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第22話 加速する破滅

遅れてしまい、まことに申し訳ございません。

 フラギルが構えた盾をすり抜け、ノリヒラの握る短剣がフラギルの体に肉薄する。


「無駄だ、<不撓筒ウカノウ>」


 しかし下から発射された光線に、短剣を持つ腕ごと軌道が捻じ曲げられる。


(ーーなんだ⁉︎)


 ノリヒラは体勢を崩しながら地面に目をやると、街のタイルと同じ色をしたフラギルの生首が、口を開けて生えていた。

 ノリヒラは目を見開きつつ、地面に倒れ込んで無防備な姿を晒すまいと、大きく身を捻って後ろに跳びずさる。そして土煙を上げつつ着地しふと目線を上げると、目の前ではフラギルの生首が増殖し、全ての目がこちらを睨みポッカリと口の中の闇を見せていた。

 フラギルは自身の口も開き、光を収束させる。


「ーー威砲アーブラス


 ーーノリヒラの視界が白く染まる。

 フラギル曰く制圧射撃であるらしい威砲アーブラスは幾条にも撃ち放たれ、制圧するという域を超えた火力でノリヒラに殺到し、ズズン、と都市全体を震わせる。


『おぉっ、すげぇ威力!』

『さすがフラギル様です』

『や っ た か ⁉︎』


 並の怪物であれば爆散し、跡形もなく消し飛んでいるであろう威力。その威力はかの魔蟲皇の軍勢を押し留め、リーシュパルの陣を切り裂くほど。

 ……だが。


「さすが勇者と言われただけあって、硬いな」

「今も勇者してるんだよ」


 白煙の中、ノリヒラが何事もなく立ち上がる。

 ふと、フラギルの視線がノリヒラの足元に転がる肉塊・・に移り、輝いていた眼が暗くなる。


「貴様の防御性能はやはり、他人あってのものなのだな。まさか自身を守る盾を使わず、曲がりなりにも貴様を慕う臣民を盾にするとは」

「失礼だなー、こいつらが割り込んできたんだよ」

「我には貴様の手で引き寄せたように見えたのだがな」

「どうせなら完全に僕を守れる位置に移動させた方が良くない?」


 フラギルの眼が黒く染まり、キュオンと、口には先ほどよりも大きな光球が生成される。

 しかし。


「させると思って?」

 

 光線を発射せんと構えたフラギルの背後から、アモーランが風刃や氷塊をぶつけてくる。


「ノリヒラ殿から離れろォーッ!」

「おい待てカナタ!こっちの相手はっ、のわぁ⁉︎」


 さらに、リーシュパルと刃を交えていたはずのカナタが疾風の如く突撃してきて、刀をきらめかせ剣閃の牢獄をフラギルに叩きつけた。

 ガガカカカッ、とフラギルの体が揺れる。

 しかし、フラギルの防御性能はさすがといったところだろう。


かゆい」

「くぁっ!」


 それらを意に介さず盾を振りかぶり、剣撃の格子を粉砕しながらパゴォ、とフラギルはカナタをリーシュパルの元まで叩き返す。


「すいません、フラギル殿!」

「問題ない」


 そうフラギルは言うが、高火力のビームを何本も打ち込めども、勇者を守護する圧倒的な防御力を有するシールドと、勇者の信奉者どもが作る人の城に全て弾かれ、攻めあぐねていた。

 そのため、フラギルは全て殲滅することを決める。

 重厚な金属音と共に腹の留め具が開かれ、勢いよく閉じられる。その腹に収まっている石が、輝きを増し、光の飛沫を撒き散らす。

 ーーフラギルの立つ地面が割れ、その割れ目から光が漏れる。



「<万地覇導並列砲ノセス・ヤロ・ハレマ>」


 

 瞬間、衝撃と共に大地が割れ、フラギルの足場が空を飛ぶ。

 その光景を言い表そうとするならばそう、魔蟲皇サバニキスとの戦いで見せた壁がビームで空を飛ぶ光景の再現のよう。そしてその足場は、やはりサバニキスをすりつぶした時のように光の螺旋を描いて回転する。  

