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エピローグ

予定を変更して、一気にエピローグを公開します。

 まあ、先走って、『始まりの日』(本シリーズの最初のエピソード)のプロローグと第1話を公開しちゃったので、長引かせても仕方ないし、一気に読んだ方が印象深くなりそうだから、という気もしますしね(^^)

 さあて、どんなエピローグになるのでしょうか?

 新星暦85年3月25日月曜日【そして二年後】


 5時間に亘った旅はあと少しで終わりだった。宮崎太郎は旅の供に話し掛けた。


「どうだ、すごいだろう? 俺らの村とは大違いだろ?」


 馬車の窓から食い入る様に市内の風景を眺めていたモジス・リクは太郎へ顔を戻しながら答えた。


「そうですね。すごいですけど、日本ほどじゃ無いのでしょう? それならここも大した事はありませんね。もっとも日本に住みたいとも思いませんけどね。やはり我々の村が一番です」

「はは、そりゃ、そうだ。知れば知るほど、日本は馬鹿げている。あんな所に住みたいとは思わんな」


 太郎は新狭山高校に首席で合格していた。そして、今日から関根邸に居候する事になっていた。


 この2年間は地獄の様な忙しさだった。仮設学校の授業だけでは合格出来ない事は明白だったので、独学で深夜まで勉強をした。新学期にやって来た仮設学校の先生が驚くほど手助けしてくれた。前の先生も良かったが、新しい先生は更に優秀だった。

 合格後に分かった事だが、彼は関根春奈が説得して送り込まれた先生だった。

 今ではすっかり村の暮らしが気に入ってしまい、そのまま新設の学校の中学部担当教師になっていた。


 唯一勉強を休んだのは、妹の宮崎美月から電報をもらって、父親と一緒に春奈の母親の葬式に駆けつけた時だけだった。

 その経験は彼に様々なものをもたらした。

 春奈が言う人脈と云うものの一端を見せつけられたのだ。

 勿論、そこには政治的な意味合いが多分に含まれてはいた。それでも人脈の凄さが分かってしまう情景であった。

 その場には新狭山市の庶民や要人だけで無く、ラミス王国からも王族の弔問使節団が来ていた。

 そして驚いた事に、身長2m30cmのグザリガやダグリガといった非友好人類種(グザリガとは次の年に戦争になる事を知っていた。ダグリガとは敵対していなかったが、グザリガと同じ人類種という事と情報が少ない為に要注意国だった)さえも弔問使節を送り込んでいた。


 そこには自分達とは別の世界があった。


 村に帰った後の太郎は時間を見つけては、H.S.F社から派遣された社員と村の計画について議論を交わした。泣き言を言う時間さえも惜しんだ。受験するまでの平均睡眠時間は5時間を切っていた。

 彼は駆り立てられていた。目をつぶれば、関根家の屋敷に向かう弔問の人並みが脳裏に浮かんだ。亡くなった関根香織は表立った活動をしていなかったにもかかわらず、関根家の一員が亡くなったというだけで、あれだけの人間が集まるという事実の重さが彼を押し潰しそうだった。


 彼は強くならなければいけなかった。

 何故なら春奈がそう願ったからだった。彼女は自分の我侭から宮崎家を助けると言った。

 だが、太郎は動機がどうであれ宮崎家の為に全力で行動した彼女に感謝の念を抱かざるを得なかった。彼女の告白を聞いた後でもこれは変わらない。妹とは違った形だが、彼は彼なりに春奈に恩返しをしたかったのだ。

 自分の家や村を自分で守るという形で。

 遺言と化した関根香織が言った『幸せ』とは多少違うかも知れなかったが、目標を持って生きていく事が一番の幸せと、彼は結論したのだった。


 リクも二年後に新狭山高校を受験する予定だった。

 今回の旅は見聞を広める事と、市内に慣れる為に太郎に同行していた。宮崎利一があらゆる費用を見る事になっていた。太郎が使った参考書は全てリクに回っていた。太郎ほどの成績は難しいかも知れないが、それでも先生からは大丈夫そうだと太鼓判はもらっていた。太郎も合格が決まってから教えていたが、教え甲斐の有る生徒だった。なんと言っても理解力が高く、数学と理科の二科目は太郎でさえも舌を巻くほどだった。ただ、暗記系が平均並みなだけだった。

 太郎はリクを知るにつれて、春奈が保持者を特別扱いしない理由が分かった気がした。世間で言われる保持者優位論は真理の一面をついているが、リクの様に非保持者でも天性の頭の良さは発生する。

