ゴーレム
■ 本作について
本作は 世界観設定・アイディア構築・プロット立案をすべて著者自身が行っており、執筆の補助ツールとしてAIを活用しています。
■ 活用の具体的な範囲
自己規範にのっとり制作という一面はありつつも執筆であることは放棄しない方針です。
興味があればこちらをご覧ください→ChatGPT活用の具体的なイメージ[https://note.com/makenaiwanwan/n/nc92cf6121eb3]
■公開済エピソートのプロットを公開中
「主体性・創造性・発展性・連続性」を確保している事の査証が目的です。
https://editor.note.com/notes/n52fb6ef97d70/edit/
■ AI活用の目的とスタンス
本作は 「AIをどこまで活用できるか?」を模索する試み でもあります。
ただし、創作の主体はあくまで自分 であり、物語の本質やキャラクターの感情表現にはこだわりを持っています。
また、すべてを自身の手で執筆される方々を心から尊敬しており、競合するつもりはありません。
岩と鉄の塊が、多胡を見下ろしていた。
身長は三メートルほどか。その巨体が通った痕跡は、天井にいくつも残っている。
教室の中心には机や椅子を折り重ねて作られた、即席の“玉座”がある。
ボスは深々と背をもたせかけ、脚を前に投げ出して座っている。
その両足を支えているのは、数人の生徒たち。四つん這いになった彼らの背が、まるで足置きのように扱われていた。
顔を真っ赤に染め、今にも崩れそうなその姿から、彼らが背負う“重さ”が嫌でも伝わってくる。
(一限から六限まで全部が自習……? なんだそれ……)
黒板の隅、時間割の欄にはナイフで刻まれた“自習”の二文字。
その一部だけが、かろうじて原型を留めていた。
それ以外の箇所は、カラースプレーによる無数の落書きで塗り潰されている。
ところどころには塗料ではない“何か”による、ドス黒く変色した汚れが残されていた。
『キミのこと“殺す”けど言い訳ある?』
まるでバケツを被ったまま喋っているような、くぐもった声だった。
性別すら判別できないその響きは“本気”の殺意を帯びている。
多湖は玉座の奥、黒板に視線を逸らして現実逃避していた。
だが、向き合わなければならない。
ギャングクラン“アイアンメイデン”のクランマスター、自分自身のボスと。
唯一の救いは、ボスのほうから“言い訳の機会”を与えてくれたことだった。
最悪のパターンは、言葉を発する間もなく、ただ一方的に潰されること。
今はまだ、口を開く余地がある、それに賭けるしかない。
多湖はR.I.N.Gを嵌めた右腕を強く握りしめた。
切り札となる“あの写真”はすぐさま提示できるように、お気に入り登録してある。
写真を見せ、全ての責任を世羅に被せる。
一発逆転――そう決めて、彼は口を開いた。
「ボスっ! 実は――」
ドゴンッ!
突然、“足置き”の一人が宙に跳ね上がった。
ズゴンッ――ドサッ……。
ボスの太い脚が、男の胴を蹴り上げたのだ。
天井で跳ね返り、床へと落下した男はそのまま動かなくなる。
ボロ雑巾のように伸びきった男の口からは泡が溢れ、白目を剥いていた。
『なに勝手に喋ってるの?』
ボスは、人の形をした“何か”だった。
岩と鉄が幾重にも折り重なり、歪な人型のシルエットを持つ。
全身は鉱物と金属の装甲に覆われ、ただの一部にも“柔らかさ”は見当たらない。
頭部と思しき位置には、虚無のようにぽっかりと空いた、二つの穴があった。
目に当たるはずのその穴は、覗き込めば吸い込まれそうな深さを持ち、底知れない沈黙を宿していた。
(~~ッ!! だめこいつっ、話が通じる相手じゃない!!)
多胡は目を見開き、絶句した。
"変異型:ゴーレム”ーー淫魔や鬼と同じく希少な変異体で、“中身”は人間の姿をしているとされる。
だが今その体は、“異能:着岩”によって、岩と鉄の“鎧”に包まれていた。
とはいえ、それは防御のための装甲ではない。
筋肉の延長として構築された、圧倒的な質量と可動性を兼ね備えた“第二の肉体”。
その巨体は半トンに達すると言われながら、まるで人の体のように滑らかに動く。
硬く、強く、速い――“生きたパワードスーツ”。
『じゃまっ』
ドンッ!
