chapter 9
9
銀河舞踏会は閉会した。
集まったバグフィルタ計画の紳士・淑女は、自分達の世界へいったん戻っていた。聖なる王領シコラスク島の神殿もいまは照明を落とし、薄闇のなかしんと静まりかえっている。
残るのは、たった二人。
〈テンペスト〉のドクタ・プロスペロ、同ミランダ。
ミランダは乱れた髪を手ぐしで直しつつ、俯きがちに言葉を零す。
「ごめんなさい、プロスペロ。負けたうえに貴重なエアリエルまで失ってしまったわ……」
「無敗の女帝にしては殊勝だな。本音は」
「く……」言葉を貯めるミランダ。
「く」疑問系のプロスペロ。
「クッソ、悔しいー」ミランダは痛む躰も体裁もいとわず、地面を叩き割るかという勢いで地団駄を踏んだ。「どうして、あのとき、うまくできなかったのかっって。あれもこれもそれもあれもよッ。あなたもそう思うでしょう」
「あれこれ言われてもな。わからん」
「勝てない相手じゃなかったのにぃ」
「そう、かもな」
「こんな気持ち久しぶりよう。ふふフ、あはは」ミランダは、今度は腹を抱えて笑った。「本当、ああ、負けるのがこんなに愉快だなんて。無敗の女帝は壊れてしまったのかしら」
「いまの君は、出会ったころよりずっと健全だ」
「そうよね。はあ、すっきりしたわ」ミランダは笑いすぎて瞳を涙でいっぱいにしながら、プロスペロをしばし見つめた。「――って。あら、あなた」
「どうした」
「いいえ、なんでも」ミランダは首を振った。「ところで、その顔だと充分に役に立てたようね」
「顔……」とプロスペロは訝しげに眼鏡を直す。「貴重なデータは得た。君にしかできん働きに感謝する」
「もう一つの祝福、楽しみに待ってるわ」
プロスペロは愛機〝黄金のエアリエル〟を背後にステイさせた。
「こいつが完成した暁には、ああ、約束通り、貴様と戦ってやる」
プロスペロは気づいていなかったのだ、自分の頬が、思わず緩んでいたことに。
二人は約束の握手を交わし、ミランダは彼の手を強く握り返した。




