砂塵の洗礼と、星空のスパイス
カランドラを出発して二日。『嘆きの荒野』の行軍は、想像以上に過酷だった。
照りつける太陽と、容赦なく吹き荒れる砂埃。しかし、出立前に新調した防塵マントがその威力を存分に発揮し、俺たちの体力消耗を最小限に抑えてくれていた。
二日目の昼下がり、足元の砂が不自然に盛り上がったかと思うと、馬ほどもある巨大な蠍『サンドスコーピオン』が三匹、砂中から飛び出してきた。
ガンテツ「ガハハ! 歓迎の挨拶にしては物騒だわい!」
ガンテツが巨大な盾を構え、蠍の致命的な毒針を持つ尾の刺突を真正面から受け止める。その一瞬の隙を見逃さず、アルが地を蹴った。
新調した飛竜骨の槍が、蠍の硬い甲殻をまるで薄氷のように容易く貫き、緑色の体液を吹き出させる。
アル「硬いけど、この槍なら抜ける! ミラ、フィオ、左右の奴を頼む!」
ミラ「言われなくても!」
フィオ「♪~砂漠のサソリさん、おやすみなさい!」
フィオの魔力を帯びた矢が蠍の複眼を正確に射抜き、のけぞったところをミラの短剣が関節の隙間に深く突き刺さる。後方からはセシルの風刃が迫り来る三匹目を両断し、ザインが「不条理な虫め!」と聖水で毒液を浄化する。
かつてなら苦戦したであろう荒野の魔物も、今の俺たちの連携の前では敵ではなかった。
そして、二日目の夜。
風を凌げる大きな岩陰に野営地を設営し、ガンテツが買い込んだ大量の干し肉と乾燥豆を鍋に放り込む。
ミラ「……ちょっと退きな。そのまま煮たら、硬くて顎が砕けるか、臭くて吐き気を催すかのどっちかだよ」
ミラが鍋の前に陣取り、市場で買い込んだ強い香辛料とハーブを手際よく加えていく。しばらくすると、荒野の冷たい夜風の中に、食欲を強烈に刺激するスパイシーな香りが漂い始めた。
ガンテツ「おおっ! こいつは美味い! 噛めば噛むほど味が染み出してきやがる!」
ザイン「ふむ、見た目は泥水のようですが……味は悪くありませんね。神もこの過酷な旅路における、ささやかな美食を許してくださるでしょう」
焚き火を囲みながら、ふとフィオが呟いた。
フィオ「……ねえアル。もし、明後日くらいに着く場所が、ただの空っぽの岩山だったらどうする? 宝物、何にもなかったら……」
その言葉に、一瞬だけ沈黙が落ちる。全員の頭の片隅にあった「無駄骨」の不安。
だが、アルは火に焼べた枝で灰を突きながら、ニヤリと笑った。
アル「その時は……カランドラに帰ってから、酒場で一番面白おかしく自慢してやろうぜ。『一週間も砂埃を被って、見つけたのはただの石ころでした!』ってな。この干し肉みたいに、最高の笑い話のつまみにしてやるさ」
アルのあっけらかんとした言葉に、ミラが呆れたように吹き出し、やがて全員の間に笑い声が広がった。結果がどうであれ、この仲間たちとの旅路自体が、すでに何にも代えがたい宝物になりつつある。
満天の星空の下、荒野の冷え込みを感じさせない温かな野営の夜が更けていった。
サイドストーリー
戦闘後、砂にまみれた蠍の残骸を見ながら、セシルが手早く使えそうな毒針と甲殻の一部を回収していた。
セシル「……これだけでも、カランドラに持ち帰ればそこそこの値段で売れるはずだ。完全な赤字にはならないよう、僕がしっかり計算しておくよ」
アル「頼もしいな。でも、荷物が重くなりすぎないようにな」
一方、ザインは食事を終えると、すぐさまマントの砂を払い落とす作業に没頭していた。
ザイン「不条理です! 払っても払っても砂が……! 明日は絶対に、私の周囲に砂避けの聖なる結界を……」
ミラ「ハイハイ、寝言は寝て言いな。明日はあんたが見張りの一番手だからね」
仲間たちの他愛のないやり取りを聞きながら、アルは夜空を見上げ、明日辿り着くであろう「三つの尖った岩」へと想いを馳せた。




