第7話 新たな同胞
西暦756年睦月未明…故郷と祖父の命を奪った男・天上王真理公子を妥当するため、司馬章は強力な思超家の仲間を集める旅に出た。長安の思超堂にて、雷を操る思超家・李光との決闘に勝利した司馬章は、彼を仲間に引き入れる権利を得たのだった。
―決闘から二日後、思超堂。
「どうだい?治った?」
孫操備が布団の上の司馬章と李光に話しかけた。二人は二日間かけて決闘の痛みを癒やしていた。
「どちらも軽いやけどだ。もう動けるよ」
司馬章が答え、李光も隣で頷く。
二人はまるで兄弟のように息のあったタイミングで布団から腕を伸ばし、握手を交わした。
『よろしく、親友』
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「…さて、今からお前たちに語らなければならないことがある」
李光は真剣な眼差しで語り始めた。
「…安史の乱という名で騒がれている、今の反乱についてだ」
二人はゴクリとつばを飲んだ。
「それは、5年前のことだった。俺の恩師・袁忠という文官兼思超家の男は、楊国忠がある思超家と会話しているところを目撃した。
楊国忠という者は野心にまみれた愚か者だった。奴はあろうことか、「皇帝陛下を洗脳せよ」と、その思超家に指示した。思超家の名前は…天上王真理公子。人の負の感情を操作する思超の持ち主である天上王真理公子=天理は、翌年に皇帝を洗脳したんだ」
そう、天理は皇帝・玄宗の脳内の機能を掌握し、玄宗の安禄山に対する不満を創り育てるとともに、楊国忠を崇拝するほどの信頼感を誤認させた。そうすることで、玄宗は徐々に楊国忠を贔屓するようになる一方、安禄山との距離を置くようになった。
「そして、この乱も、楊国忠の計画なんだ」
不穏な空気が長安を覆う。
「馬鹿な!国の宰相ともあろう人間が反乱の黒幕だったのか!?」
司馬章が驚くのも無理はない。だが、そうでなかったとしても、楊国忠がこの反乱の最大の原因であることに間違いはないのだ。
「ああ、楊国忠は天理をスパイとして安禄山の下に送り、天理を悪魔のささやきで安禄山から反乱を起こすように仕向けたんだ」
今、安禄山は『楊国忠を討伐する』という名目で反乱を続けている。決して、玄宗の命や唐の崩壊を狙っているわけではなかった。
しかし、楊国忠は違う。玄宗や安禄山を弄んだうえに、反乱を起こされる側として、混乱する国の有り様を愉快に感じながら次の中華の支配者を狙っていたのだ。
李光は大きくため息をつき、言い放った。
「結局、俺ら唐の人間は!あの楊国忠の手のひらで踊りまくってたんだよ!」
李光は地団駄を踏んだ。相当悔しかったのだろう。
「それで…李光の恩師は…」
司馬章がつぶやく。
「それは僕から話そう。僕も袁忠の弟子だ」
孫操備が代弁する。
「先生は…死んだ。濡れ衣着せられ、楊国忠に処刑されたんだ」
李光はさらに地団駄を踏む。足先から電気が走るほど、怒りが溜まっていたようだ。
「落ち着け、李光」
孫操備がなだめる。
「落ち着いてられっか!……司馬章!すまないが、俺に楊国忠討伐の時間をくれ!」
李光の眼差しに映る司馬章の表情は、まるで鬼のようだった。楊国忠のくだらない権力闘争のせいで唯一の家族・司馬典が失われたと言っても過言ではない。
「…政治の揉め事には入りたくなかったけど」
司馬章はそう言うと、懐の炎論を持った手を高く突き上げて
「この司馬章が、同胞の苦悩を焼き払って見せる!」と、高々に宣言した。