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第3話 悪を砕きしモーニングコール

 その石は、随分と長く眠っていた。

 空から降ってきた時から意識はあったのであろうか。

 その石が落ちた所が山になっているのは認識していたのであろうか。

 ともかく、その石は眠っt


「<全属性融合撃剣オールエレメント・クロス・カリバー>ァァァ!!」


ピッカー


「キファァァァァァァァァァァァァァァァ!?」


 ・・・訂正しよう。

 今、朝起きるのが面倒臭いと駄々をこねていたら、カーテンを開けられ、布団を無理矢理に引っぺがされ、太陽の光がオハヨー!!したが如く叩き起こされた。

 制御なしの大音量・超高温の声が、光の本流にかき消されながらも響いた。

 それは、石が目覚め、産声を上げた瞬間であった。







<Side〜勇者〜>

「や、やったぞ・・・ついに俺たちはやっt」


 勇者はこの言葉に今までの旅の全てを込めようとしていた。

 が、しかし


「やっ、やりましたわ!! 私たちやりましたわよメリッサぁぁぁ!!」

「見れば分かります! やはり、祝福されし勇者様の聖剣は素晴らしい・・・いや! もはや言葉では言い表せません!」


 ・・・エリューナ姫が勇者の思っていたことを先に言ってしまった。

 そして、メリッサは、勇者を抱きしめんばかりに両手を大きく広げて走ってきた。


「姫様、私を火葬する気ですか?」

 

 そう言って剣を杖代わりにヨロヨロ歩いてきたのは・・・ガイウス騎士団長だ。

 全身ススにまみれ、その美しく整った顔も黒ずんで見える。

 三人とも絶世の美女、美少女と言っても過言ではない顔立ちである。


「だ、大丈夫・・・なのか?」


 勇者はそう言って心配したけれどーー


「ジ〜〜〜〜〜」


 効果はなかったようだ。

 ガイウス卿は、ジト目で姫を見ている!!


「い、いやですわね!!ガイウス卿!!私、ヒロキ様と貴方の距離が近くて少し、ほんのすこぉぉぉし嫉妬しただなんて、これっぽちも思っておりませんことよ!!オホホホホ」

「それで毎回後ろから撃たれるガイウス卿の身を考えてあげてください。あなた、これで何回目です?」

「100回超えてからは数えるのを辞めたわ!!」

ーーゴッ

「いったーい!! ですわ!?」


 また遠くでメリッサに姫が怒られている。

 エリューナ姫は、パーティー組んだ時からフレンドリーファイアしまくっていた。

 魔力制御はピカイチなのに、なぜであろうか?これは、このパーティーに存在する謎の一つであった。

 勇者は微笑ましい光景を見て、笑みを浮かべながら、聖剣で切り伏せた長の下に近づく。


「ん?」

「どうかしたのか?」


 勇者がふと疑問を覚えると、ガイウス卿が話かけてきた。そして、勇者の視線の先にある魔蟲の長の死骸を見て、


「魔蟲の長は討伐したのだ。さぁ、城に帰って祝勝会をしようではないか!!」


と言った。長の死骸を見ても、何も問題と感じる箇所はガイウス卿にはなかったらしい。

 いや、確かに長は討伐したのかもしれない。がしかし、勇者は


「これ、聖剣の威力にしてはいつもより弱いような気がするんだよなぁ・・・」


と、嫌な予感を覚えた。

 勇者が思ういつもの威力なら、あの真っ二つになってしまった山を消しとばす位の威力はあるはずなのに・・・。

 勇者の心の中にもやもやとした灰色の疑念が生じる。


「その長の巨大な身体で、ある程度減衰したのではないか?」

「属性を聖剣に纏わせていない状態でも切れていたぞ?」


 そりゃあもうスパスパとな〜、と言いつつその代わり、動きは無茶苦茶速かったことに対して勇者は苦笑する。

 そう2人で喋っていると説教が終わったのか、満面の笑みを浮かべたエリューナ姫と、頭を抱えたメリッサさんがこっちに来た。


「ヒーローキーさーまー!! 帰りますわよー!!」


 そう言って、姫は両手をブンブン振り回して勇者に近づいてきた。

 そしてそのまま左腕にしがみつき、グイグイと引っ張ってくる。


「ちょっと待ってくれないか?2人は何か、これを見て何か気づいたことはないか?」


 そう言って勇者は、長の死体を指差す。

 すると、メリッサがハッ、としたように


「聖剣の必殺技を放ったにしては・・・あまり被害が出て・・・いない?」


と言う。

 それに対し、さすがはメリッサさんと言うように、勇者は大きく頷いた。


「そう!! そこなんだよ・・・」


 そう言いつつ、勇者はエリューナ姫の方に顔を向ける。


「それで? 今回はどんなヤバイ所を選んだんだ?」

「し・・・失敬な!前回のゴブリンキング殲滅戦の時は、戦闘の余波で近くに縄張りを持っていたクリムゾン・ドラゴンを起こしただけですし、前々回のエルダーリッチ討伐戦の時は、たまたま近くに大量にいたボム・マンにちょっと引火して、爆発させただけですのよ!? 近くにいる方が悪いのですわ!! 大体、今回は静かな山の麓ですのよ?」


 自分は悪くない、悪いのは周りの環境なのだと言い張る姫。確かに、いつもなら問題ないのだろうが・・・


「なんか、嫌ーな予感がするんだよなぁ・・・。本当に何もないのか?」


 念のため、もう一度エリューナ姫に聞く。


「そう言われましても・・・。平原・・・、草原・・・、近くの街道・・・は違う・・・。」


 両手の人差し指を頭に突き立て、ウンウンと唸っている。


「やはり、山なのではないか?」


 見かねたかのように、ガイウス卿が姫に声をかける。


「山・・・、山・・・、山・・・?・・・あ"」


 姫はカエルが轢き潰されたかのような声を漏らす。

 そしてポツリ、と言った。


「・・・そういえばこの山、王家で特級禁域指定を受けています・・・わ」


 そして、それを受けたメリッサさんが、苦い顔をする勇者に向かって解説した。


「特級禁域指定の山・・・詳しい位置は知りませんでしたが、この山だったのですね・・・。“あの”神隠し山・・・。言い伝えは確か『畏れ見よ、何人たりとも近付くな、己が身を捧ぐ者以外』でしたか? 昔は何かに取り憑かれたかのように、あの山に入って行く者が多かったとか」


 勇者とガイウス卿の表情が凍りつく。

 メリッサが言った言い伝え・・・勇者には、後ろの方は声が小さくて聞き取れなかった。

 なぜ、禁域指定された場所の近くを決戦場にしたのか姫を問い詰めてやりたい!!そんな思いに、勇者は意図せず拳を握りしめる。

 しかし今、これだけは言える。


(嫌な予感がする)

「お家・・・帰りたい」

「全くだ」


 ガイウス卿の首がふるふると振られ、その綺麗な金髪がサラサラと風に揺れた。

この作品を読んでくださり、誠にありがとうございます。

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