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姫様来訪5日目 2

もうお分かりでしょうが、今話も地味に進行します(^^;)

 しかし、建国モノでこんなニッチな題材に力を注ぐmrtkって、何を考えているのやら(^^;)

 楽しかった川原遊びからの帰り道に、春奈と今日の水中散歩の事を話しながら美月はふと気付いた。


 自分の事は趣味のマンガの事くらいしか春奈と話していない。女の子故の悩み等の、友達なら必ず話題に上る事(マンガでの知識位しか無かったが)をろくに話していない。同い年の友達が初めて出来た(学校に同い年の子が居たが、使用人の子だった為に友達とは言えなかった)のに、それでは寂しすぎる。

 気が付けば言葉が出ていた。


「ね、春奈ちゃん。今日は部屋に泊まっていい? 明日は帰る準備で忙しいでしょう?」

「うん、いいよ。一晩中語り尽くそう」

「ありがとう。うん、ありがとう」

「変な美月ちゃん。あ、中村屋さんだ」


 春奈の言葉通りに、行商の中村屋が見えてきた。

 中村屋は皆が来るまで村の北側に在る港湾施設の出入り口で立っていた。ここで待っている事は珍しかった。利一が最初に声を掛けた。


「どうしたんだ? こんな所で待っているなんて珍しいな」

「宮崎様、お嬢様に至急渡さないといけない物があるので、ここで待っていたのです。それと、すみませんがすぐに帰らないといけない急用があるので今日はこれで失礼します」


 春奈は中村屋から封筒を受け取ってからダントンの方へ手を差し出した。ダントンが無言で自分の燐寸を差し出す。皆から10m以上離れた場所まで歩いて行き、封が破られていない事を確認してから“ナイフ”で封を破って手紙を取り出した。読み終わると春奈は燐寸を擦って手紙を燃やしてしまう。更に踏み付けてばらばらにした。

振り向いた時にはいつもの春奈だった。


 だが保持者には分かってしまった。手紙を読んでいる途中と読み終わった後にケリュクの嵐が発生した事を。


 春奈は中村屋を近くに呼んで、皆に聞えないように小声で尋ねた。


「中村屋さん、お願いしていた荷物は?」

「宮崎様の屋敷に搬入しておきました」

「そう。いつ戻りますか?」

「お嬢様の返事を聞き次第に」

「了解しました。予定通りに戻ります、了承しましょう、例の手続きは進めて下さい、と伝えて。あ、もう一つ、お母様に伝えて・・・ 必ず幸せにするから、待ってて下さい、と・・・」

「判りました。それでは残り3日間を楽しんで下さい」


 中村屋は軽く一礼して牛車に向かった。その途中で利一にも挨拶したが、いつもと違って余裕がない様子だった。


 春奈は皆の所に戻ると快活な声で宣言した。


「皆さん、今日の夜7時に広場に集まって下さい。ちょっとした物を中村屋さんが届けてくれました」


 美月だけがピンと来た。


「花火? 届いたの?」


 春奈は笑顔を浮かべてうなずいた。村に入りながら、美月は子供達に花火を説明して上げていた。最初はおとなしく聞いていた子供達は、楽しそうな遊びを夜にするという事を理解するとうるさくなって来た。

 だが、保持者達は少し違っていた。さっきの春奈の態度と中村屋のやり取りが何だったのかに戸惑っていた。

 そしてリクは気付いていた。

 彼女が『てした』の筈が無い事に。



 美月は花火の準備の手伝いをする為に一階に降りて行った。

 先程終わった夕食も楽しいものだった。山菜の天ぷらは意外と美味しかった。最初はそれほどでは無いと思ったが、慣れてしまえば独特の味に惹かれてしまった。

 これからは旬の山菜を食卓に出す事にした。春奈にお願いして、あの本に書かれている山菜ときのこを全て記憶しておく事にする。

 夕食の光景が美月の脳裏に思い出された。父親の利一も今夜は口数が多かった。今日は久し振りに楽しんだ、と赤ら顔で笑いながら何回も言っていた。

 美月はそんな父親を初めて見た様な気がする。春奈が来るまでの父親はいつも何かを考え込んでいる様な顔で食事をしていたし、口数も少なかった。

 ましてや同じ事を何回も繰り返す様は、以前の父親からは想像が付かない。久し振りに子供達の遊びに付き合った疲労から酔いが早く回ったのかも知れなかったが、そんな父親を見る事は美月にとっては嫌ではなかった。

