姫様来訪5日目 3
さあて、いよいよ花火大会です。
そう言えば、最近は花火をしてないなぁ(^^)
子供時代はかなり無茶をしたものです・・・・・ (ちょっと遠い目 -_-)
ロケット花火を平行に打ったり(昔は今よりも広い空き地がありましたからね。今では無理です)、ここに書くけない様な(良い子の皆さんが真似したら嫌なので)危険な事もしましたっけ・・・・・
勿論、美月も新狭山池のほとりで行われる新狭山池花火大会の事は知っていた。
だが、往復で1日は掛かる旅行は出来なかったし、前夜祭から楽しもうとすれば2日、いや3日は欲しかった。それだけの長期間、家を空ける事は彼女には出来なかった。
でも、今夜は小規模とはいえ花火を楽しめる。心が弾んでしまう事は自然の成り行きであった。
「美月ちゃん、ごめんだけど“バケツ”に水を入れておいて。五つくらいで良いから。それと“ランタン”とろうそくもお願い」
「うん、わかった。ここに持って来るね」
「ごめんね」
やっと分類が終わったのは7時10分前だった。大慌てでエキ夫妻も誘って、広場に行った時には村中の人間が集まっていた。
「あちゃー、これは困った。おじ様、こうなったら本格的に挨拶をして下さいな。5分くらいで結構です。関根家ではなく、怪しげな集団が迷惑を掛けたお詫びの花火だと説明して下さい。その後でヒルスさんが進行を説明します。よろしいですか?」
「良いですよ」
利一が村人の前に進み出た。その間に春奈が2人を警備に残して、警護員3人にキビキビとしたお願い口調で命令をして、花火の準備を進めさせる。美月には“ランタン”を点灯させて、自分はヒルスに花火の進行手順を説明する。利一の挨拶が終わった頃にはそれも終わっていた。
ヒルスの説明は急遽決まったとは思えないほど上手であった。春奈が声質、声量、話し方などを全て考慮して決めただけあった。
「それでは皆様。この村のご当主様の許可が出ましたので、我々がご迷惑をお掛けしたお詫びの花火大会を行います。まずはお子様に楽しんで頂ける花火を致します。リク隊長、おられますか?」
リクが人の輪から進み出た。
「それでは隊長に見本になっていただきましょう」
ヒルスはリクを使って、花火への点火の方法、注意点、万が一やけどをした場合の“バケツ”の水を使った対処法を皆に説明していく。美月も含めた裏方はその間に子供の年齢に合わせて、手持ちのおもちゃ花火を人数分に分けていった。
「これで、基本的な説明を終わります。さあ、最初の花火は隊長にしてもらいます」
ヒルスは春奈から火の付いたろうそくと花火を受け取って、説明を続けた。
「良いですか、このタイプはここに火を付けて下さい。その際に火花で手を火傷しない様に注意して下さい。隊長、火を付けて下さい」
リクが火を付けると火花が噴き出した。「おおー」という歓声が上がる。子供達は勿論、大人達も初めて見た花火を真剣に見詰めていた。花火が終わって火が消えると一斉に拍手が起こった。彼らにとっては、この様な娯楽は初めてであった。リクの顔も上気していた。
「リク隊長、見事な花火をありがとうございました。皆さんの手本として大変立派でしたよ。それでは皆さん、リク隊長に盛大な拍手を!」
最後の一言はヒルスのアドリブだった。説明は春奈がリクを常に立てていた事を利用していた。こうすればリクの顔が立つし、危険な花火の仕方をする子供が出て来る事も防げる。
万が一、出て来てもリクや周囲の大人達が止める筈だ。
ヒルスは皆と一緒に拍手をしながら、内心で感心していた。春奈が彼にした説明は人心を把握して、思い通りの効果を上げる方法として理にかなっていた。
「それでは、皆さん。5メートル下がって下さい」
リクと一緒に移動しながら、ヒルスはリクの耳元で何かを言った。
