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Story.42 共同戦線

 そこかしこにある氷が光り、最早飽きるほど見た氷人形が現れ始める。最初に見た時よりも早いペースでどんどん立ち上がり、氷の武器を構える。動くことのない笑顔の表情が向けられる。


「ベル、お前は上から援護して欲しいんだけど、行ける?」

≪はぁ? そんくらい余裕だっつーの≫

「じゃ、頼んで良い?」

≪俺様はテメェの〝聖獣〟だ。主のテメェに従う他、ねえだろうが≫


 ふんと顔を背けながら翼をはためかせている大鷲の様子に、ホノオが首を傾げた。前のときと少々様子が違う。主人に対する態度というか、言う事を聞くという意味で、まるで人が……否、〝聖獣〟が変わったようだ。ライオンが口を開く。


≪……心機一転か?≫

≪そ、そんなんじゃねえよ! ただ……≫


 言いにくそうにしている反面、訴えたいような微妙な雰囲気。近づいて耳をぴくぴくと動かしてやれば、ベルは辛うじてホノオには聞き取れるくらいの小さな声で言う。


≪……あのクソ主、俺様を庇いやがったんだよ……村の傍で攻撃されたときに≫


 滅亡した小さな村の上空で、受けた攻撃。初めは、クォーツの指示と自分の意思の両方で機敏に躱していた。だが、ガニアント国のコインが視界に入ってきて、予想もしないものを慌てて認識しようとしたため、自分自身の思考が遅れた。予想外の出来事に対して思考が遅れるのは至極当たり前のことであったが、このときは命取りになった。

 ベルより先に次の攻撃に気付いたクォーツは、咄嗟に己の魔力を最大限に引き出し、防御魔壁を生み出した。白い光は瞬時にクォーツとベルの二人を覆い隠し、その直後、飛んできた光弾は二人を貫いた。弾き返すことができなかったので、防御魔壁の強度を上回るものが放たれたのは確かであったが、それでも威力を半減させる程度には働いた。


 〝聖獣〟は主人の魔力から生まれる分身だ。再召喚などは例がないが、理論上不可能ではない。事情が事情なら神殿も対応してくれるだろうに、クォーツはベルを護ったのだ。

 ああ、と納得したようにホノオはクォーツを見やる。なるほどベルが〝聖獣〟として従う気になるわけである。


「またこいつらか」


 ガイアたちに歩み寄りながら言うラドンは、すっかり辟易していた。氷の扉の前で、何十体壊したか分からないのに、それを勝る数が周りを取り囲んでいるのだから当然である。

 巫女は、一旦槍を杖に戻してから、ラドンの太腿に手を添えた。黄金色の光が宿り、傷口が塞がっていく。


「頭の怪我も治すから」

「そんな暇ねえよ。少し血が抜ける位で丁度いい」


 ずっと同じ敵ばっかでだんだん苛々してたからな、と軽くラドンが手を振った。

 氷人形の大軍の向こうに立つ少年と、オレンジ色の虎が、険しい顔でこちらを睨んでいる。


「ガイア。氷の奴らは俺達に任せとけ」

「……仕方ねえから、付き合う」


 親指を立てて明るく笑い、地面に突き刺していた石の剣を引き抜いて構えるクォーツ。治った足を確かめるように何度かその場で足踏みをして、額の血を袖で拭いながら刀を構えるラドン。

 二人の広い背中を見つめながら、ガイアは徐に、携えた杖にこつりと額を当てた。


(私、救われて、護られてばっかりね)


 両親を己の魔力のために失ってから、ずっとだ。

 最初は、一人きりになったところをケイに救われた。カピジャで心を閉ざし続けていた自分を支えると言ったクォーツに、支えられてきた。流れ者のラドンとはほとんど交流がなかったはずなのに、今回の件でこれでもかというほど命を張ってくれた。


 それだけではない。強大な魔力を持っていると、幼少期から分かっていたのに、ラコスデント神殿の者達は怯えたりもせず、心広く接してくれた。〝妖精の杖〟を手に入れることだって、一人だったら場所を特定することすらできなかった。

