Story.8 歴史
千年も遠い昔、地球上の大陸は複数に分かれており、沢山の国々が存在したと聞く。しかし、のちに世界滅亡戦争――世界滅戦と呼称される大規模な戦争によって、皮肉にもこれまで見向きもされなかった魔法が日の下に晒される時代が来た。
当時、魔法を用いて世界滅戦を止め、この世に魔法があることを当たり前にした男がいた。彼は、常識離れした力で(ただし、魔法自体の存在が危ぶまれていた世界においては、魔法そのものが常識からは外れていたのかもしれない)、分離していた大陸全てを海上で動かし、一つの大陸としてまとめてしまった。世界の陸地は元々ずっと続いており、何万年にわたって分裂してしまったという大陸漂移説もあるので、不可能なことではなかったろう。だが、彼はそれをたった一週間でやり遂げた。魔法の偉大なる力を、復興以外の場所でも見せつけたのだ。大陸をまとめた理由は非常に簡潔なもので、「国同士を統治しやすくするため」だったと言われる。
また、人口が激減したこともあり、丁度いい機会だと言わんばかりに国の数も減らされた。反論したものはほとんどいない。科学の力で無差別に人が死ぬ羽目になった戦争で、人口一桁になったような国もあった。遅かれ早かれ、そうした国はじきに無くなっていただろう。いくつもの国を一つにまとめる等により、新たに生まれた国の一つが、今日にまで歴史が続いている、ガイア達の暮らすパクスミール国である。パクスミール国は、様々な人種と様々な国の人間が混在する大国となったのだ。
この大陸の移動と、国の選別を行った男は、現在では「造物主」と、神と等しく呼称されている。平和を目指し、世界の成り立ちを大きく変えたのだから、呼び名としては言い得て妙なのかもしれない。
無論、国同士の小さな諍いはあったが、それでも大きな戦争になることはなく、長らく世界は安寧の時を迎えていた。元々人の体の中には魔力が存在し、引き出し方を覚えた人間達は、「造物主」がいなくなった後も、自然に魔法文明を発展させ、新たな世界を築き上げた。昔の世界とはまるで違う風習も数多く生まれ、ほとんどの国で〝聖獣〟の制度を取り入れた。
しかし、大きな変化が突如、現れた。十八年前、パクスミール国の一部の人々が声を揃えて言ったのだ。「方針が合わない者同士の馴れ合いは不要」。そして、大運河を挟み、パクスミール国は二つに分裂した。
その離れて独立した国が、ガニアント国と言った。
それぞれの国の運営方針は、相反するものだった。早い話が、パクスミール国は民主主義国家、ガニアント国は独裁国家である。
パクスミール国がガニアント国と分裂した後、十五年間、この両国でしばしば小戦争が繰り広げられた。本来は一つの国であったこともあり、明確な領土の線引きもされていないことや、他にも不都合が生じたことによる人々の諍いが戦争に発展することは、決して珍しい話ではなかったのである。
きな臭くなってきた時代の流れで、学校教育においても「身を守る」ための方法――つまりは、いずれも簡単なものではあれど、格闘術、剣術、攻撃魔法、防御魔法といったものが教科に含まれるようになった。
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