場所の移動が終了した頃にヒルスが説明を再開した。
「はい、ありがとうございます。それではお子さんを前にして、リク隊長を中心に大きな輪になって下さい」
皆が輪になった所で、春奈と美月が子供達に花火を配っていった。
続いて水が入った“バケツ”と“ランタン”を五箇所に置く。
子供達は目を輝かせながら、もらった花火を親に見せていた。
ダントンが火の付いたろうそくを一本ずつ家族の前に立てていく。
ヒルスが最後の仕上げに入った。
「さて、皆さんも早く花火をしたいと思います。それではリク隊長、皆さんが花火をして良いですか?」
リクはぐるりと皆を見てから、しっかりした声で号令した。
「よし、みんな。花火大会の始まりだ」
中村屋が選んだ手持ち花火は危険な物が無く、小さな子供から大人まで楽しめた。子供達も親に一緒に花火をするようにせがんでいた。おっかなびっくり花火をする親を見て、きゃっきゃっと笑う子供も居る。
美月も春奈と一緒に初めての花火を楽しんだ。
利一と太郎は花火をしている皆を見る事で楽しんでいた。他人が楽しんでいる様子を見る事がこんなに楽しい気分になるとは思ってもみなかった。それは村人が心から楽しんでいるからだろうが、これほどの村人との一体感は久し振りだった。
ヒルスは皆の進行状況を確認していた。春奈もそろそろ良い頃合と思って、美月を促した。最後の花火を全員に配る。
「皆さん、花火の最後はこの線香花火です。コツは火を付けたら、じーとする事です。動かすと直ぐに落ちますので、我慢して動かないで下さいね」
皆が線香花火を使った我慢大会をしている間にスタンレイ・藤田・ダントンは打ち揚げ花火の最後の準備に入っていた。
安全に打ち揚げられるように、各自の距離を大き目にとり、打上げ筒の固定も十分に確認していた。
「お、そろそろだぞ。火種に火を入れよう」
ヒルスは全員の線香花火が終わった事を確認して、手を叩いて皆の注目を集めた。
「本当ならこれで花火大会は終了ですが、本日は特別に追加の花火があります。あちらをご覧下さい」
村人全員がダントン達の居る方向を見た事を確認して、彼は持っていた花火に点火して合図を送った。
ダントンの目に、花火の火がぐるぐる回される合図が見えた。
「よし、第一回宮崎村花火大会を始めよう。2番、上空・・・撃て! 3番、上空・・・撃て! 2番、3番、撃ち方待て」
そして、ダントンが自分の花火を打ち揚げる。スタンレイと藤田が普通の打ち揚げ花火を担当していた。法律の関係で市販品は『本物の打ち揚げ花火』に比べて可愛い物ではあるが、十分に楽しめる花火であった。
だが、資格保持者のダントンが打ち揚げる大型花火は更に派手であった。彼は一発当たり昼飯10回分の花火を景気良くぶっ放した。
美月は最初の2発でも驚いていたが、3発目は高さも星の広がりも桁違いだった。思わず春奈を見た。彼女は拍手をしていた。
「今のは何? 新狭山池の花火大会って、あんなのばかり?」
「ううん。本職が打ち揚げる花火はもっと大きいよ。今の花火は特別製の市販品最上級モデルの一つ。さっき見た時には更に凄いのがあったよ」
「春奈ちゃんの小遣いってすごいね。やっぱり別世界の人だわ」
「いやいや、だからおじい様が勝手に追加しただけだよ。私は手持ち花火分しか出してないもの」
「それじゃ、おじい様の小遣いがすごいのね?」
「どうだろう? 帰ったら聞いておくね」
「それは止めて。聞いたらかえって落ち込みそうだから」
「そうね、私も落ち込むかも」
彼女達の葛藤に関係なく、花火は次から次へと打ち揚がっていた。
ダントンはワンパターンにならない様に注意しながら打ち揚げを指揮していた。わざと3発連続で普通の花火を打ち揚げたり、わざとパターンを崩して、大型花火を打ち揚げたりと変化を付けていた。
「2番、3番、残弾知らせ」
