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異世界症候群は死の夢さえも殺せない  作者: 凡人a
二日目 からくり仕掛けの時計鳩
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06:13 【それ】について

 カチ。

 目覚ましを止め、ナミダをこの世界にログインする。

 ぼんやりと目を擦って、たっぷりと露の吸った霧深い空気を吸い込んだ。


「ん、ああ……と」


 ぽりぽりと頭を掻きながら、ゆっくりと半身を起こす。小さな木の枝や葉を払いのける。周囲を見渡すと、自分の体積よりも大きな鼻提灯を作りながら爆睡するルルゥの姿があった。


「ああ、そっか。昨日は繧ォ繧ィ繝を殺して、それで」


 闘技場は地中に埋まっており、開閉するドームのように天井が開いた。そこから機械仕掛けの階段が降り、昇降が可能となったのだ。そこからルルゥと一緒に外を出ると少しだけ世界は綺麗になっていた。

 しばらくそのまま歩くと、遠くに城が見えた。

 どうやら地図で言うところの北東の方に位置しており、緩やかな山道の中腹あたりで野宿したのだ。


 朝という概念は自分の身体を構築するために必要な通過点である。最も無防備な時間は眠っている間だと言うが、ナミダはそんなことはないと考える。睡眠するということはつまり、点と点を繋ぐだけの単純作業なのだ。寝ていることを証明するのは不可能であるから。たとえ自分が寝ている姿を録画しても、それは第三者が創り上げた光景なのかもしれない。家族に「よく寝ていた」なんて言葉も本当に信じていいのか分からない。

 とすれば、寝るということは恐怖だ。

 点と点を繋ぐ間は死んでいるようなものだから。

 死か、睡眠かを証明することができないという恐怖。

 怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 だからその気を紛らわすために『夢』を見るのだ。

 不可能な証明から逃避するために実在しないまやかしを追い続ける都合のいい『夢』を。


 バチンと音を立て、ルルゥの鼻提灯が弾ける。「むにゃむにゃ」と眠たげな声を上げると、ひどく落ち込んでいるナミダの姿が朝一番に目に映る。


「……おい、大丈夫かおまえ?」


 ルルゥに声を掛けられ、ナミダは後ろ首に刺さったコードを引っこ抜かれたような感覚に陥った。


「うん、僕はまったく問題ないよ、まったくね」


 ナミダは強がっていた。脳裏にびっちりと焼き付けられた、繧ォ繧ィ繝の命が消滅する瞬間。そのトドメを自分がやった。藁人形を打ち付けるように、あの光景が忘れたくても忘れることができなくて身震いする。

 軽かったんだ、すごくすごく、軽かった。



XXXXsoft [Version XX.XXXXX.XXXX]

(c) XXXXsoft Corporation. All rights reserved.

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「ま、とにかくだ。元気出せよ……。今はあの異端審問官が面倒見てくれているんだ。おまえがもっと強くなればあの子を生き返らせることだってできるかもだろ」

「僕のスキルが使えなくなったのには何かしらの理由があるはずだ。昨日までは使えたんだ、急に使えなくなっても困るからさ」


 真っ白な珍獣はぴょん、とナミダの頭、特等席に乗る。何度か頭皮をフミフミした後に箱状になるよう脚を折り曲げて、ご機嫌な感じで座った。


「それなんだが、オレさまは全然魔法使えるぞ。お前や勇者候補に掛かったデバフなのかもしれねーな」

「そうなのか、ずるいなぁ。とにかくしばらくの間は僕の能力は使用できないからルルゥ頼りだなー」

「マジかオレさまかよ! んんー、まぁ仕方ねえなー。『死』は使えるのか?


 ナミダは目的地も不明のまま歩き始める。なんとなくだが峰の頂点からも見下すことができる王城に向かっていた。遠くからでも見える塔が2つ聳え立っており、堅牢な城壁も少しだけ見えたが霧がやはり濃く、たいまつが壁に備え付けられていたのでそれが目印となる。

 だいたい1時間半ほど歩くとたどり着いた。

 巨大な城門はいくばくかの騎士団員が列を為して通ったり、馬車や車も2台以上すれ違えるほどに広かった。城門の手前には甲冑を着た門番が二人ほど待ち構えており、タダでは通さないという雰囲気をひしひしと感じた。


「すっっっご、シンデレラ城にもここまで近づいたことないよ! 本物はもっと迫力あるなぁ!」

「ネクスト王国城下町もこの城壁内に入ってるし、なにより王国騎士団員、団長のお膝元だからな。規模がまったく違うぜ」


 少し手前で見ているだけでも見上げてしまうほどの巨大な城門に、ナミダは固唾を呑む。いつでも門から入っていいものだろうか、それともスーパーが開店10時まで待ちぼうけなのだろうか。


「あのー」


 女性の声がして、ナミダは後ろを振り返った。そこには――




「はじめまして、こんな場所にどうされたんですかー?」




 その人物のことを、ナミダは知っている。この世界に転生した際に、一番最初に目が合った女性。ウルフにたれ目、泣きぼくろ。アーマープレートは脱いでおり、緩やかなボディラインがぴっちりと見える衣装に変わっている。


「え、あ、う、い、え、ぼ、僕に言ってます?」

「んーっと……それ以外に誰もいないように見えますが――」


 再会できたことに少し運命を感じる反面、陰キャな一面を余すことなく態度で表してしまい後悔する。


「そ、そうですよねあははは、お姉さんも勇者候補なんですか?」


 しまった、どう考えてもそうだろうよ。人のことを見た目で判断できるほどのご身分ではないが、少なくとも今風な雰囲気の女性にそんなことを言うなんて。後悔の荒波に巻き込まれ、抜け出せない。ツイートした内容を書き換えることができないように、自己の発言で事故り続けては印象が悪くなる一方だ。

 だが、お姉さんはにこっと屈託のない笑みを浮かべ、


「そうね、そうだと思います。……ということはあなたもそうってことよね?」


 恋人いない歴=年齢のナミダがこんな状況でなければ一発で惚れてしまいそうなほどの優しい声で、そう応えてくれた。


「そう、ですね。昨日いろんなことがあって落ち込んでますけど――」

「昨日みたいなことがあれば誰だって落ち込むと思うよ。着いて来て、そこで火を起こしたから暖をとりましょう。朝のこの世界は寒すぎるから」

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