 いや、それだけでは無い。春奈は努力する人間が好きなのだった。

 所詮は保持者と言っても、底が浅ければ伸びる量には限界が有る。彼女が父親を評価していた理由も気付けば簡単な事だった。春奈が村に来た時にケリュクを全開にしていた理由も今では理解していた。あれは皮肉だったのだ。村の数少ない保持者が持っている優越感(当時の太郎の事だが)が、いかに薄っぺらな物かを理解させる為に彼女はあえて行って見せただけだった。


 そして、あの夜を境に村の雰囲気は変わっていた。宮崎美月が突然、市内に行く事が決まったにも拘らず、残った宮崎家の二人がいきなり活発に動き出したからだった。それは今までに村人達が見た事も無いほどの気迫がこもったものだった。

 戦争中も上二上村(二上村の上流に出来た村、という理由で付けられた名前だった)はひたすら作物の増産に邁進した。

 招集された村人も居たが、全員が無事生還(まあ、後方で兵站作業しかしていなかったから当然だが)していた。

 彼らが聞いた噂話や新聞等の情報では犠牲は出たが、戦争は危なげなく勝ちを収めた。


 この旅の2日前に、H.S.F社から派遣されて、その後に合同会社に参加した皆がちょっとした宴会を開いてくれていた。かなり酔いが回った元社員との会話が印象的だった。


「太郎さんは春奈様と親しかったよね。どんな印象だった?」

「いや、そんなに親しくは無いですよ。でも、まあ印象というよりは確信ですが、あの人は凄いですね。俺より年下ですが、遥か先を行っていると言う感じですね」

「そうだろ、そうなんだよな。なんか、今年中学校に進学というのが悪い冗談みたいだよな」


 彼は宮崎家とH.S.F社の合同会社の役員だった。その他の社員も、合同会社に出資して経営に参加していた。全員が春奈に一本釣りされていた。選ばれた人材は才能のわりにはポストが低い人間が中心になっていた。


「なんせ、社内でもあまり接触の機会が無い関根家のお嬢様から直接手紙が来て、自宅に招待されるなんて、滅多に無いわな。恐る恐る行ったら、お嬢様と太郎さんの妹さんが出迎えてくれたのは良いが、そこには社長も居たんだぜ」


 全員が、最初は首を切る為の罠かと思ったそうだった。緊張しながら会食を済ませた後で、彼らは笑顔の春奈に言われたそうだ。

『自分達のH.S.F社を作りませんか? このままここに居ても、上がつかえていませんか? 今ならおもしろい仕事が有りますよ?』


 その後は彼女の独演会だったそうだ。太郎は思わず、くすっと笑ってしまった。その時の光景が目に見える様だった。


「気が付くと、その気になってしまっていたんだよな。でも、参加して良かったと思っているぜ。あのまま居ても、昇進の目は限られていたし、自分達で会社を興すなんて面白いじゃないか。あと数年したらこの村はすごく発展しだす。俺達も頑張るからな」


 春奈が提唱した合同会社は宮崎家が51%、H.S.F社が15%、村人と彼の様な元H.S.F社社員が34%を出資して設立されていた。

 これは時限法が切れる将来を見据えた対策と、参加者全員に利益を配分する為だった。社長にはリクの父親が就任していた。


「関根家と云うのは何故、怪物じみた人材を出せるんだろうな? 自分の子供より若いなんて信じられん」


 太郎には分かっていた。一族全員が狂信的なほど自分の欲望を捨てれば、もしかしたら可能になるかもしれないが、俺達の様な凡人には無理だ。

 だから別の事を話し出した。


「でも、弱点は知っていますよ。本人も最近ぼやいていましたから」


 続く太郎の言葉を聞いて、その役員は大笑いした。やっと呼吸が落ち着いてから、搾り出すように言った。


「確かにお嬢様の言う通り小さい弱点だが、本人にしたら大きいかもな。でも、茶目っ気もなかなか大したもんだ。それに太郎さん、そんなセリフを言ってもらえるなんて、十分に親しいよ」


 太郎が口調を真似しながら言った春奈のセリフは

『最近、真剣に思うの。10㌢ほど厚底の運動靴が無いかなって。だって、美月ちゃんと一緒に歩いていると姉妹みたいなんだもん。まあ、私の胸並みに小さい悩みだけどね』 だった。



