09:11 ミミカ
ミミカが起床する頃には、あのエセ忍者のようなNPCは姿を消していた。
ずいぶんと深い眠りに陥ったようで、彼女の口元から垂れてカピカピに乾燥したヨダレの跡が物語っていた。
寝込みは襲われなかったかーー、ー、と意識がぼーっとした状態でよからぬことを期待するミミカ。こんな死と隣り合わせのような空間でも発動する辺り、人間の身体は欠陥だらけだなと苦笑する。
幸いにもすずらん畑の付近に敵と思しきクリーチャーや野盗も存在しなかった、あるいはヤグラと名乗ったNPCが守ってくれたのか。
どちらにせよ、とミミカはぼーっとする頭を掻きながら川の流れる方向へと歩いていた。
「ん、ん、」
川の水で口の中を潤す。目が覚めた直前に飲む水が一番うまいのはどうしてなのだろうか。明らかに清涼感というか、全身に染みわたる感覚がたまらない。寝ている間に飛んだ水分を、細胞の隙間にまで行きわたらせるというのだろうか? だとすれば、水は無味だが、むしろ全身で味わう飲料なのかもしれない。
とすれば、わざわざ遠いスーパーや通販でおいしい水を買ったり、ウォーターサーバーを設置する家が増えるのも頷ける。
「…………2日目のネクストか」
ミミカの腰に差してあった剣の存在に気づく。鞘の先までずっしりと重く、どれほどの人間の魂を吸収してきたか分からない剣。あるいは、これからたくさんの命を刈り取るかもしれない無垢な刃である。
『1人目』を殺してから数時間経過するが――どうしてだか昨日のことを忘れかけていた。
ミミカは勝ったはずだ。だけど何に勝ったのかをあまり覚えていない。
確か相手は男だった気がするが――顔に霧がかかって思い出せないのだ。
「妙だな……」
サバサバとしている性格のミミカは、しかし欠落した記憶は戻ってこないと割り切って静かに立ち上がった。
今日はこれより南方に位置する時計塔へと向かう。
そこで何か進展のようなものがあればいいが――と軽薄な希望を抱きながらも進むしかないと、自分に言い聞かせながら歩み続けた。
目に見えるものが真実とは限らないこの世界で、ミミカはずっと冒険し続ける。断片的な記憶もまた、回収すれば一つの物語として完成する。
パズルのピースを無くしたとき、だいたいはその会社に連絡すれば代理のピースを発送してくれるのだ。だが、未完のままが美しいという感性をもつ人間も多少は存在する。1ピースが欠けたパズルを窓に飾ると、その隙間から差す光はどこか神聖で、見つめているだけで吸い込まれそうになる。
そして――そのパズルは未完のままだからこそ美しいと。
誰が言うまでもなくそれは、自分が決めることなのだ。




