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Story.47 妙策

 洞窟を飛び出した彼らは、全速力でパクスミール国軍とガニアント国軍がぶつかり合っている戦場へと向かう。先頭はホノオに跨ったガイア、その後ろをキャンナに跨ったオヴィアス、上空をベルに乗ったクォーツ、最後尾をバイクに乗ったラドンとタイニーが進む。

 ガイアは、手に握っている〝妖精の杖〟を見下ろした。


「ねえラドン、この杖、あとは魔力を解放するだけでいいのよね!?」


 問われたラドンがバイクの速度を上げ、最後尾から先頭に並走する形で進み出る。


「戦場でな。ただ問題は、連中が戦ってる戦場のど真ん中に、高くなってる場所があるかってことだ」


 ラドンによると、〝妖精の杖〟は敵も味方も一望できる場所で魔力を解放することが望ましいらしい。国民全員で平和への願いを込めた魔力を水晶に注いでいたなら、どこで解放しようと国全体を覆うほどに力を発揮するだろうから場所を選ぶ必要はないが、ガイアが持っている杖に込められたのはたった四人分だ。規格外に強い魔力を持った二人分を考えると、通常の四人分よりは多いだろうが、やはり量が知れている。加えて、全員激しい戦闘を終えた後なので、いつもより魔力濃度自体が薄くなっていることを加味すると、影響範囲がかなり限定される。ならば、一番激しい戦闘を行っている場所の中心部、とくに高い場所で解放することが、最も効力が期待できる。


 どうしてそんなことをラドンが知っているのかと聞けば、図書室の本で昨晩、一人でしれっと調べていたとタイニーが暴露してくれた。ラドンに頭を叩かれていたが、つくづく抜け目のない男である。


「なあ、その話だけど、ベルに乗るんじゃだめなのか?」


 空からクォーツが問い掛けると、「無理よ」とほとんど即答でガイアが答えた。


「〝聖獣〟は主人と魔法の波長が合うからできることがあるの。ベルの場合、クォーツと魔法の波長が合うから、そんなにバランスを保って飛んでいられるのよ。私が乗ったら間違いなく落ちるわ」


 大怪我を負ったクォーツとベルを、ホノオに乗せて神殿に連れ帰ったときは、あくまで二人が意識を飛ばしていたからできた芸当だ。すなわち、ただの荷物の扱いであった。もし意識があったら、ライオンと魔法の波長が合わず、乗った瞬間から盛大に酔って目が回り、転げ落ちていたはずである。


 ガイアは高いところで、〝妖精の杖〟の魔力の解放をしなければならない。かなりの集中力を要する分、ベルに乗って空に舞い上がることは現実的ではない。


≪……つまりクソ主が、杖の魔力を解放できる力があれば、全て解決だったと≫


 気付いてしまった様子で呟くベルの言葉に、クォーツが「おお」と頷く。


「そういうことか! ガイア、俺にできると思うか!?」

「やめて、全部無駄になる」


 逡巡する間もなく却下だ。自分自身の魔力を、杖を介して解放するならまだしも(それすら魔法音痴であるクォーツには怪しいが)杖に溜まっている複数人分の魔力を押し出すなんて、よほどの技術がないと難しい。戦場に向かって走っているメンバーの中で、それができるのは巫女であるガイアか、禰宜であるオヴィアスの二人だけだ。どちらも、儀式の際に〝聖獣〟を生み出すため、他人の魔力に触れることには慣れている。


 ガイアは考える。地面から蔓を伸ばすことはできるが、その場合は乗ると言うよりも自分の身体を縛って天高く持ち上げる形だ。だが、蔓自体に柔軟性がありすぎるため、不安定さが否めない。しかも戦場のど真ん中なのだから、戦っている者達の攻撃で蔓を切られれば即アウトだ。大樹を生やすこともできなくはないが、こちらは魔力の消耗も激しい上に維持が難しい。第一、上に乗るという前提を満たしにくい。ぐんぐん伸びる木に掴まり、増える枝葉にも対応するのは非現実的だ。木登り自体は好きだが、あいにくと猿ではないので安定性は期待できない。


「見えてきた!」


 クォーツが頭上から叫ぶ。遠目でも、激しい土煙があがり、攻撃魔法の光が飛び交っている。


「どうする?」


 バイクを運転しながら、片手で既に刀を抜いているラドンが問い掛ける。戦場に赴くには、こちらに降りかかってくる火の粉を払うという意味でも武器は抜かねばならないだろう。


 攻撃魔法から漏れ出す、粉末状の魔力が空気を漂う。硝煙の匂いが風に乗って彼らを包む。ガイアは、心臓の動悸が早くなるのを感じていた。手に変な汗がにじみ出る。自ら近づいて行っているので当たり前だが、必要以上に剣戟や爆発音が耳に飛び込んでくる気がする。


(ホノオの足に魔法をかけて、ジャンプの高さを上げるってこともできるけど……空中で留まることはできない)


 〝妖精の杖〟の魔力を解放するための条件を満たすことができていないのに、目に見える形でどんどんタイムリミットは迫っている。足を止めれば考える時間は作れる。だが、鬨の声と断末魔が重なって聞こえてくると、足を止めることなどできない。


 そのとき、ふとクォーツが顔を上げる。


「……いけるかも」

「え?」


 思わず問い返した声は、全員が重なった。


「俺が指示する!」

「え、え!? どうするのよ!」


 何も詳細な説明がないことに、ガイアは不安一色だ。しかし、戦場はもう目の前である。既に周りにちらほらと立つガニアント国の兵士や〝聖獣〟が、こちらに気付いて魔法の光弾や光の矢を放ってきていた。それらから、クォーツが早口で唱えた防御魔壁で全員が護られる。


「悠長に説明してる暇、もうねえだろ! ガイアは〝妖精の杖〟しっかり握っとけ!」


 強い光が灯った翡翠を向けられ、ガイアは不安の言葉を並べ立てようとした口を縫い付けた。

 ぐるりと、クォーツが後方へ首を回す。


「そんで頼むぜ、オヴィアス!」

「え、僕!?」


 自身も合意の上で〝妖精の杖〟に魔力を込めた。そして、あんな形でガイアやクォーツに認められた以上、この戦争の結末を見届ける責任があるとして、共にやってきたオヴィアスは思わず目を剥いた。あくまで己は見るだけであって、所謂作戦のようなものからは蚊帳の外だと思っていたのだ。


「おう!」


 親指を立てて見せる金髪の彼に、ガニアント国の禰宜は絶句する。この最終局面にしてまだ敵であった相手の力を使おうというのか。


(僕の魔力、ほぼ底をついてるんだけど)


 しかし、そんな風には言えなかった。利用しようという薄汚い思考を感じない。彼の短い言葉から感じられるのは、頼りにしているというさっぱりとしたものだ。協力を求められる点では同義であるだろうに、向けられたことのないタイプの依頼はこそばゆく感じられる。オヴィアスはキャンナの首に触れている己の手に力を込め、深呼吸をした。上空を飛ぶ彼に、大声を張り上げた。


「期待しないでよ!」

「おう、期待してるぜ!」

「会話して!?」


 近くから、攻撃的な叫び声が響き渡る。防御魔壁では防ぐことができない物理攻撃。横合いから突然乱入してくるガイア達一行に慄いた後、混乱した兵たちが鋼の剣を携えて飛び掛かって来る。最早、パクスミール国の者なのかガニアント国の者なのか、判断する時間も惜しい。急降下したベルが翼で、刀を手にしたラドンが峰打ちで、兵士たちを一掃する。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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