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Story.14 情報

「……で、結局、何しに来たんだっけ?」

「あ、はい。カピジャで広まってる噂のことで……あの、病気が大流行してる村の話です」

「あー……あれか……え、何? お前のトコまで広まってるの、その噂」


 クォーツの故郷は、エプリサテナから少し離れた田舎村だ。この町の中で留まっている噂だと思っていたらしい。


「いや、今日ほら、儀式の日じゃないですか。それで神殿の方に手伝いに行ってたんですけど……儀式を受けに来た人が言ってたんですよ。普段はエプリサテナに住んでるみたいなんで、この町じゃかなり広まってるみたいですけど」

「なるほどなぁ……その話を聞きに来たのか」


 ディオが苦い顔を作り、一度眼鏡のブリッジを押し上げて腕組みをした。

 彼が黙り込んでしまったので、紅茶を飲みながらクォーツは応接室の部屋の中を見回す。魔法学の本がぎっしりと並んでおり、壁一面が本棚だ。毎年内容が変わっている教科書も全て並んでおり、見覚えのある懐かしい背表紙がいくつかあった。


「私達の間でも把握してるよ、その話は」


 親からも苦情が来てるんだよなぁ、と煙草を噛みながら愚痴のように呟く。


「教職員の間でも、事実かどうか分からない話なんかするもんじゃないって注意はしてるんだがな。噂は一人歩きするもんだし、人の口に戸は立てられないって言う通り、効果が全然ない。時間が経って自然消滅してくれるのを待つしかねえってところかね……」

「誰が最初に噂を流したかとかは?」

「さてねぇ」


 煙草の煙が空気中に漂っては、薄く伸びて、溶けて消えていくのを眺める。


「そんな噂、いちいち追っかけてられねえし……誰が最初にっつっても今更分からねえわなぁ」


 確かに、噂というのは広まってしまうと、出処がはっきりしなくなる。

 最初の内は、誰がこう言っていた、と補足が付いてくるが、その内、みんながこう言っている、になってしまい、最初に言いだした人間は存在が薄れてしまう。しかも、クォーツが聞いている噂は、昨日今日で広まったものではないようだから余計に厄介だ。漠然とした噂なので、どんな形で尾ひれがついていてもおかしくない。本当は大流行ではなく、一人二人が病気にかかった程度なのかもしれないし、そんな事実はない悪趣味な噂である可能性もある。


「でも村の場所は何となく聞いてるぞ。名前もついてないような、本当に小さい田舎村みたいだがな」

「え、本当ですか!」


 身を乗り出したクォーツに、ディオは両眉を上げた。


「何だお前さん。まさか見に行く気か?」

「はい! 元からそのつもりで。村の場所が分からないかなーと思って、ここに直接噂を聞きに来たっていうのもありますし。多少遠くても、ベルに乗れば時間もそこまでかからないし」

≪ベル〝さん〟だ、クソ主≫


 黙っていたベルが不機嫌そうに言葉を挟む。ディオはベルに視線を向けると、しみじみと頷いた。


「……なるほど、一緒にいるからそうだろうとは思ったが……ゾイロも〝聖獣〟を従えられるようになるとはなぁ……」

「先生までそう言う事言う……」


 教師だからこそそういう感想が出てくるのだが、クォーツが〝聖獣〟を連れていることについては、散々周りから驚かれた身だ。魔力の扱いが下手であった自覚はあるものの、これほど皆に同じ心境を語られては、複雑である。


 ふいに、ディオが手を広げると、筆立てに立てていた万年筆とメモ用紙がふわりと浮き上がり、空中を浮遊してやってくると、その手に収まった。さらさらと紙に万年筆を走らせ、クォーツの方へと放る。

 受け取ったメモを見てみると、そこには手書きの地図が書かれていた。かなり雑なものだが、目印になりそうなものがいくつか書かれているので、地図としての役割は果たしそうだ。


「生徒たちの噂によると、村ってのはそこにあるらしい。持って行きな」

「うわ、まじですか!?」


 黒い大鷲が、後ろから主人が持っているメモを覗き込む。そして、あからさまに嫌な顔をした。想像していたよりも遠かったのだろう。実際、それなりに遠方なのでわざわざ確認に行く者がいないのが現状だ。


「でも、根拠も何もない噂だからな? そもそも、そんな名前もつかないような田舎村のことが噂になる事自体怪しい。村すらねえってオチの可能性が高いんだから、がっかりすんなよ?」

「大丈夫です! 見て何も無かったら、あー良かった、って帰るだけですし!」


 ありがとうございます、と喜ぶ姿は、カピジャにいた頃のクォーツそのものであった。素直な奴だとディオは笑う。明るい性格の彼だからこそ、友達も多かったのだろう。そしてそんなクォーツが、きっとガイアの支えになり得たのだ。


 外に出たクォーツは、ディオに感謝の言葉を伝えながら、ベルの背に乗り、いざ村へ向かわんと意気揚々と空へ舞い上がろうとし、


「だから門を通れっつってんだろうが!!」


 恩師が魔法を込めて投じた灰皿は、クォーツの顔面に直撃し、再び地面の上へ戻って来た。


 ちなみに、ザマーミロ、等と宣ったベルは、分かっていた上で己の主人に忠告せず舞い上がろうとしたことがディオにばれ、〝聖獣〟が主人を陥れてどうする、と怒鳴られた。主従関係が成っていないだとか、クォーツもクォーツで主人らしさが足りないだとか、ドジが過ぎるとか、兎に角様々な側面において、二人は長々と説教を受けることと相成った。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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