手加減
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
「なんか、さっきから聞こえね?」
男は言った。
彼はアイアンメイデンのメンバーのひとりだが、名を語るまでもない。
「何がよ?」
廃工場の裏手。
石と錆びた鉄くずが散らばり、背の高い茂みに囲まれている。
外からほとんど死角になるその一角は、“サボる”にはちょうどよかった。
「銃声?」
「は? まさか……花火だろ?」
気だるい口調で数人の男たちが会話を続ける。
手頃なコンクリートブロックに腰をおろした男のひとりは、プカプカとタバコを吹かしている。
「まっ、仮によ? 銃なんて、そんなあぶねーもん使ってんなら、サボって正解じゃね? やってらんねーよな?」
「ぎゃは! 言えてる。アイツはそんなんで死ぬようなヤツじゃねーし。ひとりでやれよって感じだよな?」
アイツとは当然ボスのことを指している。
目のまえではこんな口はきかない。
取り繕い、従順な態度を装う。
だが、裏では大体こんな有り様だ。
ここにいる数人だけではない、大半のメンバーがそうだった。
「てか、おめー? タバコなんて吸ってダイジョーブか? ボコられん?」
ボスは大のタバコ嫌いだった。
「だーいじょうぶだって! 口臭剤あるしよ、バレねーって!」
そう言って病院送りにされたメンバーは数多くいる。
この男も、いつかはそうなるだろう。
ボスは入学して早々、一年生のうちに第八学園をシメた。
誰が仕切っているのか、そんなことは調べもしなかった。
仕切っているのは三年生だろう……そんな単純な考えで全員をボコったのだ。
トップが変わったところで、第八学園の治安は悪化も改善もなかった。
ただ、学び舎であるはずの校舎に設置されていた喫煙所は、あらかた撤去された。
喫煙所といっても、バケツに水を入れただけの簡易的なものだ。
ところかまわず置かれており、教室にまで設置されていた。
それらはすべて消えた。
それはボスの唯一の功績だった。
タァーーーーーン……
タン、タァーーーーン……
「なぁ? やっぱこれ銃声だよな?」
「だな、動画で見たのと似てるっちゃ似てるな」
加えたタバコを吐き捨て、シューズで踏んでもみ消す。
「様子見に行く?」
「はっ? だから、銃だったらなおさらやべーじゃん? なにやる気だしちゃってるの?」
「呼ばれたら行けばいんじゃね?」
「まっ……そーだな」
結局のところ、彼らにとっては他人事だった。
この決闘は宿敵である、亡霊を討ち取る、意義のあるものだ。
すくなくともボスはその名目を用意してある。
だが、彼らにとってそんなことはどうでもいいことなのだ。
ボスにボコられたくはないから、やっている“フリ”だけは見せる――ボスの“前”でだけは。
「なぁ?」
「ん?」
「俺にも一本くれねー?」
「えぇ?」
「いいだろ! あした返すってっ!」
「……ほらよ。絶対かえせよ? 倍な?」
男は座ったまま制服のポケットをまさぐる。
くしゃくしゃに潰れた紙箱を差し出す。
「さんきゅー」
遠くの銃声に混じって、カチカチとライターの音が響いた。
*
ドン! ドンッ! ドンッ!
「ひぃーーーー!」
スリング男は諸手をあげて逃げていた。
その足跡を追うように、地面には弾痕が刻まれていく。
「やめろやめろっ! 撃つなぁ~っ!」
彼は建物の壁際へ転がり込んだ。
崩れたコンクリートの出っ張りを盾にして、必死で身を縮めた。
弾丸は建物の外から飛来し、外壁のスチール板を貫通して内部へ撃ち込まれていた。
だから、どこから撃たれているのかハッキリとはわからない。
外から撃たれている。その程度しか把握できていなかった。
「ひぃ~! ひぃ~!」
逃げ込んだ遮蔽が射線を切っているのかどうかすら、判断できない。
「はぁはぁ……」
影に隠れてガタガタ震えること、数秒間。
動悸が収まる暇もないほどの一瞬だったが、彼にはとても長い時間に感じられた。
「撃たれてない? 撃たれてないよな?」
射線は切れていた。
《そんなところに隠れていないで出てきなさい。男の子でしょう?》
スリング男の正面でドローンが漂う。
スピーカー越しに、ソフィアの声が響いた。
「う、うるせぇ! だったら撃つんじゃあねぇよ! ババァ!」
《……》
ドォン! ドォンッ!
「ひぃ~~!」
壁越しに二発撃ち込まれた。
だが弾丸は分厚いコンクリートに阻まれ、彼の身には届かない。
「はっ……はははっ! ここは狙えないんだな? ……けへっ! だせぇ! どうしたどうした? ババァ! 撃ってみろよぉ!」
スリング男はソフィアの本体を見てはいない。
二千メートルも離れているのだから当然だ。
それでもババァ呼ばわりするのは、ドローンから響く声に未成年の幼さが感じられないからだ。
加えて、女相手を煽るときの語彙が「ババァ」か「ブス」しかない。
要するに、ガキなのである。
だが、そのガキの「ババァ」呼ばわりは、案外に効く。
ガンッ! ゴン! ガン!
