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Story.11 噂

 さて、意気込んだガイアであったが、その後、驚くほどに何も起きず、淡々と日常が過ぎていった。立て続けにグリフォンのコインが神殿に届くこともなく、謎の怪我や病気についても相変わらず原因は判明していないまま。ガイアとしては拍子抜けだ。


『お前のばーちゃん、実は何かあったのに隠してるんじゃねえの?』


 心配させねえようにって。そういうことしそうな人じゃん。

 そんな風にクォーツは話した。彼は、己の〝聖獣〟を持ったことで行動範囲が広がり、ベルに乗って以前よりも頻繁に神殿を訪れるようになっていた。ガイアとてかなり気を付けて色々な情報に耳を傾けているつもりだが、大神官であり神殿を管理する立場であるケイなら、隠している可能性もあるかもしれない。クォーツの助言に従い、ガニアント国からのアプローチがあったのに隠しているのではないか、とケイに詰め寄ってみた。


 結果、そんな大事な事を隠すわけがないだろう、と半ば本気で怒られた。どうやら本当に何も起きていないようである。さらに、神殿内の者にしか話していない機密事項を、幼馴染とはいえ外部の人間に漏らしてどうする、守秘義務が足りない、と別方向から盛大に怒られた。(その後、神殿にやってきたクォーツが盛大な八つ当たりを受けることになる)


 神殿に暮らす人々も、夜の集会があった直後は、戦争に備えるだの戦い方はどうだのと物々しい雰囲気を漂わせていたが、一週間、二週間……と日が経つにつれ、少しずつ元の落ち着きを取り戻した。

 一ヶ月が経ち、二ヶ月が経った。グリフォンのコインはただの悪戯か、間違いで届いたのではないか、と思う者が出てきた。そういえばそんな話もあったな、と記憶の彼方になった者も出てきた。



 そうして、ガニアント国の名前が、皆の口から出ることもほとんど無くなった、三ヶ月目。

 月に一度の儀式の日のことである。


「――何ですって?」


 思わず、〝聖獣〟を生み出そうとしていたガイアの手が止まる。視線は、目の前の儀式を受けようとしている者ではなく――神殿内で列を成している中、知り合い同士で来たのであろう二人の男女だ。特別大きい声で話していたわけでもないようだが、たまたま巫女の耳が彼らの言葉を拾ってしまっていた。

 出し抜けに声をかけられ、まだ順番待ちだと思っていた男女が驚いた様子でこちらを向く。


「今、貴女たち、何て言ったの?」


 戸惑ったように二人は視線を交わし、改めてガイアを見ながら口を開く。


「それが、最近、変な病気が大流行してる村があるらしくって……カピジャで噂になってるみたいなんです」

「変な病気……?」


 ガイアの眉間に皺が刻まれる。

 確かに、原因が不明のままの病気や怪我は、今も複数報告が上がっている。だが、劇的な広まり方を見せている話は最近聞いていない。ガイアも治療に回る活動は続けているし、巫女の身勝手すぎる行動を見かねたケイが、やむなく神殿でも治療班を編成し派遣しているのが現状だ。補足だが、治療班ができたからといって、ガイアが治療活動を辞めたわけではない。


 それにしても、神殿が把握していない情報が、既にカピジャで噂になり町に広まっているとは、どういうことなのだろう。根も葉もない噂なら子供の戯言として聞き流すが、原因不明の病気、というだけで既に根が存在する話だ。無視をして良い話とは思えない。


「ねえ、その話もうちょっと詳しくっ……」

「ガイア」


 後ろから歩み出てきたケイが、ガイアを諫めるように杖で床を叩いた。一声しかかかっていないのに、言葉に棘がある気がして巫女の表情が引き攣る。


「あなたには儀式があるでしょう。彼らの話は私が聞きます」

「あ、じゃあ、俺も聞く!」


 思いもよらぬ方向から声が飛んできて、ガイアとケイは揃って首を回した。今日は儀式で沢山の人が集まる事を知っていたクォーツが、大量の洗濯物を抱えた状態で手を振っている。横には非常に不機嫌な顔をしたベルが、頭に洗濯物を乗せて宙に留まっている。さらにその後ろには、おろおろしているエプロン姿の侍女がいた。


「ちょっと急ぐな!」


 彼女を伴いながら柱の向こうへ消える。清められた水が溜まっているところまで、洗濯物を運びきるつもりなのだろう。

 程無くして、どたばたとベルと共に戻ってきたクォーツは、ケイの元へと走り寄った。ケイは、ガイアが既にこの青年に色々話してしまっているのを知っているからか、話に加わることを黙認しているようだ。


「俺が聞いておくし、何なら調査も俺が行って来るから、ガイアは安心して儀式に励んでくれ!」


 ぐっと親指を立てて得意げに言う幼馴染に、ガイアは、


「……寧ろ不安になるのは何でかしらね」

「どうしたら俺の信頼度って上がるの?」


 しかし、儀式を放り出して出ていくわけにもいかないのは確かだ。現状、〝聖獣〟を生み出すことができるのは、ガイアをはじめとした巫女が六名ほどに、大神官であるケイの合計七名。しかし、ケイは老齢なこともあり、非常に長い時間、集中力と魔力の消費を要する儀式は負荷がかかりすぎる。巫女が中心となって対応するしかなく、下手したら千人弱は儀式を受けに来る者たちの数を考えると、明らかに人手不足。抜けることは難しい。


 仕方なく、クォーツとケイに話を聞くことは任せ、儀式に心の置き場を戻す。ガイアは、大人しく己の列に並んで待ってくれていた相手に丁寧に詫びを入れ、〝聖獣〟の召喚を始めた。

拙作をお読み頂きありがとうございます。

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