ボスが脚を軽く払った、その瞬間。
“足置き”の一人が横へ跳ね上がり、教室の外まで転がって消えた。
まるで小石を蹴るような無造作な動き。
そのまま、巨体がゆっくりと前傾する。
椅子に座ったまま、ボスは上体をぐっと前に倒し、虚ろな“目”を多胡の目の前に突きつけた。
『言い訳しないの?』
「!?」
もちろん、多胡が口を開けば殴られる。
その“理不尽”に彼は気づいていた。
だからこそ、口を開くことはしなかった。
ボスは話を聞きたいわけではない。
ただただ、多胡を“いたぶる”こと。それだけが目的なのだ。
周囲でニヤニヤと見守っているギャングたちへの、見せしめとしての意味もあるのだろう。
“逆らえば、こうなるぞ”という威圧。
不良たちを支配し、クランマスターとしての地位を保つには、それも必要なのかもしれない。
だが、“アイアンメイデン”のボスに限って言えば、それだけでは済まない。
ガラッ!
突如、教室の扉が開いた。
「ボス! 焼きそばパン買ってきましたっ!」
『……』
ボスはパシリに一瞥もくれず、無言のまま左腕を差し出した。
女の胴ほどもある岩の塊。丸太に五本の指が刺さっているような、不気味な形状だった。
「へへっ、焼きそばパンは人気なんで……ボスのために、二、三人ぶっ飛ばして買ってきましたっ! 押忍っ!」
ガシッ……メキメキメキッ!
「いてぇっ! ボスぅ、腕が、腕がぁ……!」
渡そうとした焼きそばパンごと、パシリの腕が握り潰される。
『なにこれ? ボク、急にメロンパンが欲しくなったんだけど』
「そ、そんなの聞いてねぇよ! 離せっ、マジでっ、離せってば! 腕が、腕がぁ!!」
『言わなくても察しないと。キミはボクの“所有物”でしょ? それくらい“当然”だよね』
メキメキメキィィッ!
『“所有”ないよ。キミみたいなゴミクズ』
ボギンッッ――ブンッッッ!
骨が折れる音とともに、パシリは勢いよく投げ飛ばされた。
教室の奥、校庭側の壁に空いた穴をすり抜け――音もなく、視界から消えた。
理不尽、圧倒的な理不尽。
「あ……あああ……あぁ……」
多胡はすっかり腰を抜かしていた。
逃げるどころか、立ち上がることすら叶わない。
『キミ。多胡って言ったっけ? “アイアンメイデン”はボクの“所有”なの。キミのじゃないよ? 何で勝手に動かしたの?』
やはり、それが要件だった。
連行される間、心の中で何度も反芻していた“言い訳”を、今どうにか口にしようと、必死にもがく。
『言い訳ある? ないなら、“殺す”けどいいよね? ……まあ、あっても“殺す”けど』
多胡は口をパクパクと開いた。
だが、言葉は出ない。涙がこぼれ落ち、小便さえ漏れていた。
家を出る前にトイレに行っていなかったら、今ごろ床は水浸しだ。
目の前の“それ”――ボスの頭部に空いた、あの二つの虚ろな穴に、身体ごと吸い込まれそうな感覚。
理不尽だ。ただそれだけが、今の現実だ。
岩と鉄をまとった“理不尽”が、三メートルの巨体で、目の前に立っている。
『何も言わないの? 口ついてる? うんまぁ、別にいいけど』
ボスが両腕をゆっくりと振り上げる。
『じゃあ、“死のう”か?』
「ひぃっ!!」
その瞬間、多胡は身を庇うようにR.I.N.Gを掲げた。
「あっ! あ……あぅ! あうううぅ……!」
多胡は、声にならない声を喉から漏らした。
R.I.N.Gが展開したホロパネルには、あの一枚、世羅の姿が映し出されている。
ボスは両手を振り上げたまま、その写真をじっと見つめていた。
(ひっ……ひっ……! ママぁ……! ママぁっ!!)
