癒しの薬草と、過去の精算
遠征から一夜明けた。アルとセシルの顔にはまだ昨日の戦いの影が残っていたが、それでも俺たちは、自分たちの足で前へ進むことを選んだ。
アル「今日は無理な討伐はやめよう。セシル、お前が言ってた魔法の触媒に使える薬草、一緒に探しに行かないか? 街のすぐ外なら、魔物も出ないだろうしな」
セシル「……うん。ありがとう、アル。少し、静かなところで風の音でも聞いていたいんだ」
俺たちはセシルの歩調に合わせ、穏やかな日差しの中を市街地外縁へと向かった。その道すがら、ミラとザインを連れて自警団の詰め所へ立ち寄ることにした。
ミラ「……チッ。あの野盗ども、野放しにしとくのは癪だからね。特徴を突き合わせて、懸賞金でも出てりゃ儲けもんだよ」
詰め所の役人に、昨日撃退した盗賊たちの服装や武器、そしてリーダーの顔の傷について伝えると、役人は手配書の一枚を指差した。
自警団員「……間違いない、『野犬の牙』の残党だ。街道を荒らしていた連中だよ。あんたたちが深手を負わせて追い払ってくれたおかげで、連中もしばらくは動けないだろう。有力な情報だ、協力金として銀貨1枚を出そう」
棚ぼたの報酬を懐に入れ、俺たちはそのまま街の裏手の草原へと向かった。
ザインは野草の生い茂る地面を眺めながら、満足げに頷いた。
ザイン「おお、神よ。暴力による解決の後に、このような清浄なる知識の探索が待っているとは。アル、セシル。この『月見草』は精神の昂ぶりを抑える聖なるバグ……おっと、不浄を打ち消す妙薬になりますよ。さあ、ハンス殿に教わったように、優しく摘み取りなさい」
アルとセシルは、ザインに教わりながら、一つ一つ丁寧に薬草を摘んでいった。泥や血にまみれた昨日とは違う、土と草の匂い。その静かな作業が、ささくれ立っていた二人の心を少しずつ解きほぐしていった。
サイドストーリー
街へ戻る途中、市場の入り口でフィオが立ち止まり、大声を上げ始めた。
フィオ「やあやあ、みんな! 忘れたとは言わせないよ! ハンスさんと約束した『最高のお菓子』を食べる権利が、今のボクにはあるんだ! むしろ、ボクが食べないとカランドラの経済が停滞しちゃうよ!」
ザイン「エルフ、相変わらず不条理な論理ですね。経済を回す前に、私の財布を空にするつもりですか? そもそもハンス殿が奢ると言ったのであって、私が払う筋合いはありませんよ、ミラ」
ミラ「……チッ。うるさいよ。アル、こいつを黙らせないと日が暮れるまで市場で叫び続けるよ。ほら、そこらで安売りしてる乾物の果実でも買いな。ついでに、その横の道具屋で掘り出し物がないか見てくるから」
フィオはミラに引きずられるようにして市場へ消えていき、数分後には両手に甘い果実を抱えて幸せそうに戻ってきた。その姿に、アルとセシルもようやく小さな苦笑いを浮かべることができた。