 ーーただし砲口は地面に向けて、だが。

 轟音と共に閃光が空気を熱し、地をく。

 人類を滅ぼしかけた魔蟲の軍勢を、真正面から打ち倒したその威力は勇者の信奉者らにも効果てきめんで、多少のシールドなどガラス細工のように粉砕し、減衰することなく光の柱が殲滅していく。

 その中でーーリーシュパルとフラギルは、テンプスとクラウ=デモスが散ったのを感じ取った。

 フラギルの元に甘いような、旨みを含んだ幸せの味が送られてくる。それを咀嚼するかのようにカチカチと口を打ち鳴らし、フラギルは満足そうに言う。


「勇者の魅了は洗脳に等しく、その効果は対象が死してなお続く。が、リーシュパルがいればその限りではなく、またあの者らも同じく解放できる……か。あの者らには愛するものを自分の手で殺させるという非道な行いをさせが、満足したようで何よりだ。」


 しかしそう満ち足りた様子のフラギルと違い、リーシュパルは逆に動揺する。もちろん、二人がいなくなったからといって二人の力を受けていたリーシュパルが弱体化したわけではない。むしろ、勇者の信奉者を解放し、その者たちの想いを糧にしてどんどん強くなっていたのだ。

 ーーそう、ただ動揺しただけなのだ。

 その一瞬、たった一瞬の隙を見抜かれ、リーシュパルの首が落ち、空洞の両手が切り飛ばされ、鎧が蜂の巣にされ、リーシュパルは地面に倒れ伏すこととなった。

 

「よし終わった。早くノリヒラ殿に助太刀しにいかねば!」

「おう!! ……あのクソ聖女にもらった弾、あと一発打ち込んでおくか」


 念の為、というやつであろうか。パァンと乾いた銃声が鳴り響き、鈍い金属音がリーシュパルの兜に穴が開く。

 二人の足音が急速に遠ざかっていく。

 倒れ伏し、歪んだ視界で、リーシュパルはフラギルが四人と戦っているのを眺める。

 その光景を見て心中ではどんな感情が渦巻いているのだろうか。

 ーー後悔か?

 ーー怒りか?

 ーーそれとも懺悔だろうか。

 残念ながら、いずれも光を失いつつある目からは読み取れない。

 あぁ、地面を揺るがす轟音すらもどんどん小さくなってくる。


「ーーっ!」


 しかし、恐ろしいほどの剣圧をまとった短剣をフラギルの掲げた盾に激しく撃ち下ろしたノリヒラの後ろで、さらに危険な、一種の妖気を体にまとい太陽かと思えるほどの火球を撃ちだそうとしているアモーランの姿が見えた。

 もちろん、フラギルはそれを威砲で牽制しようとするが、そのためにあげた左手がカナタの強打によりあらぬ方向へと逸らされる。

 ーーだめだ、それだけは。そう思ったリーシュパルは体を跳ね上げ、動くために燃焼させるものなど何も無くなったその身をきしませ、フラギルの前に己を滑り込ませた。


「ーーッッ! ガァぁぁっアァーー!」


 ほむらが自身を焼く熱を感じる。自身の体が融解していくのがわかる。

 リーシュパルはその身を炎に包まれながらも、やはりフラギル殿から貰ったこの鎧が溶けるのだから、フラギル殿に当たってもタダでは済まなかっただろう、そう思っていた。

 バシュゥゥ、と赤熱し溶け崩れた鎧が、いや全身が、地面に落ちていく。


「ガァアァァァ!」

 

 それを見たリーシュパルは咆哮し、地面から無数の光線を発射してまとわりつくノリヒラ達を吹き飛ばした。

 フラギルは無言で膝を折り、その赤黒い沼の中からリーシュパルを引き上げ抱き抱える。

 黒に染まったフラギルの眼球に反射したリーシュパルの姿のむごいこと。鎧は熱によりへしゃげ、折れ曲がり、溶け落ちた部分がリーシュパルの霊体をあらわにしていた。 

 リーシュパルの鎧がフラギルの腕にドロドロとからみつく。


「元よりこれは私たちの戦いです。 あなたを巻き込んでしまってごめんなさい。あなたはーー逃げーー」


 そうリーシュパルがフラギルの腕の中で言った瞬間、鎧が、霊体が、存在が消えてしまった。

 ーー水が指の間を流れ落ちていくかのように。

 フラギルの背で、銃口から轟音が何度も吐き出され、刀身に写った光が何度もひらめき、魔法が発する光が豪雨の如く殺到し明滅する。その衝撃にフラギルは思わず数歩、よろめいた。