多胡の脳裏には、もはや母親の顔しか浮かばない。
念仏のように繰り返される心の声は、彼が“死ぬ覚悟”を決めた証だった。
『これは何?』
ボスが静かに問う。
『この“男の子”が、どうしたの?』
その声は、妙に澄んでいた。
ホロパネルに映る世羅の姿をじっと見つめ続けている。
「ひぃ……!」
『ボク、キミに質問してるよ? この“男の子”が何? キミとどんな関係なの?』
問いは、穏やかな声で続く。
けれどその言葉には、冗談も猶予もなかった。
「こ……こいつですっ! こいつ、女に見えるけど、じ、実は男で……!」
脇に控えていた側近っぽい男が、慌てて口を挟んだ。
「おい多胡っ! 何を訳のわからん――ぶげらっ!!」
ドガァンッ!!
ボスは一瞥すらくれず、左腕を横に払っただけだった。
殴られた側近は人型の穴を壁に残し、校庭へと吹っ飛んでいく。
『いまボクがコイツに質問してるの。邪魔しないでくれる?』
静かに、けれど冷たくそう言い放つ。だが、側近の姿はもうどこにもなかった。
「こいつですっ! こいつなんですっ! こいつかもっす! ギャング狩りの犯人は、たぶん、きっと……もしかすると、ひょっとすると……ひぃぃっ!」
恐怖に引きつる顔のまま、多胡は語尾を尻すぼみにしていく。
『……』
ボスの頭部に空いた二つの“虚空”が、淡く光った。
『この子の名前は? キミにとって、この子は何?』
「ひ……せ、世羅悠希……お、俺の同級生ですっ!」
『ふ~ん……そうか、そうなんだ』
一拍の沈黙。ボスが何かを考えている。
『多胡くん』
「ひぃっぃぃ!!」
両肩に、ズシリとボスの両手が置かれる。
その重みに多胡の膝が悲鳴を上げ、体がずぶずぶと沈み込んだ。
『よくやった!』
「……え?」
『つまりキミは、“亡霊”の正体を突き止めたってことだよね!? スゴいじゃないかっ!』
「え、えええ?」
『“亡霊”は女だと思っていたけど! 女顔の男だったとはね! なんてミスリードなんだ!』
事態が理解できない多胡をよそに、ボスは振り返り、周囲に声を張り上げる。
『おいキミたち! なにボケっと突っ立ってるわけ!? 多胡くんに椅子とお茶を用意して! 彼は我が“アイアンメイデン”の宿敵を見つけ出した英雄なんだよ!?』
命令を受けたギャングたちは顔を見合わせ、明らかに困惑していた。
それでもボスの言葉には逆らえず、慌てて多胡のもとへ、椅子とペットボトルを運んできた。
『ねぇ多胡くん。キミはどうしたらいいと思う?』
「はへ?」
『この世羅……悠希だっけ? この男にはたくさんの仲間がヤラれちゃってるんだよ? どうしたらいいと思う?』
「ど、どうって……」
『答えな。どうしたらいいと思う?』
三メートルの巨体から放たれる圧が、多胡の思考を一点に収束させていく。
まるで、正解が一つしかないかのように。
「えっと……ボコす……?」
『それだけ?』
「ひぃ! は、半殺し……?」
『それで済ますと思ってる? キミがそうなりたい?』
「ひぃぃ! 解らないっ! 解りませんっ!!」
『仕方がないなぁ』
ボスは立ち上がった。
その巨体が動くたび、教室全体に圧が走る。
ゴンッ――!
天井に頭がぶつかるが、気にも留めない。
そのまま歩き出すと、教室の壁へと向かって拳を振りかぶった。
ボゴォーーーンッ!!
瞬間、校庭側の壁が爆音と共に砕け、粉塵を撒きながら大穴が開く。
ボスはその開口部に立ち、外の光を背に振り返った。
『彼はボクの“所有”に手を出したんだよっ? 許されることじゃあないよ!』
日差しが岩と鉄の装甲に反射し、ボスの全身をキラキラと照らす。
逆光に包まれたその姿は、まるで神話に登場する巨像のようだった。
ボスは教室に向けて両手を大きく広げる。
『だったら“決闘”でしょ! 彼自身、彼の持ちもの、彼の全てをボクが“所有”するっ!』
自分に酔っているかのように、誇らしげに両手を掲げる。
『戦争だよキミ達っ! “アイアンメイデン”を全員集めろっ! これは“絶対命令”だよっ!』
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