ハルキの部屋で
そして、様々な紆余曲折を経て、俺と隊長は今、ハルキの部屋のカーテンレールの上からこっそりと下を見下ろしている。
真下にある勉強机ではハルキがパソコンとやらを扱って集めまくった、「全国小さなおじさん情報」が開かれ、横からタカシが興味津々といった表情で覗きこんでいた。
昨日の事件を経て、ついにタカシは久しぶりにハルキの部屋に入る許可を得たらしい。
「すげーな!もはやマニアだな!」
「しようがないだろ。からかうなら帰れよ」
素直に感嘆の声をあげるタカシと、やっぱり気恥ずかしさが拭えないらしいハルキ。昨日より僅かに距離は縮まったものの、二人の間にはまだまだぎこちなさが残っている。
そして俺と隊長は、タイミングをはかりつつ、さっきからずっと息を殺して二人のやり取りを注視しているわけだ。
俺達は今日、それはそれは重大な任務を負っている。
昨日の喧々諤々の議論の末、結局はハルキとタカシを、味方としてスカウトする事になったからだ。
俺達に課されているのは、まずはハルキとタカシに姿を見せる事。そして、出来れば話をして、友好関係を築く事だ。
重大任務過ぎて、何より楽しみ過ぎて、心臓のバクバク感が半端ない。
一方でもしも俺達の意に反して、二人が俺達を捕まえようとした場合は、絶対に逃げ切る事も大きな任務として課されている。
俺はハルキを信じているが、長としては不測の事態も考慮するのが当然で…だからこそのこの人選って訳だ。
ハルキのパソコンに今まさに激写された感じで映し出されてる「小さなおじさん」みたく、運動神経が衰え始めたおっさんだと、もしもの時に捕まっちまう可能性があるからな。勿論、爺さん達なんか論外だし。
「はい、これで全部だよ」
「おう、サンキュ」
ヤバい、慎重にタイミングをはかってる内にハルキの「全国小さなおじさん情報」を見終わってしまったようだ。
「なぁ、今日もあの山行くんだろ?腹減ったから途中でコンビニ寄ろうぜ!」
「やっぱり来る気か…」
苦い顔のハルキを気にもとめず、タカシは「金あったかなぁ」と無造作にポケットから小銭をジャラジャラ取り出して、机の上にばら撒き始めた。財布にすら入れてないとかさすがに大雑把だ。
ハルキも諦めた感じだし、完全にタカシのペースだが、二人が机を離れる前に勝負を決める必要がある。
「よし!行くぞ!」
隊長の号令で、カーテンレールから飛び降りた。
降りる先はそう、派手な音がする所がいい。
俺はタカシがばら撒いた小銭の上に勢い良く着地する。幾つかのコインが、弾かれて宙を舞った。
同時に、机上のライトが明かりを灯す。隊長がスイッチに飛び乗ったからだ。
突然の光と音に驚いて、ハルキとタカシが机上を見る。
そして、目が驚愕に見開かれた。
10年越しで会う俺に、果たして気付いてくれるだろうか。
ハルキは、タカシは、俺達とどんな話をするんだろう。
何を言おう。
やっぱりまずは、あの時のお礼だろうか。
俺は、思いっ切り手を振った。