「リク、美月に会うのは2年振りだろ? 多分びっくりするぞ。俺も受検でこっちに来た時に驚いた位だからな」

「もしかして身長が太郎様より大きくなった、とかですか?」

「言うんじゃ無かった。直接本人を見てびっくりさせた方が良かったな」

「仕方有りませんよ。春奈様から手紙で教えてもらっていますから。同い年に見えないと嘆いていましたよ」

「おいおい、俺でさえ手紙を一通しかもらった事が無いのに、なんでお前がもらっているんだ? しかも、その中身は妹の水着の請求書と水着だけが写った写真が1枚だったぞ」

「あまり他人には言わない方が良いですよ、太郎様。趣味を誤解されますよ。理由は簡単ですよ。村の子供達の事が知りたければ私に聞くのが一番ですからね」

「ちぇ、これだから優等生は困るんだよな。せめて恋人ですから、とか言えば良いのに」

「そう言えば、あの二人は恋人の話は全然書いて来ないですね」

「待て、ちょっと待て。まさか美月からも手紙が来るのか?」

「ええ、そうですよ。まさか、太郎様は美月様からも手紙が来ないのですか?」

「悪いか? でもな、今年は年賀状をもらったぞ。宛名は親父と連名だがな」


 リクは腹を抱えて笑い出した。つられて太郎も笑い出した。

 彼らが乗った馬車が関根邸に着いた時も笑いは続いていた。御者に礼を言いながら降りた時も彼らの顔には笑みが残っていた。荷物を馬車から降ろして、屋敷の門に陣取る機動隊員に声を掛けた。事前に連絡が有った様で、すぐに門を通される。

 門を入った所で、四人の男女の子供達の姿が有った。

 今や身長が160cmを軽く越えた妹の宮崎美月と、20cm以上小さな関根春奈と太郎と同じ位の弟の関根昌斗、そして美月より大柄なラミス人だった。

 ケリュクの量は春奈が圧倒していたが、ラミス人はかなりな保持者だった。多分、A級判定は堅い。


「ようこそ、お兄様」


 美月が真っ先に声を掛けながら、荷物を兄の手から奪い取った。


「また、でかくなってないか?」

「ははは、学校では私より大きい子が3人も居たよ。それより先に挨拶をして」


 一番小さな少女、春奈が声を掛けた。


「宮崎太郎様、モジス・リク様、長旅、お疲れ様でした。早速で申し訳ありませんが、ご紹介させて頂きたい方がおられます。ラミス王国の王位継承権第3位のマリダス・ギリスナ・ラミシィアス殿下です」


 太郎もリクも咄嗟に片膝を付いて首を垂れた。ラミス王国の王子が何故ここに居るかを考える前に反応していた。頭上から声が聞こえた。


「春奈様、悪ふざけが過ぎますよ。さあ、お二人とも顔を上げて下さい」


 優しげな声であった。二人が顔を上げると目の前に端正な顔のラミス人が居た。


「これから一緒にこの家で厄介になる同居人ですから、その様な事をしなくても結構ですよ。さあ、お立ち下さい。それに春奈様と美月様とは同い年ですから、お二人より年下ですよ」


 礼を言いながら立ち上がった時に二人は気付いた。彼の言葉は流暢な日本語だった。


「ギリー、紹介するわね。大きい方が太郎様で、頭が良く見える方がリク隊長だよ」


 春奈がざっくばらんに紹介をする。

 ギリーと呼ばれた王子様は日本風にお辞儀をした。


 彼は見るからにラミス人種そのものだった。

 ラミス人は地球の人種で言えばヨーロッパ系コーカソイドの特徴が多い。顔の彫が深くて肌の色はこの地の太陽に焼かれ続けた所為で薄めの褐色だった。元々、ヨーロッパ地域ゲート近辺に住んでいたクロマニョン人が基本で、インド地域と極東地域(日本がほとんどを占めていた。移転門設置失敗説の有力な証拠だった)ゲートから流入した若干の同世代の後期旧石器時代の人種との混血だった。

 ラミス人男性の平均身長は成人では190cmに達する。

 日系人には笑えない話だが、始祖達が初めて接触した時に、思わず英語で話し掛けた者が多かったそうだ。


 だが、ラミス人がケリュク能力を獲得後に、最後まで稼動していた日本移転門周辺に集落群を形成していた混血前の縄文人子孫を奴隷にした悲劇は、始祖達にラミス人への複雑な思いを抱かせ、一部ではその制度への反発から純血主義者の発生を生んでいた。


