第13話 長安に差し掛かる闇
長安に夜が訪れた。長安では夜の外出は禁止されていたが、今日は特別に許される日だった。何故なら、迫りくるであろう反乱軍に備えて兵士たちは戦闘態勢になり、民衆には西方への避難が勧められていたからだ。
多くの道に灯籠の灯りがついており、民衆はザワザワとしながら避難の準備をしていた。
洛陽の民のようにならないために。
司馬章たちは、灯りと人で埋め尽くされた道路を掻き分け、王宮に辿り着いた。
「大丈夫か?」
李光が二人に声を掛ける。
「この先、想像以上の強敵とぶつかる。楊国忠は思超堂の思超家たち曰く、長安最凶だ」
楊国忠自身も思超家であり、思超堂の学者たちの間でもたびたび話題になっていた。
__悪魔のような力と心を持っている、と。
孫操備が言った。
「分かっている。それに、楊国忠だけじゃない。王明も、いつでも僕らを襲いに来ることができるだろう」
(王明は、俺達より優先して倒すべき敵がいたとか言っていたな…。王明も怖いが、王明の対象者は一体どんな人物なんだ?)
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長安上空
夜空を馬車が駆け抜けていく。馬が雲を蹴り上げて飛んでいるのではない。馬車が馬ごと浮いているのだ。
車両の中には、二人の男が景色を眺めて座っていた。
「ついに来たか。長安!」
大柄な男が外を見下ろす。もう片方の男は器を浮かせて水を飲んでいる。
「お前はここで降りるのか、魏匠」
「あぁ!王宮の中のクソ役人どもも、クソ宦官どもも、俺を裏切ったクソ衛兵どもも皆殺しだァ!」
魏匠は怒りながら応答した。
「そうしてくれ。我らは長安で人を殺しまくり、内部から崩すことが仕事だ」
もう一人の言葉に魏匠は言葉を止めた。
「…ッ」
「まー分かるぞ。お前は元、長安の近衛隊長だったそうだな。お前を慕った民を手にかけることを躊躇するとは、お前も人間らしい」
「うるせぇ!黙れ!孟寧!」
孟寧の言葉をさえぎり、魏匠は酒をガツガツと飲んだ。
「んじゃ、もう行くぜ。王宮の奴らは情なく殺せる」
こうして、大柄な男・魏匠は馬車の扉を開け、上空五百メートルはある高さから飛び降りた。
「はぁ、派手に降りるなぁ。私はゆっくりと降りてゆこう」
孟寧は馬にかかる重力を操作し、さらに前方に進んだ。
この二人こそ、反乱軍の思超家組織・乱晶の右一席・魏匠、左二席・孟寧である。
王宮内は大騒ぎだ。まず、皇帝・玄宗と楊貴妃の逃亡支度をしなければならない。なんとか、その日の夕方にはすべての準備を終え、二人は馬車に乗り、今にも脱出が可能な状態となっていた。衛兵たちは皇帝と楊貴妃の乗る馬車を城外の兵団まで送った後、大急ぎで王宮へ戻り、楊国忠の護衛を勤めた。
その時だった。ものすごい速度で王宮南門に"何か"が降り落ちてきた。土煙は大量に舞い、それが晴れると、一人の屈強な男の姿が見えてきた。
「うらぁぁあああ!」
雄叫びを上げし男は魏匠だった。彼は着地後まもなく、近くにいた衛兵5名を殴り殺した。
「て、敵襲ゥゥー!!!」
それを見た他の衛兵が叫び、その声は衛兵、住宅路の市民、司馬章たちにも聞こえた。
「急げ!南の城門から脱出しろ!」
住宅路にいる衛兵らが市民に避難を呼びかける。司馬章たちは、市民の進行方向と真逆の方向を見た。
「マズい…楊国忠どころじゃなかった!」
李光はそう言うと、二人を置いて王宮へ走り出した。彼は雷の速度ほどではないが、足がとても早く、あっという間に魏匠と遭遇した。
「……お゛!?なんだテメェ…」
魏匠は首をゴキゴキと鳴らしながら李光に近づいた。彼は既に、16名の衛兵を殺していた。
「派手にやってくれんじゃあねぇか。思超家気取りの犯罪者がよォ」
李光の纏う雷がバチバチと光る。
お互い、拳を強く握り、戦闘態勢をとった。




