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姫様来訪6日目 5

 本編は今回で終了し、エピローグが2回くらい続きます。

 さて、どうなるのでしょうか?

 現在の新狭山市の兵力は現役自衛官850名強(とはいえ、その内の徴兵200名弱は戦力としては中途半端だったので、後方活動しか出来なかった)が主力だった。

 その他にすぐに招集可能な即応予備自衛官が600名、出来れば招集したくない(年齢的な問題や市の生産力維持や経済活動に問題が発生する)予備自衛官が700名だった。

 それ以外にも、成人男性全員が在郷自衛官補だった。ちなみにダントンも藤田も予備自衛官だった。


 市民は感覚が麻痺しているが、新狭山市は完全な軍事国家だった。確かに、グザリガの脅威が現実にある限り仕方が無かった。

 そして、男性が16歳の成人後に1年間の徴兵に取られる事もやむを得なかった。その影響もあり、女性の社会進出が促進されている事は良い事ではあるが、軍事に力を入れざるを得ない事は市の発展の足枷になっている事も全市民が理解していた。


「でも少なくともラミス王国が健在だし、準備も出来るから前回ほど押し込まれないと思うわ。この5年間でそれなりの対策もして来たし、犠牲になる自衛官も減らせると思うわ。始祖達が残した『塩漬技術』の開発が大詰めに来ているしね。でもね、本当の問題は別の点に有るの」

「『塩漬技術』? それに本当の問題って、何ですか?」

「『平成辞典』の話を覚えている? あれは表に出しても問題ない項目だけを集めたものなの。本当に重要なものは出していないわ。始祖達は新狭山市の国力や技術が発展するまでは、あえて隠す事を選んだの。他国に先を越されないようにね。『塩漬技術』はその代表。その一例が、自衛隊に去年から配備され始めた輸送車よ。予定では、今後20年間で民間にも普及する段階に入るけど、それまでは今までどおり、牛車が輸送の主力のままよ。もっとも、馬車に回せる馬の数がやっと増えて来たから、先に馬車が普及するでしょうけどね」


 春奈の説明を聞いた5人は呆然としていた。自分達の国が抱える秘密の深さと、春奈が知っている情報量の広大さに。

 この少女はまるで市の中枢に居るかのような情報を握っている。関根家の恐ろしさ、いや、関根春奈という個人の恐ろしさに、今更ながら驚きを感じた。


「本当の問題に関しては、ご免なさいね、さすがに言えないわ。でも、これだけは覚えていて。今後は更に国力が必要になって来ると。その為の時間も限られていると」


 これ以上はさすがに教えてくれそうに無かったので、美月は質問を打ち切った。食堂に重苦しい空気が流れる。全員がそれぞれの考えに浸っていた。

 ようやく、春奈が焦っている理由が分かった。彼女は大きな奔流の中で、この村を助けようとしてくれていた。


 太郎は彼女に休みも無い理由が今夜の話でやっと分かった。関根家は幼いと言っても良い彼女さえも手駒として使っていた。

 彼女には小学生という表の顔以外に裏の顔が有る。

 しかも、裏の顔に隠された闇は並みの深さではない。ラミス王国での国教、『ラム教』の主神のラムでさえもその底を照らしだせないだろう。

 だが彼女と関根家がこの村の為にここまでしてくれる理由が分からなかった。彼は思い切って聞いてみた。


「春奈様、何故、この村の為にここまでの好意を示して頂けるのですか?」


 太郎は初めて春奈に敬意を込めて話した。

 彼女は国家機密並みの実験を目の前で行った上で、同じ位重要な情報を教えてくれた。

 更にこの村に信じられない程の条件を提示してくれている。会社の利益の為と言っていたが、彼が考える限り嘘だった。市自体が未曾有の危機に瀕している時に、たかが一つの村にこれだけの援助を与える理由としては弱過ぎた。