 むしろ、こんな毎日が来て欲しいくらいだ。


 美月の記憶の中で、父親が春奈の話を上機嫌で聞いていた。


「その時のリク隊長のお母様の顔を見せて上げたかったですよ。人間って、驚いた時には声が出なくなるんですよ。ただでさえ大きな目をこれ以上は無理って位に広げて、口も開けたまま2秒間は固まっていましたね」

「ははは、それは見たかったなあ。あそこの奥さんはしっかり者で、滅多に取り乱さないんですけどね」

「まあ、ごついのが何人も周りを取り囲んでいたら、びっくりもするわな」


 太郎も会話に加わった。笑顔を浮かべていた。

 そしてその時の光景を思い出したのか、声を出して笑い出した。


「隊長がおやつを恵んで上げてくれ、って言った時には噴き出しそうになったのですけど、そこは淑女たるもの必死になって耐えましたわ。もっとも最後の気力を振り絞って、おやつを恵んで下さい、と言った時には限界を越えましたけど」


 美月も笑い声の合唱に加わっていた。あの場に居た者も居なかった者も皆で笑い出していた。



 美月は思い出し笑いをしながら玄関に着いた。

 そこでは春奈と警護員達が固まって作業をしていた。


「どうしたの? 春奈ちゃん?」

「いやあ、おじい様が勝手に花火を追加で増やしてくれたのは良いけど、大きな花火ばっかりなの。それで取扱い説明を大慌てで確認している最中なの」


 確かに彼らの傍らに有る3台のリヤカー上には大小さまざまな花火が分類して積まれていた。警護員達は花火に印刷されている取扱説明書を読んでは、分類に従ってリヤカーに積んでいる。


「おい、これだけの量を全部やり終わるのにどれだけ掛かるんだ?」

「むしろ、どれだけの金が掛かっているんだ?」

「お、これなんか凄いぞ。上空で爆発した後で、落下傘が降りて来ますって書いてあるぞ。照明弾みたいだな」

「おっと、なんだこれ? この中で誰か火薬類取扱い主任者資格を持っている者は居るか?」

「俺は持っているぞ。自衛隊で取得した」

「良かった。この箱の奴は全部、取扱いは要資格だ。任せた」

「おい、おい、マジかよ?」


 彼らの表情は子供の様に輝いていた。

 美月は知らなかったが、市内で製造販売されている花火は兵器関連に関係していた。

 半世紀近く前に新狭山市兵器工廠の組織が改変された時に職を失った火薬部門の技術者を関根家がスカウトした事が事の始まりだった。

 関根家は彼をまずは平和的な事業に活用する事にした。

 新しく『狭山花火株式会社』という会社を設立して、研究部門の責任者として迎えて、着火に難が有った旧来の燐寸を作っていた小さな会社を丸ごと吸収した後で花火開発に乗り出した。

 関根家が花火製造に乗り出した理由は長らく謎と言われたが、最初の動機は孫に代表される子供達に見せて上げたいだけだった。最終的にはいつもの如く様々な効果を狙っていたが、現在となっては全ての項目を達成していた。


 もっとも、最初から順調に開発出来た訳ではなかった。この時代の日本人には花火がどういった物かは分かっていたが、詳しい製造方法が分からないので一からの出発だった。

 花火に使う黒色火薬その物は知識と材料が有った為に作る事に問題は無かった。

 それでも、安定した製造が可能になり、手持ち式の「おもちゃ花火」の市販化に成功したのは、開発開始から1年後であった。

 次に目指した花火は当然の如く打ち揚げ花火であったが、成功までの道のりは平坦ではなかった。日本の花火がなまじ世界一精巧だった為に、目標が高過ぎた事も原因であった。

 問題は星の色や広がり、爆発のコントロールだった。それらを一つ一つ解決する作業が続いた。せめてもの救いは日本の打ち上げ花火の構造と材質がおぼろげながら分かっていた事と、ラミス王国製の紙質が花火作りに適していた事くらいであった。