 フラギルの身にまとった赤銅色の装甲が、音もなく消える(・・・)

 フラギルの鈍色にびいろに輝く体が何度も加えられる攻撃により、ピシ、ピシとひび割れていく。


「今がチャンスだ。カナタ、アモーラン、受け取れ! <期待エンハンス>! ……自分で戦うより他の人に戦わせた方が効率がいいってホントどうなんだろうね」

「いいじゃねぇか、効率。その言葉俺は好きだぜ?」


 カナタとアモーランの体が白に輝き出したと思った瞬間、リーシュパルの体を押しつぶさんとするかのように圧がかかる。


「<封陣>! 動きは止めた、あとはアモーラン殿!」


 ギ、ギ、ギと折れ曲がるフラギルの頭上、その天頂に小さな紅の光がまたたく。


「世界を究するは我が研鑽。溶け合い混ざり固まりて! 古きを滅し、新しき世界をひらく星となれ!<原初滅する明けの(ウル・メテオ)>‼︎」


 フラギルの頭上で赤い光が十字に輝き、隕石が世界を滅ぼしたとうたわれるほどの質量と熱量をもって、フラギルの体にのしかかってきた。

 腹に響くほどの重苦しい音と共に地面が陥没し、放射状に放たれた衝撃波が砕けた土塊を辺りに吹き飛ばす。


「ふ、ふふっ、フハハハハハハ!」


 フラギルはその体を衝撃に軋ませながらも大口を開け、高らかに笑う。

 その口に隕石から噴き上げる炎が入り込み、フラギルの内部を焼く。


「逃げる! 逃げるだと? 喜びを味わうことを邪魔された、この我がか!」


 全身を焼かれながらフラギルは以前、魔蟲の脅威から街を救い、後もう少しのところで喜びの味を味わえるというところまで行き、その最後で勇者によって吹き飛ばされたことを思い出す。

 奇しくもこの状況は以前、魔蟲皇を自身が作り出した巨石ですり潰した時の光景と似ていた。


「せっかくここまできたのだ。また奪うのは許さん。許せん‼︎」

 

 ーー以前と違う点はといえば、フラギルが隕石を真っ二つに砕き割ったことであろうか。

 かかげた拳が焦熱の飛沫を撒き散らし、全身を緋色の炎が包み込み、マグマがつたう。



「絶望をもたらし、災禍を振り撒く。それでもなお、世界に愛が満ちているというのならば! 我はこの狂い果てた今を焼き捨てよう‼︎」


 ガッキ、と両端に開き切った腹の、ハサミのような留め具に両手がかけられる。その中心に留められた石がカァ、と光を放ち真っ赤に染まる。

 ーーフラギルの周囲の空気が熱で歪む。


「さぁ、ちりすら残さず燃え尽きよーー<属性変甲メライン>」


 ーーガキョォォン

 留め具が軌跡を描き、勢いよく閉まる音が響く。

 その瞬間、フラギルからその身中で荒れ狂っていた熱波、熱風、火閃の類いが放出される。

 フラギルの立った大地は放射状に吹っ飛び、家は発火し瞬時に灰へと崩れ落ち、城の尖塔が半ばから焼き切られ、鐘楼しょうろうが爆散する。


「ーーッツ!ーーッツ‼︎」


 ノリヒラらが何か叫んでいるが、フラギルには聞こえない。

 フラギルの眼前に広がるのは、灰と化し崩れ落ちた王城とその下で繁栄していた街の燃えカス。そして生ける者は勇者たちだけであった。


「ーーカァ‼︎」


 気合一閃。フラギルは降りかかる火の粉を振り払い、燦然さんぜんと輝く目の中に、力なくへたり込む勇者達を映す。

 フラギル・火装形態ブレイズフォームーーこの世に怒りが、地獄が顕現した。


なーんかパンチが足りない気がする・・・

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