なんでもない1日
夕です。
プー太さんと同じく周りに男子高生がいません。むずかしいですね…。
「あー…宝岳祭楽しかったなあ…」
部室に入った途端、由輝がそんなことを言っているのが聞こえた。
「青春が終わったって感じするよなー」
ソファーに転がっていつも通り漫画を読んでいる真実。いつからかソファーは真実の定位置になっていた。
「おー、茜ー」
ひらひらと手を振ってくる真実に手を振り返して
鞄を置いた。
「なんで遅かったの」
「日誌。て言うか、僕由輝にも言ってたよね、今日先に行ってって」
「……だっけ?」
「うん。……で、ちょっと聞いていいかな」
部室に入った瞬間に気が付いた。
狭い部室の真ん中に、あたかもずっと存在していたかのように陣取っているもの。
「なんでストーブあるの」
いや、暖かいから嬉しいけどさ。
必要ないとか全然思わないけどさ。
うちの学校、こういうの持ってきてよかったっけ。駄目だよね。
「朝弥が持ってきた」
「問題児のやることはわかんねーよなー」
そう言ってふたりはストーブの周りにやって来た。
「どうやって持ってきたか聞きたいような…聞きたくないような…」
今、11月序盤。
教室でも廊下でも、セーターやカーディガンを来ている生徒ばかりになった。
たまに、まだひとり我慢大会してる人もいるけど。
宝岳祭が終わってから、二学期の中間テストがあり、真実はやっぱりキノコの栽培することになって…今は何も行事がないから、放課後はのんびりと部室で過ごす日々が続いている。
で、今日も依頼はないだろうし、由輝が持ってきた秋良さんの漫画でも読もうとしていたところで、これだ。
問題児がストーブを持ってきた。
それもそこそこ大きい灯油のやつ。
「それで。その問題児はどこに消えたの?教室一緒に出ていかなかったっけ」
「途中で職員室に消えた。俺らにはどうすることも出来なかったんだ…。な、真実」
「な。どうか安らかに眠」
「死んでねぇよ!!」
いきなりドアをスパーンと開けて、朝弥が入ってきた。
「あ、おかえり。朝弥」
「おう」
あ。機嫌悪い。
どうやらだいぶこってり叱られたらしい。普段の行いって結構大事だよね。
足音荒々しくストーブにあたりに来た朝弥は、何かまだぶつぶつ言っていた。
「なにやって怒られたんだよ」
あきれ口調で真実が聞く。
すると朝弥は、よくぞ聞いてくれましたと言わんばかりにストーブをバンと叩いた。
衝撃あたえたら消えるから。
「聞いてくれよ!俺は部室を快適にしたい一心で、こんな重いもの持って通学してきたのによ!体育の藤原が余計なもの持って来るなって!!誰がそんなルール作ったんだよ、校則にストーブ持ってくるななんて書いてねーぞ!!書いてあるのは不要物だろ!?だいたい俺はな…」
放っておいたら永遠話し続けそうな勢いだ。
「ね、真実。ストーブって不要物なんだってこと教えたほうがいいかな」
「いや。朝弥はこれでいい」
朝弥の怒りがひとしきり落ち着いたところで、いつもの日課に移る。
「今日は三枚だー」
依頼のチェックだ。
いちおう見ておかないとね。未だに冷やかしのこと多いけど。
部長の由輝が入っていた紙を読み上げる。
「一枚目ー。…白紙。二枚目ー。…テストでいい点とれますように。はい、頑張ってください。最後三枚目ー」
どうせまた。なんて思っていたことろに由輝が、その三枚目を広げて置いた。
「これ依頼だよな」
真実が内容を読み上げる。
「えー…“校舎裏の落ち葉掃き。…手伝ってくれたら、いいもんやるぞ。”………」
いいもん?
て言うか、誰の依頼だ?
「落ち葉掃きぃ?誰だよ、寒いのに」
「朝弥、まだイライラしてんの?」
「ストーブの怨み…」
これはそうとう長続きしそうだな。
帰るまでに機嫌直してくれるといいけど。
「用務員のおじさんだな。今日の放課後来いって」
依頼をたたみながら真実が言った。
由輝がストーブを切る。
依頼が来たら断るわけにはいかないよな。
「寒ぃ…」
朝弥がポケットに手を突っ込んで震えている。
「手出して。箒持って」
「わかってるし」
しぶしぶ落ち葉掃きを再開するけど、ほとんどその場を動いてない気がする。
真実と由輝も寒さにやられてるし、そういう僕ももう帰りたい。
「そういえば用務員さんは?」
言いながら今度は由輝がポケットに手を収納。
「あ、いないね。さっきまで向こうのほう掃いてたよ」
用務員さんがいたところには箒だけが残っている。
「逃げたな!?」
「落ち着け朝弥よ。それはないだろう」
そう言って真実は何かを取り出す。
小さな…箱?
あれ、なんか嫌な予感がするけど。
「ここに一本のマッチがあるのだが」
「それ、真実も不要物持ってきてることになるね」
すると真実はそのマッチ箱を僕に見えるように振った。
確かに中にマッチが入ってる音が聞こえる。
「これはカマさんの机にあった…」
「余計にたち悪いわ」
背後から由輝が箒の柄で真実を刺した。
「げふっ……違うから!盗ってないから!貰っただけだから!カマさんがくれたんだよ!」
「どうやったらそんな話になるんだよ、どうやったら」
由輝の箒を逃れるために朝弥を盾にする。
「そのへんは…聞くの?聞きたいの?」
そう言いながらなんで箱からマッチ出してるのかな?
僕達の足元にはそこそこ集まった落ち葉の山。
マッチと落ち葉がそろってしまったら、そうしたくなるのもわかるけどさぁ。
「真実!点火だ!」
朝弥もその気になってしまった。
「用務員さん帰ってきたら知らないよ?」
「すぐ消えるって。危なくなったら、そこにホースあるし。…よいしょ」
あー…あーあ…点火しちゃった。
乾いた落ち葉を燃やして、火はどんどん大きくなる。
由輝が俺は知らないといったふうに溜め息をついている。
「あー…暖けー」
頭では否定しているのに体は正直で、すぐに高くなった火に自然と手をかざす。
と、そこに。
「お前ら何してんだー」
「「!!!」」
用務員さんが帰ってきた。段ボール箱抱えて。
サササッと火を隠すように四人で並んでみてももう遅い。
「なんだお前ら。もうやってたのか」
はい?
用務員さんは焚き火の近くに持ってきた段ボール箱を置いた。
「ほれ。依頼の報酬だ」
入っていたのは。
「芋!さつまいも!」
朝弥の機嫌をも直す、さつまいもだった。
「落ち葉もっと持ってこないと火消えるぞ!」
「急げ!あれ俺の箒がねえ!」
「あれは?あれ違うの?」
「あれおじさんのだろ?」
こういうのもいいかも。うん。
ありがとうございました。
次は秋雨さんです。