フェリー内騒動
エントランスに到着しながらあることを考えていた。
先ほどの、部屋での銃撃戦が起こったはずだというのに何も騒動に発展しなかったということである。
「軍事学校のフェリーだから銃声が聞こえただけでは誰も騒ぎを起こさないって感じなのか?」
などと自己解釈しながら唯一持ち出した部屋割りの紙を見つめる。
そこには小さくだが、防音完備と書かれていた。
「あ、なるほどね」
やはり、軍事学校と言うわけなのだろう。部屋の銃声も外部に漏れることはなかったというあれか。
銃声の音は防音完備だけでそう遮断されるようなものだったかと考えたがそこは軍事学校ならではの特殊な素材を使ったとでも考えよう。
エントランスをより先の方に行くといくつもの椅子が配置されていわゆる、広場のような場所に複数の人が屯していた。
そのどの人も厳つい顔立ちをした者たちであり中には優しそうな顔をしたこの場に似合わない奴もいる。
男女問わず屯し談笑を楽しんでいる様子。
「混ぜてもらうかな」
無駄にオフ会などを経験してる俺はコミュ力だけは高いので近くにいた人に声をかける。手始めに声をかけたのはやせ細った割にはしっかりと筋肉質な体つきをした都会にいそうなチャラい感じの長髪の男子。
「おっす、君も新棟総合軍事学校へ?」
青年は険しい顔つきで眉間にしわを寄せ何やら不穏な空気を醸し出す。
ありゃ?
反応がものすごく良くなかった。
なにやら、後ろから「おい、どうした?」「んだ、このチビ」と二人の厳つい顔に大柄な男子と言ういで立ちの者たちが現れる。一人は鼻にピアスしたドレットヘアーの男、一人はスキンヘッドにサングラスと洋画に出てきそうな悪党キャラバリバリな感じの男。
「いやよぉ、なんか突然この野郎話をかけてきやがって」
「なんかよーがあんのか?」
「あぁ?」
「用と言うか、ココであったのも何かの縁じゃないか。親睦を深めようかと思ったのだけど何かまずかったか?」
恐怖なんてものは特に感じず真面目な顔で彼らに問いただす。彼らは奇妙なものを見る目でみて数秒後、鼻ピアス男から拳が振りかざされた。だが、眼前でストップし拳圧で風が吹き、髪が靡いた。
「すごいな、拳圧で今風が吹いたぞ」
「コイツ……なんだ?」
「おい、馬鹿にかまうな。もう行くぞ」
チャラ男が二人の大柄の男をひきつれて離れて行ってしまった。
どうやら、親睦は失敗に終わった。これ以上追いかけて行ったら逆効果である。
「はぁー、にしても」
すっと周りを見ればこちらの様子をうかがっていたのがバリバリであった。さっとすぐに視線をそらしたような挙動が見えている。
中にはこちらと視線を合わせようとすらしない。
そんな奴に近づくとそいつは逃げて行く。次第に、エントランスに一人だけ残された俺。
マジで避けられてる?
「うそだろ……先行き不安……」
部屋には戻れない、先行きの不安。
こんな状態でやってけるのだろうか。
「親睦はここでなくともできるだろう。娯楽室かなんかないのかな」
壁にある案内図を見ると上の階に総合訓練室なるものが書いてあった。
「んだこれ? 総合訓練室?」
パッ、と軍からイメージして思い浮かぶ訓練と言えば軍隊格闘技の訓練や銃撃訓練など。
そう言った部屋のことをさしてるのだろうか。
「こんなものまでこのフェリーはあるのか。凄いな。軍事学校の新入生がこんなところそもそも使うのか?」
でも、なぜか、妙に興味をそそる。
「行ってみるか」
思い立ったら吉日である。俺は上の階へ向かった。
*******
総合訓練の部屋はくそ広い体育館のような感じであった。その部屋はいくつもガラスの仕切りで3つに分割されてる。
まず最初に入る部屋は射撃訓練、そして次の部屋は総合格闘技など対人をする訓練、最後が多くの筋肉トレーニンググッズがある部屋だった。主にこの3つの部屋で構成された場所。
なにやら、その部屋に到着して不穏な空気に気づいた。
何人もの人たちが中心の部屋対人訓練室に目を向けて見て見ぬふりをしてるような姿。
「ん?」