 春奈は体重を椅子に預けた。

 声の質に変化は無かったが、感情が少し戻っていた。

 その証拠は肩の線だった。先程よりその線は力が抜けてほんの微かに落ちていた。


「私の我侭よ」


 全員が春奈をじっと見詰めていた。春奈は皆を見詰め返した。


「私のお母様がもう長くないの。多分、今年の夏を越せない。娘と息子を関根家の大義の為に半分取り上げられながらも、愚痴一つ言わずに私達家族全員に愛情を注いでくれた。そのお母様が初めて一つだけ、おじい様とお父様に自分の我侭を言ったの。宮崎家の子供達を幸せにして欲しい、と」


 関根家のボディガード二人でさえ初耳だった。確かに最近は春奈の母親を見た覚えが無かった。関根邸で入れる場所が限られているので、特に不思議とは思っていなかったが、そう云う事情が有るとは考えていなかった。


「私は嬉しかったわ。お母様から彩様との昔話を聞いていたから、お母様の願いを叶えられる事が出来るなら何でもして上げたかった。だから、この旅にも志願したし、考えられる限りの手を打ったわ。昨日、おじい様から手紙が来たけど、お母様は嬉しそうにおじい様におっしゃったそうよ。『春奈ならきっと宮崎家の子供を幸せにして上げられる。それだけで私の一生は価値が有ったと思える』って。だから絶対に二人を幸せにして上げたいの」


 春奈は決して涙を見せる事も、それ以上の感情を表す事も無かった。

 この少女がどれだけの思いでここに来たのかを考えると、むしろ聞いている者達の方が堪らなくなって来た。

 付き合いの長いボディガード二人はうつむいていた。

 宮崎家の三人は春奈の心の奥底に触れた途端に、彼女が来てからの日々が走馬灯のように駆け巡った。


 春香の写真を見詰める春奈。


 子供達と楽しそうに遊ぶ春奈。


 嬉しそうに水中探検をしている春奈。


 花火に手を叩いている春奈。


 藤田の冗談に腹を抱えている春奈。


 リクに抱き付く春奈。


 思い出される彼女は、何故か感情を出した時のものだった。

 だが、悲しそうな彼女の姿は少しも思い浮かばなかった。


 春奈の独白の様な話は更に続いた。


「勿論、他人の家族の運命を弄って捻じ曲げる事が本当の幸せになるなんて、世間では思わないでしょうね。だけど、関根家の人間は結果の為には、それさえも許容するの。美月ちゃん、私の事が嫌になった?」


 美月の答えは春奈を抱締める事だった。

 いびつに育った、この少女は自分自身の事では一生涙を流さないだろう。

 だから美月が彼女の代わりに泣いて上げよう。


 春奈が小さく囁いた。


「ありがとう。私の代わりに泣いてくれるのね」



 だって、あなたは私の為に泣いてくれた。私の涙は今後、あなたの為だけに流そう。





 美月の誓いは一生、破られる事は無かった。






如何でしたでしょうか?

 『ガール ミーツ ガール』とも言える『姫様来りて』が終了しました。

 こうして、平凡な人生を送る筈だった少女は、歴史の舞台に引っ張り上げられていきます。

 本来ならば、この後に戦争が起こるのですが、プロローグは2年後に飛びます。

 時間があれば、2年間に起こったエピソードを書きたいんですけど(^^;)


 例えば、春奈が学校ではどう思われていて、どれほどの存在なのか?とか、何故彼女は国家の極秘情報を手に入れる事が出来るのか?とか、何故宣誓士資格を持っているのか?とか、戦争に巻き込まれていく登場人物達の物語とか、新狭山市が手にしつつある力とか、市長のおじい様との交流とか、春奈の母親との再開と別れとか、新狭山市とラミス王国の運命を変える事になる出会いとか、とかとか(^^)


 次回からは本編を強引にまとめる為に導入されたエピローグです。

 また、最終話が短いので、ちょっと早い気もしますが、このシリーズの最初の話『始まりの日』のプロローグを並行で公開します(^^)/

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