 一方、モジス・リクの先祖モジス・ガウはラミス王国の奴隷階級出身だった。新狭山市の噂を聞いて移住して来た第四期の移民だった。

 10歳の時に年齢を偽って応募してやって来た彼にとって、この国は予想よりも貧しいけれど夢の国だった。何せ勉強をただで教えてくれた上に、その間の生活の面倒も見てくれた。一番優しかった女性の先生がケリュク保持者と聞いた時は心底驚いたものだった。

 移民学校を卒業した彼は必死に働いた。本国同様に上流階級は形成されつつあったが、それでも保持者達や後に始祖と言われる日本人達は、彼と話す事や一緒に仕事をする事に違和感を抱いていない様だった。

 結婚する時に日本人の親方からお祝いを言ってもらって、更にはお祝いの品をもらった時に彼の子孫の運命は決まった。

 ガウは余りにも純粋過ぎた。過剰なほどこの国を愛してしまった。

 ラミス王国に居たら持ちようの無かった考えを持ってしまって、この国を豊かにする為に働く事を家訓にした。

 だから、徴兵時に世話になった宮崎准尉が募集した開墾団に応募する事は、彼にとって自然な成り行きだった。親方は引き止めた。

 そして、その理由が生活面で苦しくなる筈のガウの一家の心配をして、という事が分かった時には親方の前で号泣した。


 リクもその話を耳にたこが出来る程、聞かされていた。

 だから宮崎家への忠誠は新狭山市への忠誠と思っていたし、彼自身も家訓に従う気だった。利一は尊敬に値する村長だったし、この2年間の太郎の振る舞いはその決意を更に後押ししていた。

 そして今、眼前にはラミス王国の王子が居た。意外と平静な自分の気持ちにかえって驚きながら、祖先のガウおじい様が見たらびっくりするだろうな、と思うと我知らず笑みが浮かんだ。


「殿下、お目にかかれて嬉しいです。私は宮崎太郎で、こちらがモジス・リクです。彼は1週間後には村に帰りますが、それまではこちらの屋敷にお世話になります。どうぞ、お見知りおきを」

「私もお二人に会えて嬉しいですよ。春奈様と美月様からお二人の噂は色々と聞かされましたからね」


 王子は気さくな性格の様だった。二人に近付いて握手を求めた。

 リクは握手しながら思った。


『おじい様、この国はやはり良い。おじい様は正しかった。つらい事も有るだろうが、家訓通りに頑張るよ。奴隷階級出身の子孫でも王子と握手出来るなんて、この国でしか有り得ないものな』


 まあ、『はるな』様の影響だろうけど、それでも良かった。あの時の自分の言葉が脳裏をよぎる。

『・・・・・・ よし、頑張れはるな』


『うん、自分の人生で、これ以上の有り得ない言葉は二度と無いだろうな』

 リクも美月や太郎と同じ様に春奈に人生を変えられた一人かも知れなかった。だが、それはリクにとっては心地良い事だった。広い世界を知れば、それだけ大きく頑張れそうな気分だった。


 次に紹介された少年は春奈の弟、昌斗だった。確か新学期から小学5年生の筈だった。顔つきはややラミス系に近くて、彫りが深い。女の子にもてそうな雰囲気があった。

 太郎はもう受験の時に顔を合わせていたので知っていたが、リクは初顔合わせだった。リクは春奈で懲りていたので、外面で騙されまいと身構えた。昌斗は人懐っこい笑顔で挨拶をした。


「そんなに警戒しないで下さい。姉ほど人は悪くありませんよ。まあ、自分で善人と言う人間ほど信用できませんがね」


 やはり、春奈の弟だった。

 だが、自分で善人じゃ無いと言う位だから、逆説的に善人なのかも知れなかった。リクは苦笑に近い笑みを浮かべて、心中で太郎に同情した。

『王子様より緊張させられる小学5年生か。関根家に居候する太郎様も大変だな』


 そして2年後、彼も首席で新狭山高校に合格した。皮肉な事に、彼も関根家に居候をする事になる。


 軽いセレモニーが終わった頃に春奈が全員に宣言した。


「さて、同居人の顔合わせが終わった所で家の中に入りましょう。今夜はささやかながら美月ちゃんと私が腕を振るった晩餐を用意しているから、楽しんで下さいね」


 春奈はさっさと屋敷に戻って行った。それを追い掛けて、王子が横に並ぶ。本当に同い年なのかと思わせる身長差だった。

 だが、仲の良さは会話をしている二人の背中からも感じられた。弟君は彼らを冷やかしながら後ろから付いて行った。


 ぽかんとしている太郎とリクの背中を押しながら、美月が説明してくれた。


「春奈様は照れているの。二人にフィアンセを紹介したから」


 上二上村出身の三人には一晩では話し合えないほどの話題が有りそうだった。

 そして、きっとその話題は楽しいものになる、と云う確信が太郎とリクには有った。話題の中心人物は身長差ゆえに顔を上に向けながら、彼らが初めて見る女性らしい笑い顔をしていた。

