると、ミニスの横に石像が来た。


そして、一緒になって扉を押す。

隙間がぐいっと開いた。

またもう一体来る。さらにもう一体。

石像が来るたびに扉は大きく開き、ミニスの手は軽くなっていった。もういいだろう。これならナーウッドでも頑張れば通れそうだ。


「ミニスさんから順に入って!入ったら援護よ!最後に私が入る」


キミは言った。ミニスは本当はそれに反論したかったが、そんな余裕はないことはわかっていた。だから

「了解!」

と言って、手を離し素早く扉の隙間へ滑り込む。そして、サブマシンガンで援護しながら

「ナーウッドッ!」

と指示を出した。

するとナーウッドも手を離してやってくる。が、ナーウッドが手を離したからか、扉の隙間がぐっと狭まった。ダメだ、これでは援護ができない。それに、キミはこんなところを通れるのか? ミニスは焦れた。


「キミちゃんっ!」


その言葉が合図になり、キミも向きを変えた。

後ろからは石像の群れがキミの操っていた石像を壊しながら迫っている。

「頭を下げろっ!」

そこでナーウッドは叫んだ。その声にキミは、反射的に頭を下げる。その上をナーウッドの放った弾丸が通り抜け、石像を撃ち砕いた。


キミはバランスを失いながらもなんとか、扉の隙間に滑り込む。その瞬間、キミが操作を解除したのか、扉がバタンッと大きな音を立てて閉まった。



「……はぁ、はぁ」


三人は扉が閉まるのを見届けると、荒く息をし、その場に倒れこんだ。


「…まったく、なんなのよ、あいつら…なんで動いてるわけ?」

ミニスが今まで思っていたけれど、言えずにいたことを口にした。それにはナーウッドが


「あいつらは、おそらく機械だ…機械仕掛けで動いているんだ」


と答える。

しかし、そんな機械などミニスは聞いたこともなかった。

だから、ミニスにとってみれば、理由がわかろうと、やはりわけのわからないことには変わりない。ミニスはそう思ったから考えるのをやめた。無事に切り抜けられただけラッキーだ。


「ねぇ、それよりもここ…」


キミが倒れたままそう言って首を向けた。


ミニスとナーウッドもキミに倣い、首を部屋の中へと向ける。

と、言ってももうチラッと見えてはいたのだ。

そこにある広がる大きな部屋。その景色が。


そこは本当に大きな空間だった。

昨日、寝た場所よりも広いくらいだ。

そして、やはり床も壁も天井も例の黒い石でできている。


そこに整理され、並ぶように置かれた、様々な物。

ガラスのビンやケース、用途の知れない大小の機械。長い机や椅子。棚。


そして動物達。


正確に言うと動物の剥製だろう。まさか生きてはいまい。なぜなら、それらの動物はケースなどには入らず、剥き出しのまま、整然と並べられているのだから。生きているのなら、それで動かないのは変だ。


「……すっげぇな…」


ナーウッドは呟いた。

それに、2人もええ、そうね。と、素直にそう言う。そんな月並みな感想しかぱっと出てこなかったのだ。

しかも、たぶん今視界に捉えている場所が全てではない。

やはりあの廊下の、左右も部屋の内部だったのだ。その証拠に左右に行く通路がある。これは調査をするにも骨が折れそうだ。だいいち、この中からいったい何を探せばいいのかもわからない。


「これは手分けするしかなさそうだな」

「ええ。でも、手分けして大丈夫?また、あんな石像みたいなやつらが出てくるかもしれないわよ?」

「ううん。それは大丈夫だと思う。この部屋の中は安全そうよ。なんとなく」

「そう?」


一行はキミのその言葉を信じるしかなさそうだった。


「じゃあ、そうするか」


三人は息が整うと早速起き上がり、とりあえず部屋を見て回ることにした。キミは部屋の左、ミニスは部屋の真ん中、ナーウッドは部屋の右というふうに。



「はぁ、見たこともない動物ばかりだわ」


ミニスが担当するその場所には、様々な動物達がまるで行進でもしているかのように、センスよく並べられていた。

そして、よく考えるとそれらは全て地上の動物で、哺乳類もしくは鳥類だった。中には見たことのある一般的な動物もチラホラいる。しかし、ミニスは特に動物に詳しいわけではなかったので、どの動物が絶滅種で、どの動物が今も生存している種なのかは、さっぱりわからない。なので、動物を見る感想は「あ、可愛い」とか「げ、なにこいつ。気持ち悪い」とかしかなかった。