「2番、残弾10」
「3番、残弾11」
「よーし、そろそろラストスパートだ。一気に行くぞ」
村人達は大喜びだった。打ち揚げ花火を初めて見て興奮している所に、最後は乱れ打ちで締めくくった構成は見事だった。
打ち揚げが終わってから春奈が拍手すると一斉に拍手が起こった。
興奮冷めやらぬ子供は自分なりの表現で親に花火の感想を話しかけていた。親も同じ様に興奮しながら答えていた。
興奮が引いた頃合を見て、ヒルスが声を上げた。
「皆さん、楽しんで頂けましたか?」
拍手がまた起こった。
「ありがとうございます。楽しんで頂けて嬉しいです。あさってには我々は帰ります。それまではお手数をお掛けしますが、よろしくお願い致します」
もう一度、拍手が起こった。
「さて、最後にこの村のご当主様に挨拶をして頂きましょう」
「わしと同じ様に皆も楽しんでくれた様だな。この様な良い物を見せてくれたご客人に、もう一度拍手を送ろう」
遠くで起こった拍手を聞きながら、ダントン達3人はへたり込んでいた。
「俺、花火で初めて汗だくになったぜ」
「花火って、結構な運動だったんだな。神経も磨り減るし」
「確かにな。素人なりに頑張ったと思うぞ。まあ、二度とご免だがな」
その時に、春奈と美月がジュースを持って来てくれた。
「お疲れ様でした。すごく良かったですよ。専門家もビックリなほど最高な構成でしたね」
「ありがとうございます。我々を忘れなかった、春奈さんと美月さんが天使に見えますよ」
「あはは、褒めてもジュースしか出ませんよ」
「それは残念。でも好評な様で良かったです。これでブーイングされた日には、ぐれてしまいますな」
「これで文句を言うのは人間失格ですね。片付けは明日の朝にしましょう。あ、そうそう。皆さん、花火の仕上げをしませんか?」
丁度その時に、同じ様に不運な男達がやって来た。花火も見ずに、ひたすら警備をしていたクレスと桑原だった。
春奈と美月は5人の男達に線香花火を2本ずつ配った。
「頑張ったご褒美で特別に1本多めにお配りしますね」
ぽつりとダントンが呟いた。
「鬼だ。やっぱりぐれてやる」
春奈が大笑いした。それにつられて皆も笑い出した。ひとしきり笑った後で美月がフォローを入れた。
「線香花火を最後まで落とさなかった方には、私から特製マンゴー酒をプレゼントさせて頂きます。どうですか? 参加しませんか?」
警護員5人は全員参加した。特製マンゴー酒目当てで始めた我慢大会は気が付くと男のプライドを掛けた闘いと化していた。
だが、ある意味おバカな闘いだった。ライバルを笑わせて、優位に立とうとした桑原は自分のギャグの途中で思い出し笑いをして自滅し、それを笑ったクレスとダントンも続いて脱落して、最後に残ったスタンレイと藤田は低次元な笑い話を連発した。春奈と美月は笑いっぱなしであった。
もしかしたら本当の敗者は、クレスと桑原の二人と入れ替えに警備を引き受けたヒルスだったかも知れない。彼の耳には本当に楽しそうな皆の笑い声が聞えていた。ちらっと見た時には、奴らは腹這いになっていた。
『そこまでするか、お前ら? でも、楽しそうじゃないか』
密かに可哀想なヒルスであった。
だが、村の外からその模様を監視している集団も可哀想であった。彼らは夜間視力を低下させない為に、花火も見ずにひたすら対象人物の監視を続けていた。我らの教官殿は、わざと楽しそうな姿を見せつける為の花火大会をしたのでは、と勘繰りたくなっていた。
如何でしたでしょうか?
フィクションと言う事と、テンポ感を重視した為に軽い描写にしましたが、本職の皆さまの打ち上げは、安全確保に真剣です(本当に危険ですし、打ち上げ失敗による社会的リスクはとんでもないモノが有るため)。
さて、次話からは、春奈による「手術」が始まります・・・・・