 結局、一重の単純な花火の公開打ち揚げは「おもちゃ花火」を市販してから5年後であった。その間の開発費用は、改良を施した燐寸とおもちゃ花火の売上の収益と不足分を関根家が負担した。その時点で発色に成功していた星の色と、完成していた玉を全て打ち揚げたデモンストレーションは成功した。

 今では夏の風物詩となった新狭山池花火大会は、この試し打ちが最初であった。

 あまりの好評さに市も翌年から予算を出していた。

 理由は二つ有った。関根家が大々的に予告して、更には親交のあったラミス王国の要人達を特等席に招待していた事が原因の一つ目だった。

 もう一つは、当時就任したばかりの市長が裏で動いていた事だった。


 関根家は前夜祭まで行って、花火の公開打ち揚げを計画的に一種の祭りにしてしまっていた。周辺の町からも見物客が殺到した為に、打ち揚げ当日の見物客は「市内」の市民数を越えていた。

 関根家はこの花火打ち揚げの費用を回収する為に傘下の企業を総動員していた。宿泊施設、飲食産業、新たに作った遊戯施設等を活用して費用を回収してしまった。

 だが、次の年からは新たな投資をせずに、新規に参画会社を募集した。彼らは総合企画と運営の管理だけを担当した。いつまでも独占しては経済成長の足枷になると判断したからだった。


 この時の花火は見た者たちに様々な感情をもたらした。


 生き残っていた日系第一世代には日本での思い出を・・・・・・・・・・・・・・・・

 はっきりと言って、日本の花火に比べれば比較にならないくらいに見劣りするが(なにせ大阪狭山市出身の市民は世界最大の花火大会を間近で見ていて目が肥えていた)、自分達が苦労してここまで発展したという感動と自信を思い出させていた。

 そして、我が子や孫に日本での花火大会を説明する機会を与えていた。

 だが最後には日本を思い出して、涙で花火が見えなくなっていた。


 初めて打ち揚げ花火を見た市民には改めて新狭山市の豊かさと底力を・・・・・・・・

 単純に楽しんだ後で自分達の国を凄いと素直に思えた。この事は後で効果を現した。停滞していた市民の意識が前向きになり、市全体の生産能力が確実に上がって行ったのだ。


 ラミス王国の者には驚きと新狭山市に対する畏怖の念を・・・・・・・・・・・・・・

 彼らにとって、この花火大会は異常であった。この様なお祭りをこの国では一介の会社が(あの関根家が全面的に絡んでいたとはいえ)行えるという事は、敵に回すには危険過ぎるとの認識を改めて思い知らされた。

 しかもこの国の技術は未だに底が見えていなかった。いきなりこの様な技術が出て来る。ラミス王国内の一部で出ていた新狭山市併合計画はこの瞬間に消えたと言って良かった。


 市長は市民の雰囲気を上手く利用した。彼は一気に来年以降の開催を市主催で行う事を市議会に諮った。議会も市民の声は無視出来ず、更にラミス王国要人から直接賛辞を言われれば、毎年実施する事を考えざるを得なかった。

 そして、年々規模と美しさを増加させて行ったこの花火大会の成功は次の段階に移行した。

 関根家は、狭山花火(株)の財務上の余裕が出来た段階で、守家傘下の狭山化学(株)を譲り受けて合併させた後で、新型火薬の開発に着手したのだ。

 開発に成功した新型火薬は自衛隊に採用された。


 市全体の利益の為に私財を使った関根家は、またしても賭けに勝った。


 

如何でしたでしょうか?

 まあ、花火って、軍事物資であった火薬を平和的に使ったモノとも言えますから、その逆も有りと言えば有りなんですが・・・

 ちなみに、狭山花火(株)設立時には、新狭山市は無煙火薬の再開発にはとっくに成功しています。

 もっとも、文系のmrtkは、化学式とかはさっぱりなので、詳しい製造工程はパスします(^^) 調べた限りでは何とか開発出来そう・・・かも? 

 

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