アバンタイトル
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朝礼まえの自由時間。
とある田舎高校の一室でのことだ。スピリチュアル系が大好きなJKが、街の占い師がすごいだのなんだのと、身振り手振りを交え、友人に必死のアピールをしていた。
そのラブコールを受ける友人は半目で耳を傾け、その目の開き具合と同じくらい半信半疑の様子である。
「でー、ウェスカー。つまり、その『占い馬場の館』とやらの的中率がすごい、と」天宮羽衣のリアクションは薄くて冷たい。彼女はこの手の非科学的な商売には懐疑的――、というより詐欺的な見方しかしない。
これに対して、親友のウェスカーの反応は正反対である。
「ちがうよー。すごいってもんじゃないのぅ。あたしなんかぁ、婚期が近いって言われたのぅ」ウェスカーは目玉をバッテンにして、羽衣の説得を謀る。
高校生相手に婚期って、むしろ駄目な占い師じゃないか、と羽衣は思うが……。
ところで、中学生時代はこういうとき、面倒見のよい羽衣は仕方なく妥協して友人の意見を尊重しながらも、しかし自分の主張を曲げなかった。あれがすごい、これがすおごい――、だけどね、それはこうこうあれこれで超能力とか魔法は存在しないのよ、という具合にウェルカーにつまらない現実を納得させていた。
しかしである。ここ最近は、この力関係が崩れつつあるのだ。
「魔法。ぼくできるよ」
ジュリエットの存在である。
「もしかして、ジュリエットちゃんも占いとか好き」
「大好き。小さい頃よくやったよ。流星とか、超新星爆発とか、冬キャンプしてよく見てたなー」
それ普通に天体観測よね、と声には出さず心の中でツッコむ羽衣。
「でしょー」
なにが『でしょー』なのかわからないが、ウェスカーのなかでは好意的に解釈したらしい。
「ねー。ジュリエットちゃんもこう言ってるし、行ってみようよ。占い馬場の館」正面から攻めるウェスカー。
「え、そういうお店があるの。ぼくも行ってみたーい」横から攻めるジュリエット。
「ねーねーねー」
「ねーねーねー」
羽衣は正面と横から肩を揺さぶれる。その様は、やんちゃな男の子が荒ぶって立ちこぎするブランコのような猛烈な揺れ方である。
「ええい。揺さぶるなお前ら。行きたいなら二人でゆきなさいなっ」
「やだー。羽衣ちゃんと一緒がいい」とウェスカー。母親と一緒でないとなにもできない幼い子供のようである。
「ぼくもー。うぃーもいるほうがおもしろいよ。ツッコミ役が必要なんだからさぁ」
ボケ役の自覚があるんかい、とツッコミをぐっと堪える天宮羽衣。
「だーもう。あんたらいいかげんに――」
そこに、突き出た腹が現れた。
「占いってのはまた非科学的な。いいかい。占いの大半はな、巧みな話術で相手から情報をそれとなく引き出しながら当たり障りない抽象的な答えを導き出す情報戦略の一種で――」
観月智一の存在にいよいよ許容量をオーバした羽衣は、やけくそになって叫んだ。
「わーかったから。席に着け。行ってやるよ、その占いババァの館とやらにな」
シーン、と静まりかえった教室に、自分の声だけが響いた。
教壇には担任の教諭がいて、ウェスカーもジュリエットも、観月すら目の前にはいなかった。三人とも自席にちょこんと座っている。
「えー、では出席をとる――」なにごともなかったようにスルーする担任に、注意の一言でもあってよいのではないか、と赤っ恥を掻いた羽衣であった。
「またスベリ芸かよ……」




