手紙
だらだらと書いてます
だらだらな文章です
だらだらで読んでください……
白けゆく空の彼方に浮かぶ雲の群れが、強く意識して見つめないと見逃してしまうほどにゆっくりと、だが確実に流されてゆく。
僕がのぞむ事の出来る限りがそこにあるのか、僕の存在する世界の限りがそこにあるのかはっきりと分かることは何一つ無いが、雲の群れは空の切れ端で悠然と姿を消していく。
僕らは何処へ行くのだろうか───僕はふと思う。
彼等はきっと今まで居た世界の殻を破り捨てて、新たな自分へと生まれ変わっていくんだ。
その事に対して僕はとても羨ましくさえ感じた。
無機質で殺風景な部屋の壁に掛けられた銀縁の丸時計に目をやると、期待していた時間よりも遥かに遅れていて憂鬱な気分になる。
今の僕には、もう一度安らかな眠りに着く資格すらないのだろう。
頭の中は普段よりも妙に晴れ晴れと軽やかで、思考したくもないあれこれの事を無意識的に思い浮かべてしまう。
その割に身体は酷く怠くて、一方の肩を持ち上げるだけの行為でさえも抗いを感じた。
足の先から身体をすっぽりと包む痺れと温もりが、どこか陰鬱な僕の感情をより酷いものにさせる。
さて、どうしたものか───正直に言ってまだ動き出したくはないし、動いた所でやりたいと思える事も無い。
でも、このままベッドの上で寝る事も出来ずにゴロゴロとしていても、はっきり言って時間の無駄だ。
部屋の掃除か何かでもしていた方が、気も紛れるし余程自分の得にもなる。
ぼんやりと───そんな事を考えながら寝返りを打つと、視界の端に1枚の手紙が飛び込んでくる。
ベッドに隣接して造られたチェストの上にポツンと一つだけ、まるでそこに誰かが置き忘れたかのように雑に置かれている。
しかしそれは、紛れも無く僕へと宛てられた手紙だ。
もう四日間もそこに置きっぱなしにして封すら開けていない。
僕はふと、その手紙を開けてみたいという焦りにも似た焦燥感に駆られ、ゆっくりと手を伸ばしそれを掴もうとするが、ようやくの所で思い直してもう一つ寝返りを打ち再び壁に掛けられた銀縁の時計を眺める。
それは、とても安物臭いちっぽけな外見をしている。
まるで僕にそっくりじゃないか───僕は、そう思った。
古ぼけてクタクタになったシャツを着て、幸せの欠けらも無い表情を浮かべつつ、騒然とした街の中にて雑歩を踏みしだく僕とその時計ととは似ているように思えた。
定められた命の限りを駆使して鼓動を刻み続ける存在。
歯車を噛み合せるように、決められた一日の仕事を黙々とこなし、決められた時間に飯を食べ、決められた時間に起きるために眠りに着く。
一部の人間はそういうものを厭うのかもしれない。
でも僕はそういった「枠」の中で生きて、心と体をすり減らしていく生き方を、痛く気に入っていた。
僕という一人の人間は、一見なんの代わり映えのないように延々と続いて流れていく電車の車席から見えた田舎の風景のような、朴訥で味気のない生き様を、躊躇いもなく感受し己の身体中に飲み下されていくことに、ある種光悦していた所があるように思う。
綺麗に掃除がなされた石畳の上に一つだけ置かれた砂利の小石や、遥か頂きまで続く杉の並木道に1本だけ混じった椛の紅葉を見たりすると、憤りにさえ似た強い怒りの感情を抱き、そこに一種の幸福や驚きに満ちた歓びなどを見出す才分は持ち合わせていないのだった。
いつか僕が会社へ出勤する途中で車に轢かれる事故にあったとしても、足を骨折したとしても、その時の僕はやはりきっと病院に行ったりはせずに、足を引き摺りびっこを引いて、その足で会社に向かうことだろう。
兎に角僕は───僕という人間は、不変的なものを愛していて多変的なものが嫌いなのだ。
変化という言葉ですら愛すことは出来ない種類の人間なのだ。