良く見てみれば先ほどの3人組が二人の小柄な女子を取り囲んでる。
一人の女子は嫌悪感むき出しの表情でめんどくさそうに携帯片手に相手の話を聞き流してる。
その女子はでも、明らかに見るからに美女と言っても過言じゃないスタイルや顔立ちをしている。綺麗な二重瞼や猫のようなつぶらな瞳を眠たげにしている美貌。そして、大胆に開いたワイシャツの襟。
ワイシャツの襟からは見事なスタイルによって強調されてる胸の谷間が見えている。大きくもなく小さくもないちょうどいい感じの胸。手足もモデル並みに長い。
一方。
もう一人はびくびくとびくつきながら彼らにおどおどしている女の子。
その子もかなりの美女。気だる毛な印象の彼女に負けず劣らずなモデルスタイル。そして、アイドルむきなかわいらしい顔。
俺はその状況に関心を持ちもっと、声を聞きとれやすいようにその部屋に入っていく。
4人は俺が入ったことにすら気付かないほどに苛烈していた。
「さっきから、俺様が媚びうって話しかけてやってるのにさっきから――んだよてめぇ! こっちを見ろ!」
「あー、うん、そうだねえー」
「やめてください! さ、さーやに手をださないで!」
「へぇー、じゃあ君が俺らの相手をしてくれるのかなぁ?」
明らかにゲスな態度でなめまわすようにおびえた女を見つめるチャラ男。チャラ男が手を伸ばした時にその手を素早くひっつかんだのは聞き流していた気だるげな印象の女。
「さっちんに手を出したらウチが許さないよ」
「ああん? じゃあてめぇがおれらのあいてするかぁ?」
「なんで? めんどくさいし。それに絶対セクハラするのわかってて組手するわけないし、つか、キモイから近づかないでくださーい」
「な、な、クソアマぁ!」
チャラ男が拳を振るい、女の手から携帯をたたき落とした。それが彼女に火をつけた。彼女が素早い動きでチャラ男の背後にまわり頸動脈を絞めにかかった。
「あぐぐぐっ……」
「これは正当防衛だし、文句はないっすよねぇ、つか、ウチらは特待生ってわかって攻撃仕掛けてるなら笑えるし」
「キャぁああ!」
その時だった。彼女がチャラ男の方に攻撃を集中してたばかりに二人の男の存在を忘れ去っていたことが原因となり二人の男はあのおびえ切った女に手を出し体をはがいじめにし、首元にナイフを当てている。
「今すぐ坊ちゃんを話せ、クソガキ」
「あははは、良くやった、グレイド」
女を羽交い締めにしてるのはサングラスの大柄男だ。やはり、顔にあってゲスな真似をしている。
チャラ男は彼らの雇い主なのだろう。坊ちゃんと言われてるあたりから。
チャラ男は気だるげな印象がある女に「素直に言うことを聞くなら友達は救ってやるぞ、さあ、どうする?」と言いながらも気だるい印象の女は拘束を解かなかった。次第に、グレイドと言われたサングラスの男はおびえ切った女の子のえりにナイフを入れ切り裂いた。かわいらしいピンクのレースのブラジャーがあらわになり、彼女が叫びをあげる。
「さっちん!」
悲痛の悲鳴を上げるギャル風の女性。
そのまま威勢よく言葉を続ける。
「やめさせろ、ウチはあんたの首をこのまま締め上げることができるんす」
「そうか、だったら、俺はお前のダチを嬲ることができるんだぞ」
そう言ってもう一人の鼻ピアスの男がおびえ切った女の前に立ち自らのズボンに手をかけた。
何を行おうとしてるのかだれが見ても明らかだった。
「や、やめろ! わかった。従う。従うっすから」
「ケケッ、じゃあ、まずは俺を解放しろ」
言われたままに気だるい印象の顔がついに瓦解し険しい顔つきでチャラ男を睨みつける。
男はそのまま、女の腹を蹴りつけ叩き伏せた。
そのまま、馬乗りになり抵抗しない彼女を見てにたぁと笑みを浮かべる。
「さぁて、楽しもうぜ」
「そのまえにさっちんを解放しろ。約束っすよ」
「なんのはなしだっけぇ?」
「なっ、ふ、ふざけ――」
女の口元を抑え込みいざという感じで彼の手が彼女の胸に伸びる。もう一方で羽交い締めにされた彼女も同様の行為にされそうになっていた。