まるで博物館に来ているのと変わらない。


部屋の奥に行くと、そこには大きな木製の棚があった。


その棚には小さな引き出しが無数に付いていて、試しにいくつか開けてみると、そこには小さな透明なケースが入っているだけみたいだった。そのケースには古代アストリア文字と思われる文字で、なにやら小さく書き込まれていたが、それもミニスには読めるはずもない。


「…はぁ、なにこれ。これじゃあ、私はまるで役立たずじゃない」


ミニスはなんだかやるせなくなって、引き出しを仕舞う。

やはり自分ひとりでは何もできそうになかったので、ミニスはひとまずナーウッドのもとへ向かうことにした。


ナーウッドのいる部屋の右側には大きなガラスケースが並べんでいて、その中には様々な虫の標本があった。

「う……」

ミニスはそれを見て蜘蛛のことを思い出してしまう。

たとえ標本でも、もう虫は勘弁してもらいたい。


ナーウッドはそんな部屋の一番奥、そこの大きな機械の前の椅子に座っていた。

そこで彼は、なにやら考え込んでいるみたいだった。


「なにしてるの?」

ミニスが聞くとナーウッドは思考から帰ってきたのか、チラッと目を合わせ、

「ん? ああ、こいつの動かし方を考えていたんだ」

と言う。

「こいつ……ってこれのこと? 」

ミニスは指を差す。

それは大きな画面を持つ機械だった。そして、手元には無数のボタン。よく見るとボタンの表面には一つ一つ文字が刻まれていた。


「なんなのこれ?」


「古代のスーパーコンピューターだ。と、言っても実態は俺もよく知らない。サマルがそう言っていたからそう呼んでいるだけだ。何をするための物なのかも、どう使うのかもわからない」


ナーウッドは苦々しげに言った。そして、腕を頭の後ろで組む。


「サマルさんが? じゃあ、あなた達は前にもこれを見たことがあるってこと?」

ミニスはそこが引っかかったので聞いた。

「ああ。その……以前ショットを見つけた場所でな……そして、そいつは破壊した。サマルが危険なものだと言ったからな」

それにナーウッドはつっかえながら答える。

「へぇ、そうなの」

そんな態度のナーウッドのことをミニスは仕方ないなと思う。

きっとまだ整理がついていないのだろうと。

そして、ナーウッドはそのために、今、必死で頑張っているのだ。


が、聞かなければならないことは聞いておかないと。


「危険って、どんなふうに危険なの?」

ミニスはさらっと聞いてみる。その質問に、


「わならない。サマルは教えてくれなかった。でも、破壊したなら大丈夫だと思っていた。……思っていたんだが、まさかここにもあるとはな。この調子じゃ他の遺跡にもあるかもしれない……」


と、ナーウッドは少し肩を落とした。だから、ミニスは

「じゃあ、これも破壊しておく?」

と冗談半分で言ってみた。すると、ナーウッドは苦笑いして首を振り、

「いや、もしかしたら調べ物の役に立つかもしれない。もう少し待とう」

と言った。



その後、二人はキミのもとへ向かった。


キミのいる部屋の左側にいた動物、それは水の中の動物だった。

それが、様々なケースに入れられ並べられているのだが……キミが見つめていた部屋の奥にあったケースの中には、全然違うものが入っていた。


「……な、なによ…これ……」


それを見た、ミニスとナーウッドは言葉を失った。


透明な硬いケースの中に、眠るように入れられていたもの……


それは、どこからどうみても人間の女性だったのだ。


そしてキミの見つめる、その隣のプレートに書かれていた文字をナーウッドは声に出して読む。


「ア、ン、ド、ロ、イ、ド……?」


と。


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