 太郎は思った。まず確認する事は春奈様がどの程度、演技をしているかを妹に聞く事だった。我等のお姫様が王子様ごときにうつつを抜かすとは考えられなかったからだ。

 太郎は視線を上空に向けた。そこにある夕焼け空は上二上村と変わりが無かった。微かに反射光が見える4つの人工衛星と、地球の月よりは小さな『小月』がそのかわいらしい姿をおぼろげに見せていた。そして、自分が3年間を過ごす屋敷を見た。


『人間、どこでも生きて行ける筈だ。努力さえすればな』


 それは始祖達が地球に帰れないと分かった後で、絶望の中からやっと悟った心境と一緒だった。


 そして、この惑星に来た最後の人類種の末裔が、自らの目標を生き残る事から発展へと切り替え始めた時期の一つの光景でもあった。


如何でしたでしょうか?

 あんだけの字数で6日間を描いた後で、いきなり2年間をすっ飛ばすとは・・・

 他人さまの時間感覚を狂わす気か、mrtk ?(^^;)

 まあ、構想では、この描かれなかった2年間でエピソード8が入り、最終章エピソード9では、関根春香が思わぬ運命のいたずらで『救世主』となる過程を描く予定です(うーん、辿りつける気がしない・・・)。

 さて、各話のタイトルを見てお気付きかも知れませんが、或るパートが有りません。と言うよりも、抜いています。

 そう、『プロローグ』が有りません。

 このサイトで公開する時にわざと入れませんでした。

 “ネタバレ上等”という考えをお持ちの方だけ、直後に公開する特別付録にお進み下さいませ(^^)

 さて、『始まりの日』第2話は次のお休みに公開予定です(うっかりと10月度のシフトを確認し損ねたので、数日以内とだけ言っておきます)。




・・・・・・・・・・・・・ネタバレ注意・・・・・・・・・・・・・




 プロローグ


 集まった群衆は、彼らが頂く一家を一目見ようとしていた。

 王家と一部の人間だけが使えるバルコニー上で、美月は王国初の女王を見詰めていた。『彼女』の背中越しに見える群集の熱気は、この国で初めて見るものだった。

 冷静、沈着が国民性とも言える王国の国民が、我を忘れてバルコニー上の三人の名前を連呼している。

 美月は背中に氷を当てられたかの様に身震いをした。

 国民性までも変貌させた『彼女』の実績に。

 そして、その能力に。


 『彼女』と初めて会った時に思った事が、正しかった事を『彼女』は証明してきた。

 まさに『王国の宝』となってしまった。

 王国が続く限り語り続かれる存在。

 王国を救い、誰もが成し遂げられなかった難攻不落の城塞都市を瞬く間に落として見せた『英雄』。

 彼女に付けられた尊称は初代の王に次ぐ数になっていた。


 自分がそんな歴史の参加者になるとは、幼い頃には思いも付かなかった。

 隣に座っている夫が小声で呟いた。


「俺たちの人生は将来、どの様に語り継がれるのだろうな?」


 彼も、それまでの王国では有り得ない存在の軍人だった。実績だけで周囲の尊敬を勝ち取った彼も、美月と同じ事を考えていた様だった。

 『彼女』が後ろを振り返って、美月達を見た。その特徴的な目が自分達を呼んでいた。

 『彼女』の側に進む為に二人は立ち上がった。

 群集は夫婦に付けられた尊称を連呼しだした。数万の群集が自分達に向ける生の感情を受けて、美月は思わず身体が動かなくなった。夫が優しく背中に手を回してくれた。

 そして、懐かしい呼び名で彼女を呼んだ。その声は魔術の様に美月の呪縛を解いてくれた。


「美月様、大丈夫ですか?」


 美月の顔に思わず笑みが浮かんだ。その気分のままで、返事していた。


「はい、大丈夫です、隊長」


 二人は顔を見合わせて、声を出さずに笑い出していた。

 そんな二人を『彼女』の家族は優しく見守っていた。





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