その光景を茫然と眺めていた俺は胸糞悪い印象を覚えながら脳内でエロゲーのワンシーンだなーなどと思っている。
ここでならば、主人公に選択肢が出るであろう。
たとえば――
【やめろ! 彼女たちを離せと言いながら助ける】
【その場から離れ誰か助けを呼びに行く】
後者は無駄なことであろう。
見るからに周りにさっきまでいたはずの連中もいつの間にか消え、またしても取り残されたというような状態である。
(あーこりゃぁ選択は1だ。)
手元に握った部屋割りの紙を丸めて手を伸ばそうとしていたチャラ男の頭にポーンと投げ飛ばす。
「ん?」
頭に何かあたる感触で注意が削がれ足元に転がった紙に手を伸ばして広げて見た男。
「かみさきたつや? だれだ?」
「よう、ゲス野郎。そいつぁ俺だ」
「あ? ――ふぶらっ」
顔を上げたチャラ男の顔面にかかと落としをくらわせ後ろにふんぞり返ってくチャラ男を眺める。
その騒動に気づき彼女のスカートをおろしていた鼻ピアスもそのあとの続きをやめこちらに殴りかかってきた。
「あー、見るに見かねて攻撃仕掛けたけど‥‥やばっ」
喧嘩慣れしていない俺には一瞬の隙を作るくらいが限界だった。
もちろん、拳を避ける力などあるはずもなく。
顔面に強烈な一撃をもらい、鼻から血を噴き出させたたらを踏み倒れるのをこらえた。
「てめぇ、昴坊ちゃまをよくもたたきのめしてくれたなぁ?」
「ゴンドウ、そいつはさっきの男だ」
「あ?」
グレイドが俺を見て相棒の男に教えてあげていた。
すると、ゴンドウと言われた鼻ピアスもようやく思い出したのか。
手を叩きながら「あー、お前変人やろうか」と失礼なことをいってくれやがった。
「変人とは失礼だな。初対面には礼儀をもつって母ちゃんに教わらなかったのか? つか、鼻折れたぞこれぇ、慰謝料払えるのか? え?」
ちょっと、威張り倒すけど鼻は痛い。
まじで痛すぎて泣きそう。
「うっせぇ、今殺してやる!」
「殺すって……あははは、アニメじゃないんだからそんな物騒な台詞こういう状況で言うなよ」
などと笑いながらいると、相手はマジなようでナイフを取り出した。
「ちょっと、本気ナンデスカ?」
「死ねやオラァ!」
「うひぃいいいい!」
全力疾走で俺は逃げる。
しり目に彼女ら二人が急いで逃げる姿がうかがえる。
(はー、エロゲみたいにあの二人がヒロインになる―的な展開はないよねぇ。お礼にHなことーとか)
幻想ぶち壊しの状況において命の危機にある。
ああ、もう最悪。
「死にたくねぇえええ!」
「死ねぇえええ!」
数十分ほど走り続けて、だんだんと疲労してくる。
「おめぇなんでそんな早いんだよ!」
「ひぃひぃ、ああー、これでも日課で歩いてますんで」
「意味分からねぇ!」
ゴンドウと呼ばれた男も疲労が見え始めたところで痺れを切らしたグレイドと呼ばれてた男も介入して来た。
「何を手間取ってるんだ」
「ぐえぇ!」
目の前から突然伸びた腕に襟首を掴まれて床に叩き伏せられそのまま首絞めに掛けられた。
あ、意識が遠のいちゃう。
「そろそろ落ちるだろう」
次第にどこぞのお花畑が見えてきた。死んだはずのじいちゃんの姿が見えるぞ。
ここはどこなんだー。
あはは。
「ちょっと、ウチのルームメイト殺されると困るのだけど」
「あん? てめぇなんだ?」
「そこの犯罪者のルームメイト。その犯罪者が何をしたのか分からないけど殺されたら合同演習とか教官への失踪届とかルームメイトいなくなるとそういうことになるんだから困るし面倒なのよ。さっさと解放してくれる?」
「うっせぇ! こっちはおいしいところを邪魔されて気が立ってるんだ! グレイトここは俺に任せろ。相手は女だ、ひんむいてお楽しみを満喫してやるぜ」
なぜか、どこからか女の声まで聞こえるぞ。
「あぐっ!」
「ゴンドウ! 今のはなんだ!? 魔法? 超能力か!?」
「本当はこの力は使っちゃだめなんだけど面倒事になるのは避けたいからさっさと終わらして返してもらうわよ」
「ちっ!」
意識はそのまま、ゆっくりと失われていく。最後にはあのルームメイトの彼女の顔が映っていた。