 幼少期、誰かを傷つけてしまうなら、一人で生きる他にないと思ったものだったが、いつの間にか周りには沢山の人がいた。


 そして、皆が、戦争を止める望みをガイアに託し、共に戦ってくれている。


「……ホノオ。私、宣言するわね」


 ホノオの首を撫でながら、ガイアは笑う。


「私は。殺すためではなく、オヴィアス・エパナスタを倒すために、魔法を使うし、〝聖獣(あなた)〟も使う」

≪承知した≫


 力強く頷き、自身の魔力で腹部の傷を癒すと、ホノオにひらりと跨りながら杖を槍の姿に変えた。

 白いライオンが、洞窟中に響き渡るような大きな咆哮を上げ――それが、戦いの火蓋が切られる合図となった。


 氷人形たちが一斉に動き出す。

 高く舞い上がったベルが翼を大きく広げると、そこから矢と同等の鋭さを持った羽が舞い上がり、大量に射出された。ドドドド、と連続で氷人形に突き刺さり、粉々に割れていく。まるで道を作るために山の木をなぎ倒すがごとく、オヴィアスの元まで一直線に空間が出来上がった。ガイアを乗せたホノオは氷の破片を踏みつけながら、少年に向かって突っ込んでいく。


 阻止しようとしているのか、氷人形の一部がガイアとホノオの方に身体を向ける。が、そんな人形たちの中心に、試験管が一つ投げ込まれた。瞬間、閃光が走り、小さな爆発が起きる。爆発領域にいた人形たちは成すすべなく砕け散った。煙の中から、石の剣を持ったクォーツと、刀を持ったラドンが躍り出る。


「お前らの相手は、俺達だ!」

「とっとと散れ」


 ラドンが刀を振りかぶり、魔力を込めながら振り切る。視覚化された三日月型の刃を空中を滑り、遠方にいる氷人形まで一気に切り裂いていった。


 魔法が上手く使えるとそういう戦い方ができるからいいよなぁ、とクォーツは思う。一方で、ラドンはラドン、自分は自分だと、ない物ねだりをしても仕方がないと気持ちを切り替える。下から片手で一気に振り上げられた氷の剣に対し、両手遣いに握った石の剣を真っ向から振り下ろす。片手で振るわれた剣よりも、両手で振り下ろしたものの方が、力が強いのは自明の理だ。がしゃん、と氷の粉砕する音が響き渡る。

 視界で華麗に刀を振るうラドンの後ろに、氷の斧を携えた人形が迫るのが見えた。ラドンも気付いているようだが、先までの戦いで疲労が重なっているせいで動きが鈍く、間に合わない。


 クォーツは早口に呪文を唱え、指先をラドンの背後に向けた。細い光が走り、黒髪の彼の背に到着した途端、全身を護る大きな光の盾が描き出され、現れる。振り下ろされた斧は光の盾に阻まれ、氷人形が踏鞴を踏んだ。そんな隙をラドンは見逃さず、振り向くと刀を突き出して体の中央に深々と刺しこんだ。がしゃん、と音を立てながら、斧を操った氷の兵士が崩れ去る。


「……今の凄いな」


 ラドンが思わずと言った様子で呟くと、クォーツは得意げに笑って、指でピースサインを作った。


 光の盾を生み出す魔法は防御魔法の一つであるが、防御魔壁のように予め張っておくこともできない上に維持できる性質でもない。瞬間的に呪文を唱えて生み出す必要がある魔法だ。しかし、呪文の内容も難解で修得する者も少ない。しかも自分にではなく他人に向けて発動するには、相手の位置の座標を正確に呪文に組み込まなければならないので、難易度が一気に跳ね上がる。

 どうにか〝聖獣〟を召喚することができる程度には魔力を引き出すことが可能になり、頭の回転も早く、防御魔法に特化して勉強を行ったクォーツだからこそ、できる芸当と言えた。


 クォーツの両側から氷人形が飛び込んでくる。剣術も真面目に勉強はしたが、ラドンのように上手くは立ち回れない。


「ベル!」

≪はいよ≫


 急降下してきたベルが、クォーツの肩を足で掴み、空中へと逃がす。先ほどまで自分がいた場所で、飛び込んできた二体の氷人形同士が派手にぶつかった。お互い、構えていた氷の剣と槍が突き刺さり、同士討ちで粉々に崩れていく。


 ベルに下ろしてもらい、正々堂々と正面から斬りかかって来る氷人形を迎え撃つ。鍔迫り合いになって動けなくなると、横合いから氷のナイフが投擲された。

 やばい、躱せない、と思ったところに、黒髪の彼が間に飛び込んでくる。素早く刀で飛んできたナイフを叩き落し、遠方からその攻撃を放った氷人形に一太刀を浴びせる。


「ありがとな、ラドン! すっげーな!」

「いちいち礼を言うな。目の前の敵に集中しろ」


 一応のつもりで指摘をするが、振り向いた視線の先で、既に鍔迫り合いをしていた相手の腹を強かに蹴り飛ばし、石の剣で顔面を叩き割っていたのだから、人の好さそうな顔をしてこの男も末恐ろしいものがあるなと、ラドンは密かに驚いた。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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