「ぎぃやああああ!」
顔のすぐ横の壁が弾け飛んだ。
弾丸は左耳の先端をわずかに削ったが、直撃はしていない。
頭のすぐ隣に、クモの巣状の穴が刻まれただけだった。
ギャン! ギン! ドゴンッ!
次は股下、わずか数センチの場所。
「ちん……っっ! ぎえぇええっ!」
ソフィアは室内の様子を、ドローンや監視カメラで確認している。
複数のカメラが映す映像、その配置から位置関係までもを把握していた。
だが、狙撃には視覚だけでは足りない。
風向きや湿度、気圧など、弾道を左右する膨大な要素が必要になる。
その情報はスカウトドローンのセンサーでも計測できる。
しかし、簡易的な機器であるため、精度はどうしても悪い。
ソフィアが陣取っているのは市街地だ。
そこには気象予報に使われる高精度なセンサーが、ビル群のあちこちに設置されている。
気温に湿度、風力に気圧――何だってそろっていて、しかも恐ろしく精密だ。
それらのシステムをハッキングし、正確な弾道計算に組み込む。
射程内なら、地面を這う蟻ですら狙撃してみせるだろう。
それだけではすまない。
壁や床に“跳弾”させ、遮蔽物の裏に潜む標的すら撃ち抜く。
分厚い壁の裏に隠れても意味はない。
その結果は、スリング男の“必中”と同じだ。
だが根本は違う。
スリング男は”狙えば勝手に当たる異能”。
ソフィアのそれは、電子機器を自身の脳と接続する異能の“応用”にすぎない。
膨大な情報処理の果てに導き出された、ただの”狙撃”だった。
《どうしたの? 私を“撃て”と命じられたでしょ? 来ないの?》
「うるせぇ! ババア! ババア!」
スリング男は飼い主に命じられていた。
姿を見せない狙撃手を探し出し、討ってこいと。
「おい! とにかくオマエも撃ち返せよ!」
スリング男が隠れる壁の隙間。
そのちょうど反対側にある同じ形の隙間には、バット男も潜んでいた。
「どこにだよ!? 誰に向かって!? オマエに向かってかっ!」
「おい! おちつけっ!」
「うるせぇ! これが落ち着いていられるかっ!」
スリング苛立ちを吐き出す。
彼のパチンコ弾の射程はせいぜい五十メートル。
狙撃手のソフィアは二千メートル先のビルに陣取っている。
たとえ姿を視認できたとしても、その距離では弾が届くはずもない。
対してソフィアの放つフルメタルジャケットは、その距離でも頭蓋骨に風穴をあける威力を持つ。
ズドォーン!
再び壁が弾け飛び、凄まじい衝撃音と粉塵がスリング男の頭上に降りかかった。
弾丸はわずかリンゴ一個分の位置を撃ち抜き、メロン大の穴を穿った。
「ぎぃええええ!」
《残念ね。あなたの異能は悪くないけど……道具が“ソレ”じゃあねぇ?》
例えボクシングチャンピオンでも、ナイフを持った素人は厄介だ。
銃器ともなればなおさらで、立ち向かう意味がない。
この理屈は変異体でも変わらない。
彼らにとっても、銃器は恐怖だ。
スリング男がハンドガンのひとつでも持っていれば、もっと上の立場を得られたかもしれない。
火薬と鉛が生み出す殺傷力に、彼の“必中”の異能が重なれば、脅威そのものだ。
アイアンメイデンのボス……は無理にしても、自分のクランを立ち上げるくらいはできただろう。
だが、それは叶わない。
変異島でも銃器の取り締まりが厳しいからだ。
この島で“強い者が正しい”とされるのは、偶然ではない。
MONOLITHが意図的にそういう秩序を設計しているのだ。
ただ銃をもつだけで強者になれるなら、そんな“つまらない”話はない。
兵器に序列を決められては、“強者同士のぶつかり合い”という舞台が成り立たないからだ。
もっとも、銃器がまったく存在しないわけではない。
ソフィアが手にしている事実が、それを証明している。
つまり、あるところにはあるのだ。
四天王のふたりがまだ生きているのも偶然ではない。
ソフィアが殺さないよう“配慮”しているからだ。
決闘は生死不問であり、過程での殺人を裁く法など存在しない。
それでも撃ち抜かないのは、相手が子供だから。理由はそれだけだ。
その気になれば、こめかみでも心臓でも自由自在だ。
ソフィアと彼らの隔たりは、埋まらない。
最後までお付き合いいただき、感謝です!
「いいね!」と思っていただけたら、高評価をいただけると嬉しいです!
今後の励みになりますので、もしよろしければ……!




